注記表(財務諸表)の書き方【建設業】
注記表は、財務諸表を構成する書類の1つです。内容が複雑なのでポイントを押さえて解説します。
今回は前回に引き続き、架空の会社の財務諸表を一から作成するのは困難なので、手引書に記載されている財務諸表例を解説する形式で記事を進めます。
この記事は「架空の建設業者を想定して、実際にロールプレイ形式で申請書類を作成する」という企画の第15回目です。
なお、前提条件は第1回から変化ありません。
まずは、以下の第1回の前提条件を確認してからこの記事を読み進めることを推奨します。
①:【建設業】申請書書類作成演習:①許可申請書
また、これまでのアーカイブは以下のリンクから参照できます。
閲覧書類編:閲覧書類【建設業】 アーカイブ
確認書類編:確認書類【建設業】 アーカイブ
目次
- 1 1 注記表の概要
- 2 2 注記表の作成要領
- 2.1 前提
- 2.2 1 継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況
- 2.3 2 重要な会計方針
- 2.4 3 会計方針の変更
- 2.5 4 表示方法の変更
- 2.6 4-2 会計上の見積
- 2.7 5 会計上の見積の変更
- 2.8 6 誤謬の訂正
- 2.9 7 貸借対照表関係
- 2.10 8 損益計算書関係
- 2.11 9 株主資本等変動計算書関係
- 2.12 10 税効果会計
- 2.13 11 リースにより使用する固定資産
- 2.14 12 金融商品関係
- 2.15 13 賃貸等不動産関係
- 2.16 14 関係当事者との取引
- 2.17 15 一株当たり情報
- 2.18 16 重要な後発事象
- 2.19 17 連結配当規制適用の有無
- 2.20 18 その他
- 3 最後に
- 4 併せて読みたい記事
1 注記表の概要
注記表の目的
注記表は、貸借対照表、損益計算書及び株主資本等変動計算書により会社の財産または損益の状態を正確に判断するために必要な事項を記載します。そのため、該当しないものや重要事項でないものは省略することが可能です。
また、注記表は会社形態によって記載事項がそのものが異なります。
記載事項
注記表の記載事項は以下の通りです。
株式会社 | 持分会社 | |||
会計監査人 設置会社 | 会計監査人なし | |||
公開会社 | 株式譲渡 制限会社 | |||
1 継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況 | 〇 | × | × | × |
2 重要な会計方針 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
3 会計方針の変更 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
4 表示方法の変更 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
5 会計上の見積の変更 | 〇 | × | × | × |
6 誤謬の訂正 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
7 貸借対照表関係 | 〇 | 〇 | × | × |
8 損益計算書関係 | 〇 | 〇 | × | × |
9 株主資本等変動計算書関係 | 〇 | 〇 | 〇 | × |
10 税効果会計 | 〇 | 〇 | × | × |
11 リースによる使用する固定資産 | 〇 | 〇 | × | × |
12 金融商品関係 | 〇 | 〇 | × | × |
13 賃貸等不動産関係 | 〇 | 〇 | × | × |
14 関係当事者との取引 | 〇 | 〇 | × | × |
15 一株当たり情報 | 〇 | 〇 | × | × |
16 重要な後発事項 | 〇 | 〇 | × | × |
17 連結配当規制適用の有無 | 〇 | × | × | × |
18 その他 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
フォーマット
注記表のフォーマットは以下の通りです。
2 注記表の作成要領
前提
- 注記事項は貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書に直接記載することが出来ます。この場合は注記表の当該部分への記載は必要ありません。
- 単位は千円です。しかし、会社法上の大会社は百万円で表記できます。この場合はフォーマット記載の単位を百万円に書き換えて下さい。
- 該当がない事項は「該当なし」と記載します。
- 貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書の特定の項目に関連する注記については、関連を明らかにして記載します。
1 継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況
事業年度の末日において、会社が将来にわたり事業を継続する前提に重要な疑義を生じさせるような事象・現象(売上高の著しい減少、債務超過など)が存在する場合であり、当該事象・現象を解消・改善するための対応(借入金の返済期限の調整など)をしてもなおその前提に関する重要な不確実性が認められる(借入金の返済期限の調整が難航している時など)ときに、以下の事項を記載します。
ただし、当該事業年度の末日に重要な不確実性が認められなくなった場合は記載を要しません。
- 当該事象・現象が存在する旨、その内容
- 当該事象・現象を解消し、または改善するための対応策
- 当該重要な不確実性が認められる旨及びその理由
- 当該重要な不確実性の影響を貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書に反映しているか
2 重要な会計方針
(1)資産の評価基準及び評価方法
有価証券や販売用不動産の評価法を記載します。
有価証券であれば、売買利益を狙うのか長期保有を狙うのかで保有目的が変わります。なので、目的によって評価方法を変更します。
売買利益型ならば期末時の時価で評価する「時価法」、長期保有型なら取得の度に平均値を出す「移動平均法」が一般的です。
販売用不動産であれば、個別法による原価法(各不動産個別に取得時の原価で評価すること)が一般的です。
注記表においては、該当する場合は前回から変化がなくとも記載を省略することはできません。
(2)固定資産の減価償却の方法
有形固定資産と無形固定資産の別に、定額法(毎年一定額が減少する)か定率法(毎年一定率が減少する)のどちらを採用しているのかを記載します。有価証券や販売用不動産の評価法を記載します。
有価証券であれば、売買利益を狙うのか長期保有を狙うのかで保有目的が変わります。なので、目的によって評価方法を変更します。
売買利益型ならば期末時の時価で評価する「時価法」、長期保有型なら取得の度に平均値を出す「移動平均法」が一般的です。
販売用不動産であれば、個別法による原価法(各不動産個別に取得時の原価で評価すること)が一般的です。
注記表においては、該当する場合は前回から変化がなくとも記載を省略することはできません。
(3)引当金の計上基準
貸倒引当金、賞与引当金、退職給付引当金、修繕引当金などの引当金を採用している場合は記載します。
また、引当金は一般債権、貸倒懸念債権(経営破綻していないが経営に重大な問題がある)、破産更生債権(実質経営破綻している債権)の別にそれぞれ計算法を記載します。法定繰入率を採用するのが一般的です。
注記表においては、該当する場合は前回から変化がなくとも記載を省略することはできません。
(4)収益及び費用の計上基準
完成工事高、完成工事原価の認識基準、決算日における工事進捗度を見積るために用いた方法を記載します。また、その他の収益・費用の計上基準について記載します。
一般的には工事完成基準(全て完成し引渡日に収益が確定)、工事進行基準(完成していなくても進捗度に合わせて収益が確定)、部分完成基準(一部完成し一部引渡日ごとに収益が確定)のどれかになります。
注記表においては、該当する場合は前回から変化がなくとも記載を省略することはできません。
(5)消費税及び地方消費税に相当する額の会計処理の方法
税込みか税抜きかを記載します。なお、ここで選択した方法により申請書類全ての金額の集計方法として採用されます。
注記表においては、該当する場合は前回から変化がなくとも記載を省略することはできません。
(6)その他貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、注記表作成のための基本となる重要な事項
有形固定資産の減価償却を直接法で仕分けした場合、減価償却累計額を記載します。
3 会計方針の変更
会計方針(有価証券の評価基準及び評価方法など)を他の会計方針に変更した場合、以下の事項を記載します。
- 変更の内容
- 変更の理由
- 遡及適用をした場合、当該事業年度の期首における純資産額に対する影響額
- 当該事業年度より前の事業年度の全部または一部について遡及適用をしなかった場合、以下の事項
- イ 貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、注記表の主な項目に対する影響額
- ロ 遡及適用をしなかった理由及び変更の適用方法、適用開始時期
- ハ 当該変更が翌事業年度以降の財産または損益に影響を及ぼす可能性がある場合で、注記することが適切であるときは当該事項
なお、会計監査人設置会社以外の会社は上記4のロとハは記載を省略できます。
注記表においては、記載されることがあまりない項目です。
4 表示方法の変更
表示方法の変更とは、勘定科目を変更したときなどが該当します。
例えば、前年までは「その他」としていた貸付金を「長期貸付金」に独立させるような場合です。
表示方法を変更した場合は、以下の事項を記載します。
- 変更の内容
- 変更の理由
4-2 会計上の見積
会計上の見積とは、将来の発生するおそれのある金額や既に発生しているが具体的金額が不明のものをいいます。
具体的には、貸倒引当金の計上などがこれに当たります。
5 会計上の見積の変更
会計上の見積を変更した場合、以下の事項を記載します。
- 変更の内容
- 変更による貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、注記表の主な項目に対する影響額
- 当該変更が翌事業年度以降の財産または損益に影響を及ぼす可能性がある場合で、当該影響に関する事項
注記表においては、記載されることがあまりない項目です。
6 誤謬の訂正
誤謬の訂正とは、過去の財務諸表に誤記があった場合にそれを訂正することです。
誤謬の訂正を行った場合は、以下の事項を記載します。
- 誤謬の内容
- 当該事業年度の期首における純資産額に対する影響額
注記表においては、記載されることがあまりない項目です。
7 貸借対照表関係
(1)担保に供している資産及び担保付債務
担保に供している資産及び担保に関わる債務は、その別ごと勘定科目別に記載します。
(2)保証債務、手形遡及債務、重要な係争事件に関わる損害賠償義務義務当の内容および金額
各種類別に総額を記載します。だだし、負債の部に計上したものは記載を要しません。
(3)関係会社に対する短期金銭債権及び長期金銭債権並びに短期金銭債務及び長期金銭債務
総額のみを記載します。関係会社別に区分する必要はありません。
(4)取締役、監査役及び執行役との間の取引による取締役、監査役及び執行役に対する金銭債権及び金銭債務
総額のみを記載します。各役員別に区分する必要はありません。
(5)親会社株式の各表示区分別の金額
貸借対照表に区分記載している場合は、記載は必要ありません。
(6)工事損失引当金に対応する未成工事支出金の金額
同一工事の未成工事支出金と工事損失引当金を両建てで表示したときは、その旨及び未成工事支出金のうち工事損失引当金に対応する金額を記載します。同一工事の未成工事支出金と工事損失引当金を相殺したい場合は、その旨及び相殺表示した未成工事支出金の金額を記載します。
8 損益計算書関係
(1)売上高のうち関係会社に対する部分
総額のみを記載します。関係会社別に記載する必要はありません。
(2)売上原価のうち関係会社からの仕入れ高
総額のみを記載します。関係会社別に記載する必要はありません。
(3)売上原価のうち工事損失引当金繰入額
総額のみを記載します。関係会社別に記載する必要はありません。
(4)関係会社との営業取引以外の取引高
総額のみを記載します。関係会社別に記載する必要はありません。
(5)研究開発費の総額(会計監査人設置会社に限る)
研究開発費とは新製品や新技術を開発したときや、改良を行ったときに使用する勘定科目です。該当しない場合は記載しません。
9 株主資本等変動計算書関係
(1)事業年度末日における発行済み株式の種類及び数
各株式の種類毎に総数を記載します。
(2)事業年度末日における自己株式の種類及び数
各株式の種類毎に総数を記載します。
(3)余剰金の配当
事業年度に行った余剰金の配当について、配当実施回ごとに以下の事項を記載します。該当しない場合は「該当なし」と記載します。
- 決議機関
- 配当総額
- 一株当たりの配当額
- 基準日及び効力発生日
(4)事業年度末において発行している新株予約権の目的となる株式の種類及び数
各株式の種類毎に総数を記載します。該当しない場合は「該当なし」と記載します。
10 税効果会計
繰越税金資産(法人税の先払い等)及び繰越税金負債の発生原因を記載します。
11 リースにより使用する固定資産
借主会社がリース契約により通常の売買取引に関わる会計処理を行っていない固定資産について記載します。該当しない場合は「該当なし」と記載します。
12 金融商品関係
ここは金融商品の状況及び金融商品の時価を記載します。
重要性の乏しいものは記載を省略できます。
注記表で記載されることはあまりありません。
13 賃貸等不動産関係
ここは賃貸等不動産の状況及び賃貸等不動産の時価を記載します。
重要性の乏しいものは記載を省略できます。
注記表で記載されることはあまりありません。
14 関係当事者との取引
関係当事者とは、会社またはその役員と一定の関係を持つもののことです。
具体的には、親会社や子会社等がこれに当たります。
記載する場合、関係当事者ごとに記載します。ただし、以下の場合は記載を要しません。
- 一般競争入札による取引
- 預金利息及び配当金の受け取り
- 取引の性質からみて取引条件が一般の取引と同様であることが明確な取引
- 取締役、会計参与、監査役または執行役の報酬等
- その他、当該取引に関わる条件につき市場価格その他当該取引に関わる公正な価格を勘定して一般の取引の条件と同様のものを決定していることが明白な取引
15 一株当たり情報
株式会社が当該事業年度または当該事業年度の末日において株式併合又は株式分割をした場合、当該事業年度の期首に株式併合又は株式分割をしたと仮定し、以下の額を算定します。
- 一株当たりの純資産額
- 一株当たりの当期純利益または当期純損失
16 重要な後発事象
決算日後に発生した会社の財政状態、経営成績及びキャッシュフローの状況に影響を及ぼす会計事象を記載します。
具体的には、主要取引先の倒産等です。
17 連結配当規制適用の有無
連結配当規制を適用している場合は、その有無を記載します。
連結配当規制とは、会社法上の分配可能額(剰余金の配当の上限)を自社ベースで算出した額より、子会社を含めた額で算出した額のほうが少ない場合、その少ない方の額がその会社の分配可能額となる制度のことです。
18 その他
上記1~17の事項以外で必要な事項を記載します。
最後に
今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
次回は、営業の沿革を解説する予定です。
この記事が建設業許可の取得を検討されている方の参考になれば幸いです。
また、この他にも有益な情報を逐次投稿しております。よろしければ他の記事もご覧ください。
投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
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