胎児の養育費:出生前にできる手続きとその限界を解説
子どもが生まれる際、親子関係をどのように法的に確立するかは非常に重要な問題です。
特に、婚姻関係にない男女の間に子どもが生まれる場合、その法律上の父子関係をどのように扱うべきか、多くの疑問が生じます。今回は、胎児認知とその後の養育費について詳しく解説します。
目次
胎児認知とは?
胎児認知とは、胎児の父親が、自分の子どもであることを認める手続きです。
認知を行うことで、生まれてくる子どもと父親の間に法律上の親子関係が発生します。
胎児認知の法的根拠
胎児認知に関する主な法的根拠は以下のとおりです。
(胎児又は死亡した子の認知)
第783条
- 父は、胎内に在る子でも、認知することができる。この場合においては、母の承諾を得なければならない。
(認知の効力)
第784条
認知は、出生の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者が既に取得した権利を害することはできない。
第61条
胎内に在る子を認知する場合には、届書にその旨、母の氏名及び本籍を記載し、母の本籍地でこれを届け出なければならない。
また、胎児は「出生して初めて権利義務の主体になる」(民法3条1項)が、特例として相続や損害賠償請求権においては胎児の段階から権利を持つとされています(民法886条、721条)。
なお、出生の定義は、胎児が母体から完全に露出した状態を指します。
胎児認知の手続き
胎児認知を行う場合、父親が母親の本籍地の市町村役場に届け出を行います。
この手続きが完了すると、受理証明書が交付されます。ただし、この段階では父親や母親の戸籍には胎児認知の事実が記載されません。重要なのは、この受理証明書が胎児認知の証明となる点です。
戸籍や戸籍附票への記載
一部のネット記事では、「胎児認知が戸籍附票に記載される」との誤情報があります。しかし、これは事実ではありません。戸籍附票は住所の変遷を示す書類であり、胎児認知に関する項目は含まれません。
(戸籍の附票の記載事項)
第17条 戸籍の附票には、次に掲げる事項について記載(前条第2項の規定により磁気ディスクをもつて調製する戸籍の附票にあつては、記録。以下同じ。)をする。
一 戸籍の表示
二 氏名
三 住所
四 住所を定めた年月日
胎児の養育費に関するポイント
胎児認知に続いて、多くの方が気になるのは胎児の養育費に関する問題です。法律上、胎児が出生していない段階では養育費の請求は認められていません。ただし、将来の養育費について合意することは可能です。
胎児の養育費に関するポイント
胎児認知が成立した後、次に多くの方が気にされるのは、胎児に対する養育費の問題です。原則として、法的には胎児はまだ「権利義務の主体」とは認められていません。出生して初めてその地位が確立されます。そのため、胎児が生まれていない段階では養育費の請求は認められていません。ただし、胎児が出生後に養育費を受け取ることを条件(停止条件)とした将来の養育費の合意は可能です。
養育費の法的解釈
養育費は、親が未成年の子に対して負う監護義務の一部として位置づけられています。法的な規定は主に以下の条文で定められています。
- 民法766条
「離婚後の未成年の子の監護費用(養育費)については、監護親が非監護親に請求できる」としています。未婚の場合もこの条文を基に、親子関係が成立した際に養育費を請求することが可能です。 - 民法880条
「養育費の増減請求権」を認めています。養育費は長期にわたるため、子どもの成長や親の経済状況の変化に応じて、その額を増減できる仕組みが設けられています。
これらの規定から、胎児の段階では直接の請求は不可能です。しかし、出生後に支払うことを条件として事前に取り決めを行うまでは認められます。たとえば、「出生後、月額○万円を支払う」といった内容を公正証書にまとめておくことで、出生後のスムーズな養育費支払いを実現できます。
定期金給付としての対応
胎児の段階でも、養育費とは異なる形で「定期金の給付」を合意することは可能です。この場合、法的には「扶養義務」としての支払いではなく、単に契約に基づく金銭の支払いという性質を持ちます。ただし、これには以下の点で養育費と異なる特性があるため、注意が必要です。
1. 養育費としての特典が適用されない
養育費には以下のような便宜が図られています。しかし、定期金給付の場合はこれらが適用されません。
- 差押え禁止の特例(民事執行法151条の2)
養育費は子どもの生活維持のために不可欠とされ、差押え禁止債権の対象となりますが、定期金給付にはこの保護が適用されません。 - 増減額請求(民法880条)
養育費は親の経済状況や子どもの成長に応じて増額・減額が可能ですが、定期金給付の場合、あくまで契約内容に基づくため、増減の請求権がありません。
2. 強制執行の困難
養育費の場合、公正証書が作成されていれば、強制執行手続きによって未払い金を回収することができます。一方、定期金給付の場合は、契約に基づく民事上の請求権として扱われるため、支払いが滞った場合には別途訴訟を提起する必要があり、回収までのハードルが高くなります。
3. 養育費と同等の社会的保護が受けられない
養育費は家庭裁判所や行政手続きでもその権利が強く保護されていますが、定期金給付の場合はこれらの支援を受けることができません。
胎児認知後の合意内容の工夫
胎児の段階で定期金給付を合意する場合でも、将来のトラブルを防ぐために以下のようなポイントを取り入れるべきです:
- 公正証書の作成
公証役場で法的効力を持つ文書を作成しておくことで、相手方に合意内容を守らせる圧力を持たせることができます。 - 明確な条件の記載
「出生後、認知された場合に養育費として切り替える」など、合意内容の条件を具体的に記載しておくことで、後のトラブルを回避できます。 - 受理証明書の取得
胎児認知を行った際に市町村役場から発行される受理証明書は、公正証書作成や法的手続きの際に必須となるため、確実に取得しておく必要があります。
まとめ
胎児の段階での養育費請求は認められていませんが、出生後の養育費支払いを前提とした合意や、養育費とは別の形での「定期金給付」の合意は可能です。ただし、定期金給付には法的な保護が養育費よりも弱い点に注意が必要です。
また、胎児認知を行った場合でも、認知の事実が戸籍に記載されるのは出生後となります。そのため、認知を証明するための「受理証明書」は必ず取得しておきましょう。これらの手続きは、胎児の将来にわたる権利を守る上で非常に重要です。出生後の養育費やその他の扶養義務をスムーズに進めるためにも、正確で詳細な合意を行い、公正証書などの形で記録に残しておくことをおすすめします。
最後に
今回は胎児認知の方法と養育費に関して解説しました。
今回は以上で終わります。
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この記事が民法について学びたい方の参考になれば幸いです。
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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
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