砂川市猟銃所持許可取消事件の第2審解説~裁判所の判断と核心的な論点~
日本における銃砲刀剣類の所持規制は、世界でも非常に厳しい基準を持っています。
その中で、ライフル銃の所持許可取消事件は、法律の適用範囲や行政の裁量がどこまで認められるのかという点で注目されています。今回は、前回の解説記事に続き、この事件の背景や裁判所の判断、特に行政の裁量権を逸脱したかどうかという核心部分に迫ります。
【判例 令和6年10月18日 札幌高等裁判所 第2民事部】
前回の解説記事:ライフル銃所持許可取消事件の詳細解説 - 熊谷行政書士法務事務所 広島市
目次
事件の背景と経緯
ヒグマ駆除と発射行為の発端
本件は、北海道公安委員会がある男性(被控訴人)のライフル銃所持許可を取消した処分に対し、その取消しの適法性が争われたものです。被控訴人は猟友会の支部長として活動し、ヒグマの駆除要請を受けてライフル銃を発射しました。
発射行為時、被控訴人はヒグマの背後に高さ約8mの土手が存在していると判断していました。また、当時の現場には警察官も立ち会い、発射について特段の問題が指摘されることはありませんでした。しかし後日、発射行為が「弾丸の到達するおそれのある建物に向かって」行われたとされ、鳥獣保護管理法および銃刀法に違反するとして、銃砲所持許可の取消処分が下されました。
原審の結論
原審では、被控訴人の請求が認容され、北海道公安委員会の銃砲所持許可取消処分は違法であると判断されました。裁判所は、ヒグマの駆除が公共の利益に基づくものであり、被控訴人が現場の安全を確認した上で発射を行った点を重視しました。さらに、発射行為が現場にいた警察官によって黙認されていたことも、被控訴人の行為が適法であることを支持する要因とされました。
しかし、北海道公安委員会が控訴し裁判は高裁に発展することとなりました。
裁判の争点と当事者の主張
本件では、以下の2点が主要な争点となりました。
銃刀法11条1項1号の適用が正当であるか
銃刀法では、公安委員会は関係法令の違反者の銃砲所持許可を取り消すことができる旨が記載されています。
(許可の取消し及び仮領置)
第11条 都道府県公安委員会は、第4条又は第6条の規定による許可を受けた者が次の各号のいずれかに該当する場合においては、その許可を取り消すことができる。
一 この法律若しくはこれに基づく命令の規定若しくはこれらに基づく処分(前条第1項の指示を含む。)又は第4条第2項の規定に基づき付された条件に違反した場合
また、鳥獣保護管理法では「弾丸の到達するおそれのある建物等に向かって銃猟を行うこと」が禁止されています。
(銃猟の制限)
第38条 日出前及び日没後においては、銃器を使用した鳥獣の捕獲等(以下「銃猟」という。)をしてはならない。
3 弾丸の到達するおそれのある人、飼養若しくは保管されている動物、建物又は電車、自動車、船舶その他の乗物に向かって、銃猟をしてはならない。
控訴人は、本件発射行為がこの条項に該当すると主張しました。
一方、被控訴人は、発射時に適切なバックストップ(土手)が存在し、弾丸が建物に到達するおそれはなかったと反論しました。
裁量権の逸脱・濫用
被控訴人は、行政処分が裁量権の範囲を超えており不当であると主張しました。
特に、ヒグマの駆除という公益性の高い活動を前提に行われた行為である点や、現場に立ち会った警察官が発射を制止しなかったことを挙げました。
裁判所の判断
銃刀法11条1項1号の適用について
裁判所は以下の点を重視しました。
建物への弾丸到達可能性
現場の地形や弾丸の性質を検討した結果、本件発射行為による弾丸が、ヒグマを貫通した後に跳弾となり、周辺の建物に到達するおそれがあったと判断されました。特に、現場の斜面が緩やかであり、弾丸が跳飛する条件が整っていたことが認定されています。
発射の角度と安全性
発射行為時、ヒグマとの距離が近く適切なバックストップが存在していたとする被控訴人の主張に対し、裁判所は、ヒグマの背後に「弾丸を確実に遮る構造物が存在しなかった」としてこれを退けました。
行政の裁量権について
裁判所は、行政の裁量権が逸脱・濫用されたか否かについても詳細に検討しました。
公益性と緊急性
被控訴人の行為がヒグマ駆除という公共の利益に基づくものであった点は考慮されましたが、裁判所は、「公共の利益が認められるとしても、安全対策を怠った発射行為の正当化にはならない」としました。
再発防止の必要性
被控訴人が発射行為の危険性を十分認識せず、同様の行為が再発する可能性が否定できない点を指摘しました。このため、銃砲所持許可の取消処分は妥当であると結論付けられました。
まとめ
本件は、銃刀法および鳥獣保護管理法の厳格な適用と、行政の裁量権の範囲が問われた事例でした。裁判所は、公共の利益や公益性を認めつつも、安全対策の不備が明確である場合には、行政処分を正当化できると判断しました。
最後に
今回はライフル銃所持許可取消事件に係る裁量権を巡る裁判の続報について解説しました。
安全対策が重要であることは間違いない事実です。ただ、平時と緊急事態では基準となる安全の水準も異なってしかるべきではないか自分は感じました。
今回は以上で終わります。
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