不法原因による贈与と民法708条の適用:最高裁判例解説

今回は、贈与と不法原因給付に関する判例を解説します。
この判例は、「不法の原因により既登記建物を贈与した場合、その引渡しだけでは、民法708条にいう給付があったとはいえない」とした重要な事例です。
【判例  最高裁判所第一小法廷 昭和46年10月28日

事件の背景

本件の原告(上告人)は、東京のバーで働いていた時期に、被告(被上告人B2)と知り合い、情交関係が始まりました。その後、B2は、上告人に対して「自分が面倒を見る」「B1から金を貸して建物を取得し、贈与する」と約束しました。これに基づき、B2と上告人の間で妾関係が続くことを前提に建物の贈与契約が成立しました。

B2は、B1から建物の所有権を譲り受け、所有権移転登記を行いました。
しかし、その後、上告人に対する所有権移転登記を行いませんでした。この状況で上告人は、贈与を基に所有権の移転を求める訴訟を提起しました。

裁判に至る紛争経過

原告は被告B2に対して建物の所有権移転手続きを求めました。
しかし、原審ではこれが認められず、上告審へと進みました。上告審においても、贈与契約が成立しているにもかかわらず、所有権移転手続きがされていない点が争点となりました。さらに、本件において贈与が不法の原因に基づくものであったため、民法708条の適用が検討されました。

民法708条の解釈と裁判所の判断

民法708条は、「不法の原因に基づいて給付をした者は、その給付をした財産の返還を請求することができない」と規定しています。
この条文は、不法な行為によって利益を得た場合、原則としてその返還を請求できないという法的原則を示しています。

(不法原因給付)
第708条
不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。

民法

本件においては、上告人と被告B2の関係が「不法の原因」に該当するかどうかが重要なポイントとなりました。
具体的には、情交関係の維持を目的とした贈与が不法の原因に基づくものと認定されました。

判決の核心部分:給付の認定

裁判所が特に注目したのは、贈与された建物が既に登記されているものであった点です。
本件では、単に建物の引渡しが行われただけで、所有権移転登記はされていませんでした。この状況において、裁判所は「贈与契約が有効であっても、単に引渡しが行われただけでは、民法708条にいう給付があったとは言えない」と判断しました。

通常、贈与契約に基づいて所有権を移転する場合、登記は必須ではありません。
しかし、本件では贈与が不法の原因に基づくものであったため、より厳格な基準が適用されました。具体的には、既に登記されている建物の贈与の場合、単に建物の引渡しだけでは足りず、所有権移転登記が行われて初めて「給付があった」と認められるとされました。

裁判所の結論

最高裁は、本件における贈与が不法の原因に基づくものであり、所有権移転登記が行われていないため、民法708条の「給付」が成立しないと判断しました。このため、上告人は贈与された建物の所有権を主張することができず、裁判所は上告を棄却しました。

まとめ

本件は、不法原因に基づく贈与に関する重要な判例であり、特に不動産における所有権移転の要件が厳格に適用されることを示しています。通常の贈与契約では登記がなくても所有権の移転は認められますが、不法原因に基づく贈与では、登記が必要であることが今回の判例で明確にされました。

最後に

今回は不法原因による贈与と民法708条の適用について解説しました。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が民法について学びたい方の参考になれば幸いです。

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