私立大学入学選抜試験における答案の法的地位と刑法159条の適用
私立大学の入学試験において、受験生の答案が単なる採点の対象であるだけでなく、刑法の範疇に含まれる「事実証明に関する文書」としての法的地位を持つ可能性があることをご存じでしょうか?今回は、判例に基づき、この重要なテーマについて詳しく解説します。
【判例 平成5年4月5日 東京高等裁判所 第五刑事部】
目次
事件の背景
この判例は、丙大学の入学選抜試験において、替え玉受験が行われた事件に関するものです。事件の舞台は平成三年度の丙大学の入学試験であり、被告人甲と被告人乙は、大学職員として多くの受験生に替え玉を手配し、その結果として多額の報酬を得ていました。
登場人物の相関関係と裁判に至る紛争過程
この事件には、主に以下の登場人物が関わっています。
- 被告人甲
丙大学の職員で、主に替え玉受験を企画・指導した人物。 - 被告人乙
同じく丙大学の職員で、替え玉受験生の調達と試験答案の偽造を担当。 - 丁・戊
被告人甲と乙の共犯者で、替え玉受験の実行を手伝った者たち。
この事件の始まりは、受験生の親から多額の報酬を受け取り、代わりに他の学生を送り込んで試験を受けさせる「替え玉受験」計画を立てたことでした。この計画は、受験票の写真をすり替えることで発覚を免れるように細工され、数年間にわたり実行されていました。裁判に至るまで、丙大学の職員たちはこの不正行為を続け、ついに法の裁きを受けることとなったのです。
事件の核心: 答案が「事実証明に関する文書」として認定された経緯
今回の判例で特に注目すべきは、私立大学入学選抜試験の答案が、刑法159条1項にいう「事実証明に関する文書」に当たるとされた点です。
(私文書偽造等)
第159条行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は、3月以上5年以下の拘禁刑に処する。
答案の法的性質と裁判所の判断
まず、裁判所は「本件の答案は、それに合格すれば入学許可が与えられるものであり、受験した志願者がいかなる解答をしたかという事実を証明し、ひいては志願者の学力の程度を客観的に示す文書である」と判断しました。これは、答案が単なる試験結果を示すものではなく、その内容が受験生の合否を左右する重要な文書であると認識されたことを意味します。
判決における刑法の適用とその意義
本件で裁判所が注目したのは、答案が単に点数を記録するだけでなく、大学の入学選抜における公正さを担保する役割を果たしている点です。そのため、この文書が偽造され、試験官に提出されたことは、有印私文書偽造罪および同行使罪に該当すると判断されました。
裁判所の論理構成
被告人側は、「答案は事実証明に関する文書ではなく、採点基準も主観的であり、刑法の適用範囲には入らない」と主張しましたが、裁判所はこれを退けました。判決では、答案が「志願者の学力を示す資料として入学選抜試験の合否を判定するためのものである」点に着目し、刑法の適用を支持しました。
この判断は、教育機関における公平性を保つために重要であり、替え玉受験のような不正行為が社会的に許されないものであることを強く示しています。
まとめ
今回の判例から学べることは、私立大学の入学選抜試験における答案が、単なる学力測定のツールではなく、法的な文書としての地位を持つという点です。刑法一五九条の適用は、教育制度の公正性を維持するために不可欠であり、これを侵害する行為は厳しく罰せられるべきものであることが明示されました。
また、今回の事件を通じて、教育機関における不正行為がいかに厳重に取り扱われるべきか、そしてその影響がどれほど大きいかを改めて考えさせられます。特に、志願者の将来に重大な影響を与える入学試験において、その公正性を保つための法的枠組みがどれほど重要かを理解することが必要です。
最後に
今回は私立大学入学選抜試験における答案の偽造について解説しました。
今回は以上で終わります。
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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
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