自筆証書遺言書における押印は花押でも認められるか?
遺言書の有効性に関する判例は、多くの人々にとって関心の高いテーマです。今回は、自筆証書遺言書において花押が押印として認められるかが争われた判例について詳しく解説します。
【判例 最高裁判所第二小法廷 平成28年6月3日】
目次
事件の背景
登場人物と相関関係
- 上告人Y1、Y2
亡Aの子供 - 被上告人
亡Aの子供
紛争の経緯
亡Aは平成15年5月6日、遺言書を作成しました。この遺言書には、「家督及び財産はXを家督相続人としてa家を継承させる」という内容が記載されていました。遺言書の末尾にはAの氏名と共に、花押が記されていました。
平成15年7月12日、Aは死亡しました。Aの死亡時、本件土地はA名義で登記されており、Aの所有物でした。この土地を巡って、被上告人は遺言書による遺贈を主張し、上告人に対して所有権移転登記手続きを求めました。また、被上告人は、遺言書が無効とされた場合に備えて、Aとの間で死因贈与契約が締結されていたと主張しました。
このようにして、遺言書の有効性と花押が押印の要件を満たすか否かが、本件の主要な争点となり、裁判に至ったのです。
裁判所の判断経緯
原審の判断
原審では、花押の役割と遺言書の有効性について次のように判断されました。
まず、花押の役割についてです。
原審は、花押が文書の真正を担保する役割を果たすと認めました。具体的には、花押は印章と同様に、文書を作成した者が確かにその文書を作成したことを示すためのものであるとされました。さらに、花押は遺言者の同一性および真意の確保にも寄与すると考えられました。これは、花押が歴史的にも個人識別の手段として用いられてきたことから、その役割を果たすと解されるからです。
次に、遺言書の有効性についてです。
原審は、Aの花押が押印として足りると判断しました。この判断の背景には、Aが遺言書に花押を用いたことが、Aの真意を確保するために十分であると考えられたことがあります。具体的には、花押がAの遺言内容を示すために適切であり、その形状や使用状況がAによるものであることが明確であるとされました。これにより、Aの遺言書は押印の要件を満たし、有効であると認められました。
最高裁の判断
しかし、最高裁は原審の判断を覆しました。その理由は以下の通りです。
法令の趣旨
民法上、自筆証書遺言の方式として「遺言の全文、日付及び氏名の自書」と「押印」を求めています。この押印は、遺言者の同一性と真意を確保するために必要とされています。
(自筆証書遺言)
第968条
- 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
慣行と法意識
日本の慣行および法意識において、印章による押印は文書の完成を担保する重要な要素です。これに対して、花押はこの役割を果たすものとは認められないと最高裁は判断しました。
判例の適用
過去の判例(最高裁昭和62年(オ)第1137号平成元年2月16日第一小法廷判決)でも、文書の完成を担保するためには印章による押印が必要とされています。
以上の理由から、花押は民法第968条1項の押印要件を満たさないと判断されました。
まとめ
今回の最高裁判所の判決は、遺言書における押印の重要性を再確認するものとなりました。花押は日本の法的慣行において押印として認められず、遺言書の有効性を確保するためには印章が必要とされるという結論に至りました。遺言書を作成する際には、この判例を参考にし、適切な手続きを踏むことが重要です。
最後に
今回は自筆証書遺言書における押印は花押でも認められるかについて解説しました。
今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
この記事が印鑑制度について学びたい方の参考になれば幸いです。
また、この他にも有益な情報を逐次投稿しております。よろしければ他の記事もご覧ください。
投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
なお、業務に関するお問い合わせは、下記のお問い合わせ方法からいつでもどうぞ。
お問い合わせ - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com