地方住宅供給公社が提供される住宅に借地借家法の適用があるか?

地方住宅供給公社が提供する住宅の賃貸借契約について、借地借家法が適用されるかが争われた最高裁判例があります。今回は、この判例について詳しく解説します。
【判例 最高裁判所第一小法廷 令和6年6月24日

事件の背景

紛争の発端

この事件では、地方住宅供給公社から賃貸住宅を借りている複数の住民(上告人ら)が、定期的に家賃の改定通知を受けました。平成16年4月から平成30年4月までの間に、家賃は月額3万9530円から5万6350円であったものが、最終的に月額6万1950円から8万6910円に引き上げられました。この改定を受けた住民たちは、家賃の変更が適正賃料を超える部分について異議を唱え、過払家賃の返還を求めて訴訟を提起しました。

地方住宅供給公社とは?

地方住宅供給公社は、地方公共団体が設立する法人です。主に住宅の供給を目的としています。具体的には、以下のような活動を行っています。

  • 住宅の供給
    住宅不足が深刻な地域において、良質な賃貸住宅を提供します。
  • 住環境の改善
    住宅の建設や改修を通じて、地域の住環境を改善します。
  • 社会福祉の増進
    住生活の安定を図り、地域住民の生活の質を向上させることを目的としています。

この公社は、地方住宅供給公社法に基づいて設立されます。また、その運営は法令に従って行われます。

一審および原審の判断

一審及び原審では、地方住宅供給公社法に基づく地方住宅供給公社法施行規則(公社規則)16条2項が、借地借家法32条1項に対する特別の定めに該当すると判断されました。

(賃貸住宅の家賃)

第十六条 賃貸住宅を新たに賃借する者の家賃は、近傍同種の住宅の家賃と均衡を失しないよう、地方公社が定める。

2 地方公社は、賃貸住宅の家賃を変更しようとする場合においては、近傍同種の住宅の家賃、変更前の家賃、経済事情の変動等を総合的に勘案して定めるものとする。この場合において、変更後の家賃は、近傍同種の住宅の家賃を上回らないように定めるものとする。

地方住宅供給公社法施行規則 | e-Gov法令検索

(借賃増減請求権)
第32条

  1. 建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
借地借家法

すなわち、地方住宅供給公社が行った家賃改定は公社規則に基づく有効なものであり、借地借家法32条1項の適用はないとされたのです。

最高裁判所の判断

しかし、最高裁判所はこの判断を否定しました。最高裁は、地方住宅供給公社が提供する賃貸住宅の使用関係は、私法上の賃貸借関係であり、特別の定めがない限り、借地借家法の適用があると判断しました。公社規則16条2項は、地方公社が家賃を変更する際に遵守すべき基準を示すものに過ぎず、借地借家法32条1項の適用を排除するものではないとしました。

裁判所の判断に至った経緯

法律の解釈と適用

地方住宅供給公社法および公社規則の条文は、地方公社の公共的な性格に基づいて、その業務の基準を定めるものであるとされています。公社法24条は、国土交通省令で定める基準に従うことを求めています。しかし、その基準は借地借家法32条1項の適用を排除するものではないと解釈されました。つまり、公社規則16条2項は、家賃変更の際の基準を示すものであり、その内容は、近傍同種の住宅の家賃、変更前の家賃、経済事情の変動等を総合的に考慮して定めることとされています。

具体的な判断理由

最高裁は、公社法および公社規則の規定を詳細に検討した結果、地方住宅供給公社が行う賃貸住宅の家賃改定に借地借家法32条1項が適用されると結論づけました。この結論に至る過程では、公社法の規定が、地方公社の公共的な性格に基づくものであること、そしてその目的を達成するための基準が国土交通省令に委ねられていることが考慮されました。

まとめ

本判決は、地方住宅供給公社が提供する賃貸住宅の家賃改定においても、借地借家法32条1項が適用されることを明示しました。これにより、公社住宅の賃借人は、適正な家賃改定を求める権利が保障されることとなり、公社法および公社規則が示す基準に従いながらも、借地借家法の適用を排除することはできないことが確認されました。この判決は、今後の公社住宅の賃貸借関係において重要な指針となるでしょう。

最後に

今回は地方住宅供給公社と借地借家法の適用について解説しました。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が民法について学びたい方の参考になれば幸いです。

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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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