最新の違憲判決!旧優生保護法による不妊手術と国家賠償―最高裁判決が示す信義則と権利濫用の判断
不妊手術を巡る国家賠償請求事件において、最高裁判所が示した判決が大きな注目を集めています。この判決は、過去に行われた不妊手術が憲法違反であることを認めたうえで、損害賠償請求権が信義則に反する場合においても権利の濫用として許されないことを明確に示しました。
今回は、戦後11件目である「法令自体が違憲」と判断されたこの事件を解説します。
【判例 最高裁判所大法廷 令和6年7月3日】
目次
事件の背景
優生保護法と不妊手術の施行
優生保護法(昭和23年法律第156号)は、1948年に成立し、同年施行されました。この法律は、「不良な子孫の出生を防止する」とともに「母性の生命健康を保護する」ことを目的としていました。具体的には、遺伝性の疾病や奇形を持つ者に対して、不妊手術を施すことができると定めていました。
被上告人である男性は、精神科病院に入院中の昭和35年頃に不妊手術を受けました。この手術は、優生保護法10条または13条2項に基づいて行われたものでした。
第十条
優生手術を行うことが適当である旨の決定に異議がないとき又はその決定若しくはこれに関する判決が確定したときは、第五条第二項の医師が、優生手術を行う。第十三条
優生保護法 (shugiin.go.jp)
指定医師は、左の各号の一に該当する者に対して、人工妊娠中絶を行うことが母性保護上必要であると認めるときは、本人及び配偶者の同意を得て、地区優生保護委員会に対し、人工妊娠中絶を行うことの適否に関する審査を、申請することができる。
(略)
2 前項の申請には、同項第一号から第三号の場合にあつては他の医師の意見書を、同条第四号の場合にあつては民生委員の意見書を添えることを要する。
その後、1996年に優生保護法は母体保護法に改正され、強制不妊手術の規定は削除されました。
政府の対応と国際的な批判
1996年の法改正以降、約25,000人が不妊手術を受けたとされています。国際的には、市民的及び政治的権利に関する国際規約に基づいて設置された自由権規約委員会などから、強制不妊手術の被害者に対する補償を求める勧告がなされました。しかし、日本政府は長期間にわたって適切な補償措置を講じませんでした。
平成30年、被上告人は国家賠償請求訴訟を提起しました。この訴訟において、上告人は被上告人の請求権が民法724条後段の期間の経過により消滅していると主張しました。
信義則と権利の濫用に関する最高裁判所の判断
最高裁の判断基準
最高裁判所は、民法724条後段の規定が不法行為による損害賠償請求権の除斥期間を定めているとしつつも、同条後段の除斥期間の経過による請求権の消滅が「著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することができない場合」には、除斥期間の主張が信義則に反し、権利の濫用として許されないと判断しました。
(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)
民法(当時)
第724条
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする。
本件における具体的判断
本件では、被上告人の不妊手術は、憲法13条および14条1項に違反する優生保護法の規定に基づいて行われたものであり、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権が認められるとしました。
【個人の尊厳と公共の福祉】
第13条
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。【法の下の平等、貴族政治の廃止、栄典】
第14条日本国憲法第
- すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
【公務員の不法行為と賠償責任、求償権】
第1条国家賠償法
- 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
さらに、長期間にわたり適切な補償が行われていないこと、上告人が不妊手術を積極的に推進していたこと、約25,000人もの被害者がいることなどから、本件請求権の消滅を認めることは「著しく正義・公平の理念に反する」と判断しました。
結論
最高裁判所の判断の意義
本件判決は、過去の不妊手術の被害者に対する国家の責任を明確にし、信義則と権利の濫用に関する法理を適用する重要な事例となりました。今後、同様の事件においても、被害者の権利を保護するための基準として機能することが期待されます。
まとめ
今回の最高裁判決は、過去の不妊手術に対する国家賠償請求権の行使を認め、信義則と権利の濫用に関する新たな判断基準を示しました。被害者の権利保護のために、法律の適用において正義・公平の理念を重視する姿勢を示したこの判決は、今後の法的判断において重要な指針となるでしょう。
最後に
今回は旧優生保護法に関する違憲判決について解説しました。
今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
この記事が憲法について学びたい方の参考になれば幸いです。
また、この他にも有益な情報を逐次投稿しております。よろしければ他の記事もご覧ください。
投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
なお、業務に関するお問い合わせは、下記のお問い合わせフォームからいつでもどうぞ。
お問い合わせ - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)