抵当権に基づく妨害排除請求を代位できるか?
抵当権者が不動産の競売を申し立てる際、第三者が不法にその不動産を占有しているとどうなるでしょうか?
このような場合、競売手続が進行しない事態が生じるおそれがあります。この問題に直面した抵当権者がどのように対処できるかが争われた判例があります。今回は、抵当権者が不法占有者に対してどのような権利を行使できるかを詳しく解説します。
【判例 最高裁判所大法廷 平成11年11月24日】
目次
背景
事件の概要
この事件は、抵当権者である被上告人(金融機関)が、債務者Eとの間で設定した根抵当権に基づいて競売を申し立てたところ、上告人らが建物を権原なく占有していたために競売手続が進行しなくなった事例です。以下に、時系列に沿って詳細を説明します。
時系列の詳細
根抵当権の設定(平成元年11月10日)
被上告人は、債務者Eとの間で、E所有の土地及び建物(本件不動産)について、極度額3500万円の根抵当権を設定しました。この根抵当権の設定により、被上告人は、債務者が返済不能に陥った場合に備えて、不動産を担保にする権利を得ました。
貸金の実行(平成元年11月17日)
被上告人は、Eに対し、2800万円を貸し付けました。これは毎月一定額を支払う約定であり、Eは定期的に返済を行う義務を負いました。しかし、債務者Eがこの約定を守らなかった場合には、被上告人は根抵当権に基づいて不動産を競売にかける権利を持ちます。
不法占有の開始(平成5年5月頃)
上告人らは、本件建物を権原なく占有し始めました。つまり、上告人らは正当な権利を持たずに建物を使用し続けたのです。この不法占有により、建物の市場価値が損なわれ、競売を行う際の買受け希望者が減少するリスクが生じました。
競売の申し立て(平成5年9月8日)
被上告人は、貸金債権の期限の利益が失われた後、根抵当権を実行し競売を申し立てました。裁判所は、不動産競売の開始決定をしました。これは、被上告人が債務回収を図るために必要な手続きでした。
競売の中断(平成7年5月17日)
開札期日が指定されましたが、上告人らの不法占有により買受け希望者が買受け申出を躊躇し、入札がなく、その後競売手続は進行しなくなりました。不法占有が原因で競売が成立しない状態が続き、被上告人は債権の回収が困難な状況に陥りました。
紛争への発展
このような状況の中で、被上告人は上告人らの不法占有が競売手続の進行を妨げ、結果として本件貸金債権の満足を受けることができないとして、上告人らに対し、妨害排除請求権の代位行使を求めました。すなわち、被上告人は、Eが本件建物の所有権に基づいて有する妨害排除請求権を代位して行使し、上告人らに建物の明け渡しを求めたのです。
判決の核心部分
裁判所の判断
抵当権者の妨害排除請求権
最高裁判所は、抵当権者が抵当不動産の交換価値の実現を妨げられ、優先弁済請求権の行使が困難となる状態が生じた場合、抵当不動産の所有者に対して妨害排除を求める権利を有するとしました。これは、第三者が不法に抵当不動産を占有し、その結果として競売手続が進行しない場合に、抵当権者の権利が侵害されることを防ぐための手段です。
代位行使の適用
抵当権者は、所有者が不法占有者に対して妨害排除請求権を行使しない場合、その権利を代位行使することができます。これは、所有者が積極的に対応しない場合でも、抵当権者が直接的に不法占有者に対して対抗する手段を持つことを意味します。この代位行使により、抵当権者は所有者に代わって不法占有者に対して建物の明け渡しを求めることができます。
競売手続の重要性
競売手続は、抵当権者が担保権を実現するための重要な手段です。不法占有により競売手続が進行しない場合、抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるため、裁判所は、所有者の代位行使により競売手続を進行させることが認められるとしました。これにより、抵当権者は競売手続を進めるための法的手段を得ることができます。
このように、最高裁判所は、抵当権者の権利保護のための具体的な手段を明確に示し、競売手続の円滑な進行を確保する判断を下しました。この判決は、抵当権者にとって重要な権利行使の指針となるものであり、将来的な類似の事例においても適用されるべき基準を提供しています。
法的根拠
本判決は、民法第423条の債権者代位権に基づいています。この条文は、債権者が自己の債権を保全するために債務者の権利を代位行使することを認めています。また、抵当権の性質上、抵当不動産の交換価値の維持・実現が重要であるとされています。
(債権者代位権の要件)
第423条
民法
- 債権者は、自己の債権を保全するため必要があるときは、債務者に属する権利(以下「被代位権利」という。)を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利及び差押えを禁じられた権利は、この限りでない。
- 債権者は、その債権の期限が到来しない間は、被代位権利を行使することができない。ただし、保存行為は、この限りでない。
- 債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、被代位権利を行使することができない。
(抵当権の内容)
第369条民法
- 抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
- 地上権及び永小作権も、抵当権の目的とすることができる。この場合においては、この章の規定を準用する。
まとめ
この判例は、抵当権者が競売手続を妨害する不法占有者に対して、所有者の権利を代位行使することで対処できることを示しています。競売手続が進行しない場合、抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となります。そのため、このような権利行使が認められるのです。
不動産の競売における法的手続は、抵当権者の権利を守るために重要な役割を果たします。この判例から学ぶことは、抵当権者が適切な手段を講じて自己の権利を保護することができる点です。将来的な競売手続においても、同様の状況が生じた場合、この判例を参考にすることができるでしょう。
最後に
今回は失効した埋立地の所有権認定について解説しました。
今回は以上で終わります。
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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
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