「法定相続情報証明制度」で相続手続が劇的に簡単に!
相続手続に悩んでいる方は多いのではないでしょうか?
遺産分割協議や相続登記など、相続手続は煩雑で時間がかかるものです。そんな中、2017年に導入された「法定相続情報証明制度」は、相続手続を劇的に簡単にするための制度です。今回は、この制度について解説し、その利便性や利用方法についてご紹介します。
目次
- 1 相続の開始と法定相続
- 2 戸籍を用いた相続人の特定
- 3 法定相続情報証明制度とは?
- 3.1 制度の概要
- 3.2 利用の流れ
- 3.3 制度のメリット
- 3.4 制度利用の注意点
- 3.5 費用と専門家の依頼
- 3.6 制度の利用についての詳細
- 3.6.1 遺産のなかに不動産がなくても、当該制度は利用できる?
- 3.6.2 一覧図に載せられない相続関係がある?
- 3.6.3 郵送による申出、郵送による一覧図の写しの受領は可能?
- 3.6.4 法定相続情報証明制度を利用できるのは日本国籍を有する者
- 3.6.5 法定相続情報証明制度が始まったら戸籍の束での手続はできない?
- 3.6.6 一覧図の写しには、有効期限はあるの?
- 3.6.7 法定相続情報証明は、すべての相続手続に利用できるの?
- 3.6.8 制度が始まる前に開始した相続でも利用できる?
- 3.6.9 交付された一覧図の写しを紛失したら?
- 3.6.10 法定相続情報に変更が生じたら? ~再度の申出~
- 3.6.11 生前から法定相続情報証明制度の申出はできる?
- 4 まとめ
- 5 最後に
- 6 併せて読みたい記事
相続の開始と法定相続
死亡によって相続は始まる
相続は、人が死亡した瞬間に始まります。法律的には、相続原因は「死亡」のみです。相続が始まると、被相続人(亡くなった人)の財産は相続人に引き継がれます。これにはプラスの財産だけでなく、負債も含まれます。
民法に基づく法定相続
相続人が誰か、各相続人がどれだけの財産を相続するかは、民法に定められています。これを「法定相続」と呼びます。民法では、相続人は主に配偶者と子供です。しかし、親や兄弟姉妹も相続人になる場合があります。詳しくは、民法第887条から第889条に規定されています。
(子及びその代襲者等の相続権)
第887条民法
- 被相続人の子は、相続人となる。
- 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
- 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。
民法
- 次に掲げる者は、第887条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
- 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
- 被相続人の兄弟姉妹
- 第887条第2項の規定は、前項第2号の場合について準用する。
遺産分割協議と法定相続
遺産分割協議は、相続人全員で遺産の分け方を話し合うことです。協議の基本は法定相続です。つまり、民法に従って相続人全員が参加しなければならず、全員の同意が必要です。もし一部の相続人が協議に参加しない場合、その協議は無効となります。
民法
- 共同相続人は、次条第1項の規定により被相続人が遺言で禁じた場合又は同条第2項の規定により分割をしない旨の契約をした場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。
- 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。
戸籍を用いた相続人の特定
戸籍で相続人を特定する方法
相続手続の第一歩は、相続人の特定です。これには、被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍を収集し、それを元に相続人を特定します。この作業は非常に手間がかかります。多くの戸籍を収集する必要があるため、相続人にとって大きな負担となります。
法定相続情報証明制度とは?
制度の概要
「法定相続情報証明制度」は、相続手続を簡単にするための制度です。相続人が収集した戸籍を元に法定相続情報一覧図(家系図のようなもの)を作成し、法務局に提出します。法務局はその内容を確認し、認証文を付した「法定相続情報一覧図の写し」を交付します。この写しを相続手続に使用することで、戸籍の束を何度も提出する手間が省けます。
利用の流れ
相続人が提出する書類
まず、相続人は所定の書類を準備し、法務局に提出します。
被相続人の出生から死亡までの戸籍
相続人は、被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍を収集する必要があります。これは、相続人の特定と相続関係の確認に必要です。通常、複数の戸籍が必要となり、それぞれの戸籍を取り寄せる手間があります。
法定相続情報一覧図の作成
次に、相続人は法定相続情報一覧図を作成します。この一覧図は、被相続人の家系図のようなもので、相続人の関係性を図示したものです。この一覧図には、被相続人の名前、生年月日、死亡日、そして相続人の名前や相続関係が記載されます。
法務局での確認と交付
提出された書類は、法務局の職員によって確認されます。
書類の確認
法務局の職員は、提出された戸籍と法定相続情報一覧図の内容が一致しているかを確認します。ここで、記載内容に誤りがないか、全ての必要な情報が揃っているかがチェックされます。
「法定相続情報一覧図の写し」の交付
確認が完了すると、法務局は「法定相続情報一覧図の写し」を交付します。この写しは、法務局が認証したもので、戸籍の内容を証明する公的な書類となります。
相続手続での利用
交付された「法定相続情報一覧図の写し」は、相続手続の際に使用します。例えば、銀行での口座名義変更や相続登記の手続など、相続に関する様々な手続でこの写しを提出することで、従来必要だった複数の戸籍の提出が不要となり、手続が大幅に簡略化されます。このように、「法定相続情報証明制度」を利用することで、相続手続の負担が軽減され、迅速かつスムーズに進めることができます。
制度のメリット
手続の簡略化
従来の相続手続では、相続人は戸籍の束を何度も確認し、各機関に提出しなければなりませんでした。しかし、「法定相続情報証明制度」を利用することで、法務局で確認された一覧図の写し一通を提出するだけで済むため、手続が大幅に簡略化されます。
関係機関の負担軽減
銀行や保険会社などの関係機関にとっても、戸籍の確認作業が不要になるため、業務負担が軽減されます。
制度利用の注意点
全ての相続関係を証明できない
法定相続情報証明制度には注意点もあります。一覧図の写しは、戸籍に基づいて作成されるため、相続放棄や遺産分割協議の有無など、戸籍に記載されない情報は含まれません。これらの情報を証明するためには、別途書類が必要です。
一部機関での取り扱い
制度が浸透するまで、金融機関などの一部機関では、一覧図の写しを戸籍の代わりとして認めない場合があります。この場合、従来通り戸籍の提出が必要です。手続の前に、各機関に確認することが重要です。
費用と専門家の依頼
一覧図の写しを発行してもらうのに必要な費用は?
無料です。当該制度の目的は「相続登記(及びその他の相続手続)の促進」にあります。国民が制度を利用しやすいようにするため、一覧図の写しの交付は無料とされています。
専門家に依頼する場合は、誰に依頼すればよい?
法定相続情報証明制度の利用の申出と一覧図の写しの交付を請求できるのは、相続人だけではありません。専門家に任せることも可能です。ここでいう専門家とは、「弁護士、司法書士、土地家屋調査士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士及び行政書士(戸籍法第10条の2第3項)」とされています。
制度の利用についての詳細
遺産のなかに不動産がなくても、当該制度は利用できる?
この制度の申出先は登記所(法務局内部の登記部門)です。しかし、遺産のなかに不動産がなくても、制度を利用することが可能です。預貯金の払戻し手続などの目的で制度を利用することもできます。
一覧図に載せられない相続関係がある?
一覧図に掲載されるのは、あくまで「戸籍から読み取れる情報」です。したがって戸籍に載らない事柄は、相続関係に影響を与えるものであっても一覧図に記載できません。例えば、相続放棄や遺産分割協議についての情報は一覧図に反映されません。また、相続欠格になった者や、相続人たる胎児についても戸籍に載らないため、一覧図に反映させることはできません。このため、実際の相続人と一覧図から確認できる相続人に齟齬が生じることがあります。これについては、一覧図の写しに「当該一覧図の写しは、提出された戸籍の記載に基づくものである」という趣旨の記載がされることで、注意が促されます。
郵送による申出、郵送による一覧図の写しの受領は可能?
制度を利用するためには、法務局への利用申出と法務局から一覧図の写しの交付を受領することが必要です。基本的には申出人が法務局に出向いて手続きをすることになります。なお、郵送での申出、郵送による一覧図の写しの受領はいずれも認められています。
法定相続情報証明制度を利用できるのは日本国籍を有する者
制度を利用すれば各種相続手続が簡単に行えます。しかし、制度を利用できない場合もあります。被相続人・相続人のいずれかが日本国籍を有しない場合で、戸籍等を添付することができない場合は、法定相続情報証明制度を利用することができません。
法定相続情報証明制度が始まったら戸籍の束での手続はできない?
当該制度の運用が始まったことにより、一覧図の写しを戸籍の束の代わりに各種相続手続ができるようになりました。しかしながら、従前のように戸籍の束を持参して手続を進めることもできます。
一覧図の写しには、有効期限はあるの?
有効期限は、一覧図の写しの提供を受ける各機関(銀行など)が必要に応じて定めます。そのため、一律に有効期間が定まっているわけではありません。
法定相続情報証明は、すべての相続手続に利用できるの?
残念ながら、すべてではありません。制度創設の趣旨から、相続登記手続をはじめとする法務局での手続であれば、制度を利用して行うことは可能です。しかし、銀行などの金融機関での手続、裁判所での手続、保険会社での手続においては、各機関の判断に任されています。今後、制度を利用しての相続手続を認めることは各機関においても利点があるため、認められる方向にあると考えられます。
制度が始まる前に開始した相続でも利用できる?
当該制度は平成29年5月29日に始まりました。しかし、これより前に開始した相続についても、制度を利用することは可能です。
交付された一覧図の写しを紛失したら?
再交付の申出をすることが可能です。再交付を受けるためには再交付申出書に必要事項を記入し、必要な添付書類を添付して提出します。この申出をすることができるのは、当初の申出をした申出人です。また、申出をした法務局において再交付の申出をすることが可能です。申出をできる期間は法定相続情報一覧図の保管期間中(5年間)です。
法定相続情報に変更が生じたら? ~再度の申出~
法定相続情報一覧図は法務局において5年間保管されることになりますが、保管期間中に法定相続情報に変更が生じたら、元々の申出をした申出人は再度の申出をすることが可能です。再度の申出をしたら新しい一覧図の写しの交付を受けることになり、当初の申出による一覧図の写しは、それ以降は交付されません。法定相続情報に変更が生じた場合とは、例えば被相続人の死亡後に子が認知された場合や、被相続人の死亡時に胎児であった相続人が生まれた場合などを含みます。
生前から法定相続情報証明制度の申出はできる?
できません。当該制度はあくまで相続登記などの相続手続のための制度ですから、相続開始後(被相続人の死亡後)から利用できることになります。
まとめ
「法定相続情報証明制度」は、相続手続を大幅に簡略化し、相続人や関係機関の負担を軽減する画期的な制度です。しかし、全ての相続手続において万能ではなく、戸籍に記載されない情報については別途対応が必要です。また、一部の機関では制度の利用が認められない場合もあるため、事前の確認が不可欠です。
相続手続をスムーズに進めるためには、この制度を正しく理解し、適切に利用することが重要です。今後、相続手続を行う際には、ぜひ「法定相続情報証明制度」を活用してみてください。
最後に
今回は法定相続情報証明制度の概要について解説しました。
今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
この記事が民法について学びたい方の参考になれば幸いです。
また、この他にも有益な情報を逐次投稿しております。よろしければ他の記事もご覧ください。
投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
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