性別変更後に出生した子は認知できない?最高裁判決解説

現代の社会においては、性の多様性が大きく進展してきました。
しかし、法的な整備や判例においてはまだ多くの課題が残されています。今回は、性別変更後の親子関係、特に認知請求に関する注目すべき判例を解説します。
この事例では、性別変更後に出生した子の認知の是非について争われました。
これは、日本の家族法に新たな視点をもたらし、子供の福祉を優先する重要な判断です。
【判例 最高裁判所第二小法廷 令和6年6月21日

事件の背景

この事件は、上告人が被上告人に対して認知を求めたものです。その背景には複雑な事情があります。

凍結保存と性別変更

被上告人は、ある年に自身の精子を凍結保存しました。その後、平成の時代に入り、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(以下「特例法」)3条1項に基づき、男性から女性への性別変更を申請し、これが認められました。特例法は性別変更の要件として、いくつかの条件を満たすことを求めています。被上告人はこれらの要件をクリアし、法的に女性として認められることになりました。

(性別の取扱いの変更の審判)

第三条 家庭裁判所は、性同一性障害者であって次の各号のいずれにも該当するものについて、その者の請求により、性別の取扱いの変更の審判をすることができる。

一 十八歳以上であること。

二 現に婚姻をしていないこと。

三 現に未成年の子がいないこと。

四 生殖せんがないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。

五 その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること

性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律

上告人の誕生

上告人の母親は、被上告人の同意のもと、凍結保存された精子を用いた生殖補助医療を受けました。この医療技術を用いることで、令和の時代に入り、上告人が誕生しました。上告人は母親の嫡出でない子として生まれました。ここで重要なのは、被上告人が法的には女性であるものの、生物学的には上告人の父親であるという点です。

胎児認知の不受理

上告人の出生前、被上告人は胎児認知の届出を行いました。これは、出生前に父親として認知を行う手続きです。しかし、法的性別が女性であることを理由に、この届出は不受理とされました。この決定は、被上告人が性別変更を行っていたため、法律上の父親として認められなかったことに起因します。

原審の判断

原審の裁判所は、嫡出でない子は生物学的な女性に自己の精子で当該子を懐胎させた者の法的性別が男性である場合に限り、認知請求権を行使できると判断しました。したがって、被上告人の法的性別が女性であることから、上告人の請求は棄却されました。裁判所は、法的性別が男性でなければ認知請求は認められないとしたのです。

このように、事件の背景には性別変更に関する法的な問題と、生殖補助医療を用いた子供の誕生という複雑な事情が絡んでいました。

判例の核心部分

最高裁判所は、この事件において原審の判断を覆し、上告人の請求を認容しました。この判断に至る経緯を詳しく見ていきましょう。

法律上の父子関係と性別変更の影響

血縁関係の重視

民法では、実親子関係は血縁関係を基礎にしています。認知の訴えもその基礎に基づいて法律上の父子関係を形成します。ここで重要なのは、法的性別ではなく、血縁上の関係です。生物学的な父親であることが認知の根拠となり、性別変更後もその本質は変わりません。被上告人は、法的には女性であるものの、遺伝的には上告人の父親であるため、この血縁関係を基に認知が求められるのです。

子の福祉の優先

認知の訴えは、子の福祉と利益を最優先に考慮して行われるものです。法的性別に関わらず、血縁関係を持つ父親による認知が求められる場合、それを妨げることは子の福祉に反すると最高裁は判断しました。具体的には、認知を認めないことで子供が父親からの養育、扶養、遺産相続などの権利を失うことは、子供の最善の利益に反します。この点が特に重視されました。

特例法とその趣旨

特例法は「現に未成年の子がいないこと」を性別変更の要件としています。この規定は、主に未成年の子の福祉を保護するためのものです。しかし、性別変更後に生まれた子の福祉を損なうような解釈は避けるべきとされました。実際、この規定があくまで性別変更時の状況を想定しており、変更後に生まれた子供については適用外と解釈するのが妥当であるとされました。最高裁は、法の趣旨を尊重しつつも、子の福祉を最優先に考慮すべきと判断しました。

最高裁の最終判断

法的性別に関係なく認知を認める

最高裁は、法的性別が女性である被上告人が血縁上の父親であることを根拠に、上告人の認知を認めました。注目すべきは、法的性別が女性かどうかではなく、血縁関係の存在が重視された点です。この判決により、性別変更後であっても生物学的に父親である場合、その者に対して認知を求める権利があることが明確にされました。最高裁は、民法の実親子関係の基本原則を基に、血縁関係を優先する判断を下しました。

以上からすると、嫡出でない子は、生物学的な女性に自己の精子で当該子を懐胎させた者に対し、その者の法的性別にかかわらず、認知を求めることができると解するのが相当である。

判決文より抜粋

法的整備の必要性

この判決は、性別変更後の親子関係について明確な基準を示しました。この基準により、今後の法整備の方向性にも大きな影響を与えることが期待されます。具体的には、性別変更後に親子関係をどのように法的に認定されるかについて、法律の明確化が求められることになります。現在の法制度では、性別変更後の親子関係についての規定が不十分であり、今回の判決を受けて立法府による新たな法整備が必要となるでしょう。

この判決は、法的性別が変更されても血縁関係に基づく親子関係の権利を守るという画期的なものであり、今後の法的議論や立法において重要な指針となるでしょう。性別変更を行った親がその後に生まれた子供との法的関係を確立するための基盤を築いたと言えます。

まとめ

今回の判例は、性同一性障害者やLGBTQ+コミュニティに対する法的認知の一歩を示すものであり、子供の福祉を最優先に考えた重要な判断です。このような判決が出ることで、法制度の見直しや改正が進むことが期待されます。性別変更後も認知請求が可能とされたことで多様な家族の形が尊重される社会の実現に寄与するでしょう。

最後に

今回は性別変更後に出生した子の認知について解説しました。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が民法について学びたい方の参考になれば幸いです。

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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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