入学式を無断欠席したら入学辞退とみなす!無慈悲な入学特約を巡る裁判

大学の入学手続きは、合格者にとって人生の大きな転機となる重要なイベントです。しかし、合格後の手続きや入学式に関するルールについて十分に理解していないと、思わぬトラブルに巻き込まれることがあります。今回の判例は、大学との入学契約がどのように成立し、どのように解除されるのか、そしてそれに伴う金銭的な問題について、非常に重要な判断を示しています。
【判例 最高裁判所第二小法廷 平成18年11月27日

事件の背景

登場人物と相関関係

本件の原告は、Y大学およびY女子大学に合格した学生たち(以下「原告ら」)です。被告は、これらの大学を運営する学校法人(以下「被告大学」)です。

  • 原告X1、X2、X3は、それぞれY大学およびY女子大学の入学試験に合格し、入学手続きを完了しました。
  • 被告大学は、合格者に対して入学手続きの要項を通知し、その中で「入学式を無断欠席した場合には入学を辞退したものとみなす」と記載していました。

紛争の経緯

原告らは入学手続きを完了し、納付金を支払いましたが、その後、入学式を無断で欠席しました。被告大学はこれをもって原告らが入学を辞退したとみなし、在学契約を解除しました。また、被告大学は、納付された入学金および授業料等について返還しない旨の特約を適用しました。

判決の要旨

在学契約の成立と解除

在学契約の成立

最高裁判所は、学生が所定の手続きを完了した時点で、大学との間に在学契約が成立すると判断しました。

学生が入学契約を成立させるためには、次の手続きを完了する必要があります。

  • 入学金の支払い
    学生は、合格通知を受け取った後、大学が指定する入学金を支払います。この入学金は、学生が大学に入学する意思を示すための重要なステップです。
  • 必要書類の提出
    学生は、大学が要求する必要書類(例:住民票記載事項証明書、保証書など)を提出します。これにより、大学は学生の身元を確認し、入学手続きを進めることができます。
  • 授業料等の納付
    学生は、初年度の授業料やその他の関連費用を所定の期日までに納付します。これにより、大学は学生に対する教育サービスの提供を約束します。

これらの手続きを完了することで、正式に在学契約が成立します。

在学契約の解除

大学の入学手続要項等には「入学式を無断欠席した場合には入学を辞退したものとみなす」と明記されていました。この記載に基づき、最高裁判所は次のように判断しました。

  • 無断欠席の意味
    学生が入学式を無断で欠席する行為は、特段の事情がない限り、入学の意思がないことを示す行動とみなされます。これは、学生が自発的に大学との在学契約を解除する意思を黙示的に表明したものと解釈されます。
  • 契約の解除
    原告らが入学式を無断で欠席したことにより、在学契約は解除されたと判断されました。無断欠席が在学契約の解除を示すものとして大学が受け入れたことになります。

授業料等の返還について

消費者契約法の適用

大学と学生の間の在学契約は消費者契約法に基づく消費者契約に該当します。この法により、契約解除に伴う授業料等の不返還特約について重要な規定があります。

  • 不返還特約の無効部分
    消費者契約法第9条1号により、契約の解除に伴う損害賠償額の予定や違約金を定める条項(不返還特約)は、平均的な損害を超える部分について無効とされます。これは、大学が学生から受け取る授業料等が、契約解除によって発生する大学側の平均的な損害を超える場合、その超過部分は無効になるという意味です。

(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効)
第9条
次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。

  1. 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの
    当該超える部分
消費者契約法第9条

  • 判決の具体的判断
    本件では、大学が主張する損害は、平均的な損害を超えるものではないと判断されました。そのため、大学が受け取った授業料等について、平均的な損害を超える部分は無効となり、学生に返還されるべきとされました。

まとめ

この判決は、大学と学生の入学契約およびその解除に関する重要な法的枠組みを示しています。入学手続要項に基づく手続きを完了することで在学契約が成立し、入学式を無断欠席することが契約解除の意思表示とみなされること、そして消費者契約法によって不返還特約が制限されることを明確にしました。この判決は、大学と学生の双方にとって重要な指針となるでしょう。

最後に

今回は大学の入学式無断欠席問題について解説しました。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が民法について学びたい方の参考になれば幸いです。

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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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