医科大学の入学辞退と学費返還問題に関する公序良俗問題

医科大学の入学試験に合格したものの、後に他の大学に入学することを選択することもあるでしょう。その場合、納付した学費は返還されるべきでしょうか?
これは、多くの受験生や保護者が関心を寄せる問題です。特に高額な学費がかかる医科大学では、この問題は一層重要です。今回は、判例を基に、この問題を解説します。
【判例 最高裁判所第二小法廷 平成18年11月27日

事件の背景と概要

事件の背景

本件の原告は、私立医科大学(以下「被告大学」とします)に合格し、授業料等の納付金として合計720万5000円を支払いました。しかし、その後、併願していた他の医科大学にも合格し、そちらに入学することを決めました。そのため、被告大学に対して入学辞退を申し出、支払った授業料等の返還を求めました。

紛争の経緯

合格と入学手続き

平成13年3月2日、原告は被告大学の医学部に合格しました。この時点で、原告は被告大学の入学試験要項に従い、入学手続きを進めることになりました。具体的には、入学金100万円、授業料等614万円(授業料、実習料、施設拡充費、教育充実費を含む)、および委託徴収金6万5000円(保護者会費、学友会費など)を支払う必要がありました。原告はこれらの支払いを完了し、正式に入学手続きを完了しました。

入学辞退の申し出

しかし、原告は併願していた他の医科大学(A大学)の入学試験結果を待っていました。平成13年3月22日、原告はA大学に合格しました。これを受けて、原告はA大学への入学を決め被告大学の入学辞退の意思を固めました。平成13年3月27日、正式に被告大学に対して入学を辞退する旨を通知しました。

返還要求と大学の対応

原告は被告大学に対して、支払った授業料等の返還を求めました。しかし、被告大学は入学辞退後の返還について、入学手続時の特約に基づき「授業料等は返還しない」との立場を取りました。この特約は、合格者が入学辞退を申し出た場合、入学金以外の納付金は返還しないという内容です。被告大学は特約に従い、授業料等の返還を拒否しました。そのため、委託徴収金6万5000円のみを返還しました。

これに対し、原告は納付金の返還を求めて訴訟を提起しました。

争点と最高裁の判断

本件の争点

本件の主要な争点は、原告が入学辞退を申し出た後に授業料等の返還を拒むことが、公序良俗に反するかどうかという点でした。

(公序良俗)
第90条
公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

民法

特約の有効性

最高裁は、以下の理由から特約の有効性を認めました。

定員割れによる損害

入学辞退者が多く発生し、定員割れが生じた場合、大学に多大な損害が発生する可能性が高いとされました。大学は、入学者数を確保するために人的物的設備を整える必要があり、定員割れはこれに直接的な影響を与えます。これにより、大学が運営に必要な収入を確保できなくなるリスクがあるため、特約の存在は合理的であると認定されました。

授業料等の金額と特約の内容

授業料等の金額や特約の内容は、当時の他の私立医科大学と比較しても特に不利益なものではないと判断されました。被告大学の授業料等は、高額であるものの、他の私立医科大学と同程度であり、特約自体も広く受け入れられているものでした。

特約が公序良俗に反するか

最高裁は、特約が公序良俗に反するかどうかについても詳細に検討しました。

自由な意思決定の制約

特約が合格者の入学辞退に関する自由な意思決定を著しく制約するものでなければ、公序良俗に反しないと判断されました。具体的には、特約が合格者に対して過度な圧力をかけたり、不当な不利益を強いるものでない限り、特約は有効とされます。

本件特約の合理性

本件においては、授業料等の返還を拒む特約が合理的であると認定されました。被告大学は、特約の存在によって入学者数を確保し、定員割れによる損失を防ぐことができるため、特約は大学の運営において重要な役割を果たしています。そのため、特約が公序良俗に反するものではないと結論付けられました。

このように、最高裁は特約の有効性を認め、授業料等の返還を拒むことが公序良俗に反しないと判断しました。これにより、大学側の主張が認められ、原告の返還請求は退けられることとなりました。

本件特約の合理性

本件においては、授業料等の返還を拒む特約が合理的であると認定されました。被告大学は、特約の存在によって入学者数を確保し、定員割れによる損失を防ぐことができます。そのため、特約は大学の運営において重要な役割を果たしています。そのため、特約が公序良俗に反するものではないと結論付けられました。

このように、最高裁は特約の有効性を認め、授業料等の返還を拒むことが公序良俗に反しないと判断しました。これにより、大学側の主張が認められ、原告の返還請求は退けられることとなりました。

判決の詳細な解説

本判決では、大学と合格者との間の契約がどのように成立し、その契約がどのように解消されるかについて詳細に言及しています。

契約の成立と解除

  • 契約の成立
    合格者が大学に納付金を支払った時点で、両者の間に在学契約が成立。
  • 契約の解除
    原告が他の大学に入学する意思を固め、被告大学に対して入学辞退を申し出た時点で契約が解除される。

不返還特約の性質

  • 損害賠償額の予定
    不返還特約は、大学が入学辞退によって被る損害をてん補するための損害賠償額の予定と解される。
  • 合理性の判断
    不返還特約は、授業料等の収入の逸失やその他の損失を回避するために合理的であり、公序良俗に反しない。

教育充実費の扱い

教育充実費は、6年間で支払うべき総額の一部を初年度に納付させるものであり、その金額は他の私立医科大学と比較しても特に高額ではないと認定されました。

まとめ

今回の判決は、大学が入学辞退者に対して授業料等の返還を拒む特約の有効性を認めたものでした。この判決は、多くの受験生にとって重要な指針となるものであり、入学手続き時に支払う学費の扱いについて理解を深める一助となるでしょう。

最後に

今回は大学の入学辞退と学費返還問題に関する公序良俗問題について解説しました。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が民法について学びたい方の参考になれば幸いです。

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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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