不倫相手への包括遺贈の是非:公序良俗に反しない遺贈の条件
妻子のある男性が、半同棲関係にあった女性に対して遺産の三分の一を包括遺贈する場合、その遺贈が公序良俗に反するか否かという問題が注目されました。今回取り上げるのは、最高裁判所第一小法廷が昭和61年11月20日に下した判決です。この判決は、妻子との婚姻の実体が失われた状態で、遺贈が純粋に生活保全のために行われた場合、公序良俗に反しないと判断されました。
【判例 最高裁判所第一小法廷 昭和61年11月20日 】
目次
背景と事件の経緯
関係者の紹介
この事件には以下の人物が登場します。
- 亡D(被相続人)
遺言者であり、本件の中心人物。 - 上告人A1(妻)
亡Dの法的な妻。 - 上告人A2(子)
亡DとA1の子。 - 被上告人(女性)
亡Dと半同棲関係にあった女性。
紛争の経過
- 1965年頃(昭和40年頃)
亡Dと妻A1の夫婦関係は冷え込み、別居生活が始まります。夫婦としての実体が徐々に失われていきました。 - 1969年(昭和44年)
亡Dは被上告人との半同棲関係を開始。以後約7年間、不倫関係を継続しました。 - 1971年1月(昭和46年1月)
一時的に関係を清算しようとする動きがありましたが、すぐに関係が復活し、その後も交際が続きました。 - 1979年頃(昭和54年頃)
亡Dは遺言を作成し、全財産を妻A1、子A2、被上告人に三分の一ずつ遺贈することを決定しました。 - 1980年頃(昭和55年頃)
亡Dが死去。遺言の内容が明らかになり、A1とA2が遺言の無効を主張して裁判を提起しました。
判決の核心部分
原審の事実認定
原審では以下の点が認定されました。
- 夫婦関係の実体
亡DとA1の夫婦関係は昭和40年頃から実質的に破綻しており、交流は希薄でした。 - 不倫関係の公然性
被上告人との関係は早期に亡Dの家族に知られており、隠されていませんでした。 - 遺言の目的
本件遺言は、不倫関係の維持継続を目的とせず、もっぱら被上告人の生活保全のために行われたものでした。 - 相続人の生活基盤
遺言の内容は相続人らの生活基盤を脅かすものではなく、妻A1と子A2も遺産の三分の一を受け取るものでした。
最高裁の判断
最高裁は、原審の判断を支持し、以下のように述べました。
不倫関係の終焉
最高裁は、本件遺言が不倫関係の維持を目的とするものでないことを確認しました。具体的には、亡Dが遺言を作成した際、彼の妻A1との婚姻関係はすでに実質的に破綻しており、被上告人との関係も亡Dの家族に公然と知られていました。したがって、遺言は不倫関係を続けるための手段ではなく、純粋に被上告人の生活を支えるためのものであると認定しました。
生活保全の必要性
被上告人は、亡Dの生計に依存していました。このため、遺言によって被上告人の生活が保全されることは合理的であり、公序良俗に反するものではないと判断されました。最高裁は、遺言が亡Dの死後も被上告人の生活を保障するための適切な手段であると見なしました。
相続人の権利保護
遺言の内容は、妻A1と子A2も遺産の三分の一ずつを取得することになっており、相続人の生活基盤が脅かされることはありませんでした。最高裁は、この遺言が相続人の権利を適切に保護しつつ、被上告人の生活保全を図るバランスの取れたものであると評価しました。
結論
以上の理由から、最高裁は、遺言が公序良俗に反するものではないと結論づけました。すなわち、遺言によって妻子と被上告人がそれぞれ遺産の三分の一ずつを取得することは、法的に有効であり、相続人の生活基盤を脅かすことなく被上告人の生活を保全する適切な手段であると認定されました。したがって、本件遺言は有効であり、原審の判断が正当であるとされたのです。
まとめ
今回の最高裁判決は、遺言が不倫関係の維持を目的とせず、被上告人の生活保全を目的としたものである場合、公序良俗に反しないことを示しました。夫婦関係の実体が失われた状態で行われた遺贈であっても、相続人の生活基盤を脅かさない限り、その遺言は有効であると認められました。これにより、遺産相続における遺贈の有効性についての重要な判断基準が示されたのです。
最後に
今回は不倫相手への包括遺贈の是非について解説しました。
今回は以上で終わります。
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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
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