税理士会の政治資金寄付は適法か?判例解説
税理士会が政治資金を寄付することは、法律上許される行為なのでしょうか?これは、重要な判例の一つであり、税理士会が政党などに政治資金を寄付することが目的の範囲外と判断された事例です。今回は、この判例について詳しく解説していきます。
【判例 最高裁判所第三小法廷 平成8年3月19日】
目次
事件の背景
税理士会の設立と目的
被上告人である税理士会(以下、会)は、税理士法に基づき設立された法人です。その目的は税理士の指導、連絡、監督に関する事務を行うことにあります(税理士法第49条第2項(当時))。会は、税理士の社会的、経済的地位の向上を図るために様々な活動を行っています。
(税理士会)
第49条税理士法(当時の条文)
- 税理士は、国税局の管轄区域ごとに、一個の税理士会を設立しなければならない。
- 税理士会は、税理士の使命及び職責にかんがみ、税理士の義務の遵守及び税理士業務の改善進歩に資するため、会員の指導及び連絡に関する事務を行うことを目的とする。
- 税理士会は、法人とする。
- 税理士会は、その名称中に税理士会という文字を用いなければならない。
税理士政治連盟の設立
一方、E税理士政治連盟(以下、E税政)は、税理士の政治活動を推進するために設立された政治団体であり、会とは別の独立した組織です。E税政は、税理士の地位向上や納税者のための民主的な税制の確立を目的としています。しかし、その活動には政治的な側面も含まれています。
特別会費の徴収と寄付
1976年、会は総会で税理士法改正運動のため特別会費を徴収すると決議しました。この資金は、K税政を通じてE税政やその他の税理士政治連盟に配分されました。この決議に基づき、会は会員から特別会費を徴収し、総額470万円のうち446万円をK税政、5万円をE税政に寄付しました。
上告人の主張
上告人は、この特別会費の納入義務を負わないことの確認を求めました。会がK税政へ金員を寄付することはその目的の範囲外の行為であり、このための特別会費を徴収する決議は無効であると上告人は主張しました。また、特別会費の滞納を理由に選挙権および被選挙権を停止されたことを不法行為とし、損害賠償を求めました。
判決の核心部分
原審の判断
原審は、会の決議が適法であると判断し、上告人の請求を棄却しました。また、K税政が税理士会の目的に沿った活動を行う団体であり、その活動が会の目的範囲内であると認めました。
最高裁の判断
しかし、最高裁判所はこれとは異なる判断を示しました。最高裁は、税理士会が政党など政治資金規正法上の政治団体に金員を寄付することは、たとえ税理士に係る法令の制定改廃に関する政治的要求を実現するためであっても、税理士法第49条第2項に定められた税理士会の目的の範囲外の行為であるとしました。
思想・信条の自由
政治団体への献金は、会員個々の政治的な思想や信条に基づくものであり、税理士会が強制的に会員から資金を徴収し、特定の政治団体に寄付することは、会員の思想・信条の自由を侵害する可能性があります。
強制加入団体の特性
税理士会は強制加入団体であり、会員は脱退の自由が実質的に保障されていません。このため、税理士会が会員の意に反して政治献金を行うことは不適切です。
まとめ
本件では、税理士会が税理士法に基づき設立された法人としての目的の範囲を超え、政党など政治団体に対する金員の寄付を行うことが問題とされました。最高裁判所は、税理士会の決議が無効であると判断し、上告人の請求を認容しました。この判例は、法人の目的の範囲を明確にし、会員の思想・信条の自由を尊重する重要な基準を示しています。
以上の解説を通じて、税理士会が法令に基づく目的の範囲を超えて政治資金を寄付することの適法性についての理解が深まることを期待します。
最後に
今回は税理士会の目的の範囲について解説しました。
今回は以上で終わります。
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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
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