自動車売買契約における権利の濫用

自動車を購入する際、多くの人はディーラーを通じて手続きを進めます。しかし、時にはサブディーラーが関与するケースもあります。
ディーラーとは、大きな自動車メーカーが直接運営する販売店のことです。一方、サブディーラーとは、ディーラーから車を仕入れて販売する小規模な販売店のことです。サブディーラーは、ディーラーの子会社や支店のような役割を果たしています。
そんな中で、ユーザーが全額を支払っているにもかかわらず、所有権を巡る争いが起きることがあります。
今回は、ディーラーが所有権留保特約を悪用し、ユーザーに対して自動車の返還を請求した判例を解説します。この判例を通じて、裁判所がどのように権利の濫用を判断したかを見ていきましょう。
【判例 最高裁判所第二小法廷 昭和50年2月28日

事件の背景

事件の概要

本件は、あるユーザーが自動車をサブディーラー(以下、D社)から購入したにもかかわらず、ディーラー(以下、X社)が所有権を主張して返還を求めた事件です。時系列に沿って詳細を見ていきましょう。

購入から所有権争いまでの経緯

購入と代金の支払い

昭和43年8月30日、ユーザー(以下、Y)はD社からX社所有の自動車を82万円で購入し、全額を完済しました。Yは車両の引渡しを受けました。
X社はD社とYとの売買契約の履行を支援し、自社のセールスマンをYのもとに派遣し、車検手続きや税金納付手続きなどを代行しました。

X社とD社の売買契約

昭和43年9月7日、X社はD社に自動車を71万1423円で売却しました。支払方法は分割払いとし、代金完済まで所有権はX社に留保される約定が結ばれました。
支払スケジュールは、同年9月13日に20万円、9月30日に5万1523円、10月以降は毎月5万1100円を支払うことになっていました。

D社の支払遅延とX社の対応

昭和43年11月から昭和44年1月までの間、D社は分割金の支払いを怠りました。
昭和44年2月24日頃、X社はD社に支払いを催告しました。しかし、D社からは支払がなされませんでした。そのため、X社はD社との売買契約を解除し、留保された所有権に基づいてYに対し自動車の引渡しを求めました。

裁判の争点

ディーラーの所有権主張

X社は、D社に対して所有権留保特約を付けて自動車を売却し、D社が代金を支払わなかったため契約を解除したことを根拠に、Yに対して自動車の返還を請求しました。

ユーザーの立場

一方、YはD社から自動車を購入し、全額を支払った上で自動車の引渡しを受けており、X社の主張に対して抵抗しました。
Yにとって、すでに全額を支払っている自動車を返還しなければならないというのは不合理です。X社の主張は民法上の権利の濫用であると主張しました。

(基本原則)
第1条

  1. 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
  2. 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
  3. 権利の濫用は、これを許さない。
民法

裁判所の判断

権利の濫用についての判断

裁判所は、以下の点を指摘しました。

  • X社はD社がYに自動車を販売する際に、その売買契約の履行に協力していた。
  • Yはすでに代金を完済し、自動車の引渡しを受けている。
  • X社の返還請求は、本来X社がD社に対して負担すべき代金回収不能のリスクをYに転嫁している。
  • このような請求はYに不測の損害を与えるものであり、権利の濫用として許されない。

最終判決

最高裁判所は、X社の返還請求を権利の濫用として退け、Yの主張を認めました。X社の主張は自己の利益のために他者に不合理な損害を与えるものであり、民法の趣旨に反することが強調されました。

まとめ

本件は、売買契約における所有権留保特約と権利の濫用に重要な示唆を与えるものです。すでに代金を完済しているユーザーに対してディーラーが所有権を主張することの不当性が明確に示され、権利の濫用が認められたことは、今後の類似ケースにおける指針となるでしょう。

最後に

今回は自動車売買契約における権利の濫用について解説しました。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が民法について学びたい方の参考になれば幸いです。

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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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