権利能力のない社団と不動産所有権の移転手続について

ある土地を所有する団体が、その所有権を巡る訴訟を起こしたと聞いたら、どのような結末を予想しますか?特に、その団体が法律上の人格を持たない「権利能力のない社団」であった場合、その裁判の行方は興味深いものとなります。今回は、最高裁判所の判例をもとに、この問題について詳細に解説します。
【判例 最高裁判所第一小法廷 平成26年2月27日

事件の背景と経緯

事件の概要

本件は、権利能力のない社団である被上告人が、その構成員全員に総有的に帰属する土地について、共有持分の登記名義人のうちの一人の権利義務を相続した上告人に対し、委任の終了を原因として、被上告人の代表者であるAへの持分移転登記手続を求める事案です。簡単に言えば、土地の所有権を巡る争いが発生し、社団の代表者の名義にその土地の持分を移転することを求めたのです。

訴訟の経緯

原審の判断

原審では、被上告人の請求を認容し、「上告人は、被上告人代表者Aに対し、上記土地について、委任の終了を原因とする持分移転登記手続をせよ」という判決が下されました。この判決に対し、上告人は以下の理由で異議を唱えました。

上告人の主張

  1. 権利能力のない社団の構成員全員に総有的に帰属する不動産については、当該社団の代表者が自己の個人名義に所有権移転登記手続をすることを求める訴訟を提起すべきであり、当該社団自身が代表者の個人名義に所有権移転登記手続をすることを求める訴訟を提起することはできない。
  2. 権利能力のない社団の構成員全員に総有的に帰属する不動産については、当該社団の代表者である旨の肩書を付した代表者個人名義の登記をすることは許されないため、「被上告人代表者A」名義に持分移転登記手続をすることを命じた原審の判断は違法である。

最高裁判所の判断

当事者適格の問題

最高裁判所は、まず当事者適格について検討しました。訴訟における当事者適格は、特定の訴訟物について誰が当事者として訴訟を追行し、誰に対して本案判決をするのが紛争の解決のために必要で有意義であるかという観点から決せられるべき事柄です。本件においては、実質的には権利能力のない社団が構成員全員に総有的に帰属する不動産について、その登記に関する訴訟を追行することが適切であると判断されました。

権利能力のない社団の代表者による所有権移転

さらに、権利能力のない社団の代表者が自己の個人名義に所有権移転登記手続をすることが認められる場合であっても、当該社団自身が原告として訴訟を追行することが実益がないとはいえないと述べました。このため、権利能力のない社団が当事者として所有権移転登記手続を求める訴訟を提起することが認められるべきであるとしました。

判決の効力

このような訴訟の判決の効力は、構成員全員に及ぶものであると解されます。そのため、代表者が判決に基づいて自己の個人名義への所有権移転登記を申請することができるとされました。

まとめ

本件判決は、権利能力のない社団がどのようにして法的に不動産の所有権を移転できるかを明示した重要な判例です。特に、社団の代表者名義に所有権を移転するための手続きを明確にした点で、今後の類似ケースにおいて重要な指針となるでしょう。

最後に

今回は権利能力なき社団の不動産所有権登記請求権について解説しました。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が民法について学びたい方の参考になれば幸いです。

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