表見相続人の取得時効と相続回復請求権の関係を解説
遺産相続は、家族や親族間での感情的な問題を引き起こしやすいテーマです。特に、相続権を巡る争いは複雑で、法的な知識が必要不可欠です。今回は、「相続回復請求の相手方である表見相続人が、真正相続人の有する相続回復請求権の消滅時効が完成する前であっても、当該真正相続人が相続した財産の所有権を時効により取得することができる」という趣旨の判例について解説します。
【判例 最高裁判所第三小法廷 令和6年3月19日】
目次
事件の背景
相続の開始と遺言
平成13年4月、Bは自筆証書遺言を作成し、甥であるY1及びA並びに養子である被上告人に遺産を等しく分与する旨を記しました。Bは平成16年2月13日に死亡し、Bの法定相続人は被上告人のみでした。
遺産の占有と登記
被上告人は、Bの死後直ちに本件不動産を所有の意思をもって占有しました。当時、被上告人は遺言の存在を過失なく知りませんでした。そのため、本件不動産を単独で所有することに過失なく信じていました。被上告人は同年3月に、相続を原因とする所有権移転登記を単独名義で行いました。
遺言執行者の選任と争いの発生
平成31年1月、裁判所はY1及びY3を本件遺言の遺言執行者に選任しました。翌2月、被上告人はY1及びAに対し、本件不動産に係る共有持分権の取得時効を援用する旨の意思表示を行いました。
法律的争点
民法884条と民法162条の関係
民法884条は相続回復請求権の消滅時効について定めています。この条文の趣旨は、相続権の帰属を早期かつ終局的に確定させることにあります。
(相続回復請求権)
民法
第884条
相続回復の請求権は、相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から5年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から20年を経過したときも、同様とする。
一方、民法162条は所有権の取得時効について定めています。
民法
- 20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
- 10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
この二つの条文は要件および効果が異なる別個の制度です。そのため、特別法と一般法の関係にあるとは解されません。
表見相続人による時効取得の可能性
本件では、※表見相続人である被上告人が、真正相続人の有する相続回復請求権の消滅時効が完成する前に、相続財産の所有権を時効により取得することができるかが問題となりました。
※真正の相続人ではないが、相続人のような外観を有している者のこと。このケースでは、被上告人は自己の法定相続分に関しては真正相続人です。しかし、自己の法定相続分を超える部分については表見相続人となります。
少し分かり難い部分ですが、被上告人は民法162条の10年の取得時効成立を、Y1及びAは民法884条の20年の相続回復請求権の存続をそれぞれ主張したことになります。
これについて、裁判所は民法その他の法令において、表見相続人が消滅時効の完成前に時効取得を妨げられる旨の規定が存在しないことを理由に、被上告人による時効取得を認めました。
裁判所の判断
判例の詳細解説
裁判所は、民法884条の趣旨を考慮し、相続権の帰属及びこれに伴う法律関係を早期かつ終局的に確定させる必要があると判断しました。これに基づき、消滅時効が完成していない場合でも、時効取得の要件を満たしている表見相続人は、真正相続人の相続した財産の所有権を時効により取得することができるとしました。
この判断は、昭和48年の大法廷判決(民集32巻9号1674頁)に基づき、相続回復請求権の消滅時効が完成する前でも時効取得が認められるという考え方に沿ったものでした。また、包括受遺者が相続回復請求権を有する場合でも、この判断は適用されます。
結論
今回の判例は、相続回復請求権と所有権の取得時効の関係についての重要な判断を示しました。特に、表見相続人が真正相続人の相続財産を時効により取得する可能性について、具体的な法的枠組みを提供した点で意義があります。
この判例を通じて、相続に関する法律問題がいかに複雑であるかを再認識し、適切な法的対応の重要性を強調することができます。相続に関する問題に直面した際には、専門家のアドバイスを求めることが賢明です。
最後に
今回は表見相続人の取得時効と相続回復請求権について解説しました。
今回は以上で終わります。
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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
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