本人の追認拒絶後の無権代理行為の効力について解説
無権代理行為に関する判例は、法律実務家にとって興味深く重要な学習材料です。今回は、無権代理行為の追認拒絶に関する最高裁判所の判例を取り上げ、その詳細な背景と裁判所の判断の経緯を時系列で解説します。
【判例 最高裁判所第二小法廷 平成10年7月17日】
目次
事件の背景
Eの意思能力喪失と無権代理行為の発生
- 昭和58年11月
Eは脳循環障害により意思能力を喪失。この時点で、Eの財産管理に問題が生じました。 - 昭和60年1月21日~昭和61年4月19日
Eの長男であるFがEの代理人として、兵庫県信用保証協会、B1銀行、B2、B3との間で根抵当権設定契約を締結。しかし、これらの契約はEの意思に基づかず、Fの無権代理行為でした。
Fによるさらに不正な行為とその後の展開
- 昭和61年4月19日
Fは、再びEの代理人としてB3との間でEの保証契約を締結。この契約も無権代理行為でした。 - 昭和61年9月1日
Fが死亡。Fの相続人である妻Hと子どもたち(上告人ら)は限定承認をしました。
Eの禁治産宣告と本訴の提起
- 昭和62年5月21日
Eは神戸家庭裁判所により禁治産者と宣告されました。同年6月9日に確定し、Hが後見人となりました。 - 昭和62年7月7日
Hは、Eの代理として、本件各登記の抹消登記手続きを求める本訴を提起しました。
Eの死亡と訴訟の承継
- 昭和63年10月4日
Eが死亡。上告人らが代襲相続により本件各物件を取得し、訴訟を承継しました。
法律上の争点と原審の判断
上告人の主張
上告人らは、Eの相続人として、本件各物件の所有権に基づき、本件各登記の抹消登記手続きを求めました。これに対し、被上告人らは以下のように主張しました。
- 無権代理行為の効力
Fを相続した後に本人であるEを相続したので、Fの無権代理行為についてEがした追認拒絶の効果を主張することは信義則上許されない。 - 表見代理
Fの行為について表見代理の成立を主張しました。
原審の判断
- 表見代理の成立否定
Eは被上告銀行及び被上告会社が主張する表見代理の成立時点以前に意思能力を喪失していたため、表見代理は成立しないと判断しました。 - 無権代理行為の効力肯定
原審は、上告人らが無権代理人であるFを相続した後、本人であるEを相続したため、信義則上本人が自ら法律行為をしたのと同様の地位を生じるとしました。
最高裁判所の判断
無権代理行為の追認拒絶とその効果
最高裁判所は、原審の判断を破棄し、次のように判断しました。
- 無権代理行為の追認拒絶の効果
本人が無権代理行為の追認を拒絶した場合、その後に無権代理人が本人を相続したとしても、無権代理行為が有効になるものではないと解釈しました。 - 法的根拠
民法第113条第1項の規定に基づき、無権代理人がした行為は、本人がその追認をしなければ本人に対してその効力を生じないとしています。追認拒絶の後は、本人であっても追認によって無権代理行為を有効とすることはできません。
(無権代理)
第113条民法
- 代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。
- 追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない。
本件における具体的判断
- Eの追認拒絶の確認
Eは、本件各登記の抹消登記手続きを求める本訴を提起したことにより、Fの無権代理行為について追認を拒絶したと認めました。 - 上告人らの地位の確認
上告人らがEを相続したからといって、既にEがした追認拒絶の効果に影響はなく、Fによる無権代理行為が有効になるものではないと判断しました。
まとめ
本判例は、無権代理行為の追認拒絶と相続に関する重要な判断を示しています。具体的には、無権代理行為に対する追認拒絶が行われた場合、その後に無権代理人が本人を相続しても追認拒絶の効果が継続することが確認されました。これは、無権代理行為に関する民法第113条第1項の適用における重要な判例として位置づけられます。
最後に
今回は本人の追認拒絶後の無権代理行為の効力について解説しました。
今回は以上で終わります。
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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
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