共同相続人間の相続分の譲渡と農地法の適用について解説

相続は誰にとっても避けられない現実です。そして、農地が関わるとその法的手続きは一層複雑になります。今回は、共同相続人間での相続分の譲渡が農地法にどのように影響するのかについて、最高裁判所がどのような判断を下したのかを詳しく解説します。
【判例 最高裁判所第三小法廷 平成13年7月10日

事件の背景

Dの死去と相続人の登場

事件の発端は、昭和46年8月8日にDが死亡したことに始まります。Dの遺産には3筆の農地が含まれていました。Dの法定相続人は以下の5人です。

  • 養子E
  • 2女F
  • 2男の長女である上告人
  • Dの3男の長女I
  • 義一の2女A

相続分の譲渡

平成3年3月14日、Dの農地について相続を原因とする所有権移転登記が行われました。E、F、Iには各8分の2の持分。上告人とAには各8分の1の持分が登記されました。平成6年11月8日、EとFはそれぞれの相続分を上告人に贈与しました。

持分移転登記の申請と却下

平成7年1月23日、上告人、E、Fは共同して、相続分の贈与に基づく持分移転登記を申請しました。しかし、農地法3条1項の許可書が添付されていなかったため、申請は却下されました。これに対し、上告人は却下決定の取消しを求めて訴訟を提起しました。

(農地又は採草放牧地の権利移動の制限)第3条

  1. 農地又は採草放牧地について所有権を移転し、又は地上権小作権質権使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、政令で定めるところにより、当事者が農業委員会の許可(これらの権利を取得する者(政令で定める者を除く。)がその住所のある市町村の区域の外にある農地又は採草放牧地について権利を取得する場合その他政令で定める場合には、都道府県知事の許可)を受けなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合及び第5条第1項本文に規定する場合は、この限りでない。
農法

裁判の経緯と判決

第1審判決

第1審は、共同相続人間の相続分の譲渡については農地法の許可を要しないと解し、上告人の請求を認容しました。

原審判決

しかし、原審はこれを取り消し、上告人の請求を棄却しました。原審の判断は以下の通りです。

原審の主張

  1. 相続分の譲渡は個々の相続財産に対する共有持分の移転を内包する行為であり、農地法3条1項の許可が必要である。
  2. 相続分の譲渡は遺産分割に先行するものではないため、農地法3条1項7号を類推適用することはできない。
  3. 包括遺贈は包括的割合による相続財産の遺贈であり、相続分の譲渡とは異なるため、農地法3条1項10号、農地法施行規則3条5号を類推適用することはできない。
  4. 不動産登記法の規定に準拠して登記が認められているが、本件では適用されないため、許可書が必要である。

最高裁判所の判断

最高裁判所は原審の判断を否認し、以下の理由から上告人の主張を認めました。

法的判断のポイント

  1. 相続分の譲渡と包括的権利移転
    • 共同相続人間で相続分の譲渡がされた場合、その譲渡は積極財産と消極財産を包括した遺産全体に対する譲渡人の割合的な持分が譲受人に移転することを意味します。
    • これは遺産分割が実行されると、その結果に従って相続開始時に遡って被相続人からの直接的な権利移転が生ずることになります。
  2. 農地法の規制対象と相続
    • 農地法3条1項は、農地に係る権利の人為的な移転を制限する趣旨の規定であり、相続による権利移転は規制の対象外です。
    • 相続分の譲渡は相続に準じた権利移転であり、農地法3条1項の許可を要しないと解されます。

結論

本件において、最高裁判所は、共同相続人間で行われた相続分の譲渡に基づく農地の権利移転については農地法3条1項の許可を必要としないとの判断を示しました。この判例は、相続と農地に関する法律実務において重要な指針となるものです。

最後に

今回は共同相続人間の相続分の譲渡と農地法の適用について解説しました。

最後までご覧いただき、ありがとうございます。
この記事が農地転用許可の取得を検討されている方の参考になれば幸いです。

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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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