AIによる発明に特許は認められる?裁判所の判断は?

特許制度は技術革新を促進し、発明者に対してその功績を評価するための重要な仕組みです。
しかし、現代の技術進歩により、AIが自律的に発明を行うことが現実のものとなり、特許法の枠組みが揺れ動いています。特に、AIが発明者となり得るかどうかが焦点となった今回の訴訟では、東京地裁の判断が大きな注目を集めました。
今回は、AIによる発明に特許を認めるべきかどうかが争われた判例について解説します。
【判例 東京地方裁判所 令和6年5月16日

事件の背景

  1. 事件の発端
    • 原告Aは、AI「ダバス」を発明者として特許出願を行いました。このAIは自律的に発明を行う能力を持っており、その発明者名義で国際特許出願(特願2020-543051号)を行いました。
    • 原告は、特許庁に対し、発明者として「ダバス、本発明を自律的に発明した人工知能」と記載した国内書面を提出しました。
  2. 特許庁の対応
    • 特許庁長官は、発明者名として自然人の氏名を記載するよう補正を命じましたが、原告はこれに応じませんでした。
    • 結果として、特許庁は令和3年10月13日に出願却下の処分を行いました。
  3. 訴訟の提起
    • 原告は、特許法における「発明」がAI発明を含むものであり、AI発明において発明者の氏名を記載する必要はないと主張し、本件処分の取り消しを求めて訴訟を提起しました。

法的論点

特許法における「発明」

特許法2条1項は、「発明」とは「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定義しています。この定義がAI発明を含むかどうかが争点となりました。

(定義)

第2条
この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なものをいう。

特許法

発明者の氏名記載の必要性

特許法184条の5第2項3号および特許法施行規則38条の5第1号は、発明者の氏名を記載することを要求しています。これがAI発明にも適用されるかが問われました。

(書面の提出及び補正命令)

第百八十四条の五 国際特許出願の出願人は、国内書面提出期間内に、次に掲げる事項を記載した書面を特許庁長官に提出しなければならない。
2 特許庁長官は、次に掲げる場合は、相当の期間を指定して、手続の補正をすべきことを命ずることができる。
 前項の規定による手続が経済産業省令で定める方式に違反しているとき。

特許法

(書面の提出手続に係る方式)

第三十八条の五 特許法第百八十四条の五第二項第三号の経済産業省令で定める方式は、次のとおりとする。

一 特許法第百八十四条の五第一項各号に掲げる事項が記載されていること。

特許法施行規則

TRIPS協定の適用

TRIPS協定27条1項は、「特許は、新規性、進歩性及び産業上の利用可能性のある全ての技術分野の発明について与えられる」と規定しています。この規定がAI発明にも適用されるかが議論されました。

第27条 特許の対象

  • (1) (2)及び(3)の規定に従うことを条件として,特許は,新規性,進歩性及び産業上の利用可能性(注)のあるすべての技術分野の発明(物であるか方法であるかを問わない。)について与えられる。第65条(4),第70条(8)及びこの条の(3)の規定に従うことを条件として,発明地及び技術分野並びに物が輸入されたものであるか国内で生産されたものであるかについて差別することなく,特許が与えられ,及び特許権が享受される。
    (注)
    この条の規定の適用上,加盟国は,「進歩性」及び「産業上の利用可能性」の用語を,それぞれ「自明のものではないこと」及び「有用性」と同一の意義を有するとみなすことができる。
TRIPS協定

裁判所の判断

発明者は自然人に限られる

知的財産基本法2条1項および特許法の規定を総合的に解釈し、発明者は自然人に限られるとしました。AIは発明者として認められないため、AIを発明者とする出願は形式的要件を満たさないと判断されました。

(定義)

第二条 この法律で「知的財産」とは、発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見又は解明がされた自然の法則又は現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいう。

知的財産基本法

特許法の目的と解釈

特許法の目的は「発明を奨励し、もって産業の発達に寄与する」ことです。この目的を達成するためには、現行の法律枠組みの中で発明者を自然人に限定することが妥当とされました。

国民的議論の必要性

AI発明を特許法の枠組みで保護するかどうかについては、国民的な議論を経て新たな制度設計が必要であると指摘しました。現行法ではAI発明に対する適切な保護を提供することが困難であるため、制度改正が求められます。

まとめと今後の展望

本件訴訟において、東京地裁はAI発明に対する特許の付与を否定する判断を示しました。これは現行の特許法が自然人を前提に設計されているためであり、AI発明に対応するための法改正が必要であることが示唆されています。

AI技術の進展に伴い、特許法もその対応が求められる時代となっています。AI発明がもたらす技術革新を適切に評価し、保護するための新たな制度設計が必要不可欠です。今後、国民的な議論を経て、AI発明に対応する特許制度の整備が進むことを期待します。

最後に

今回はAIによる発明に特許が認められるかについて解説しました。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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