相続預金の使い込みに関する不当利得返還請求ついて解説

親が残した遺産を巡るトラブルは避けたいものです。しかし、現実には遺産相続の場面で多くの問題が発生しています。特に、預金の取り扱いに関する問題は頻繁に発生します。今回は、相続預金を巡る不当利得返還請求についての最高裁判所の判例を通じて、法的な観点からその解決方法を解説します。
【判例 最高裁判所第三小法廷  平成16年10月26日

事件の背景

本件は、相続に関する不当利得返還請求事件です。以下に時系列順で事件の背景を解説します。

登場人物とその関係

  • 丙:被相続人
  • 上告人:丙の子
  • 被上告人:丙の子

事件の経緯

  1. 丙の預金
    • 丙は、複数の金融機関(以下「本件各金融機関」)に預金を有していました。
  2. 丙の死亡と法定相続
    • 丙は平成3年4月30日に死亡し、上告人と被上告人が法定相続人となりました。丙の預金債権は、それぞれ2分の1の割合で相続されました。
  3. 上告人による預金の払戻し
    • 上告人は、本件各金融機関から丙の預金の払戻しを受けましたが、その中には被上告人の相続分である2分の1に相当する金額も含まれていました。
  4. 不当利得返還請求訴訟
    • 被上告人は、上告人が自分の相続分を無権限で払戻しを受けたと主張し、不当利得返還請求訴訟を提起しました。被上告人は、上告人に対し、自分の相続分に相当する預金額の返還を求めました。

不当利得の返還義務)
第703条
法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(…)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。

民法

裁判の争点と経緯

上告人は、金融機関に過失があるため、払戻しは民法第478条の弁済として有効ではなく、被上告人は損失を被っていないと主張しました。

(受領権者としての外観を有する者に対する弁済)
第478条
受領権者(…)以外の者であって取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものに対してした弁済は、その弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、その効力を有する。

民法

しかし、最高裁判所は以下の点を重視しました。

  1. 上告人が当初は受領権限があるとして払戻しを受け、その後に金融機関の過失を理由に無効を主張したこと。
  2. 被上告人は、金融機関の過失の有無について判断を迫られる不利益を被る立場にないこと。

最高裁判所は、※上告人の主張が信義誠実の原則に反し、許されないと判断しました。
※勝手に人の預金を使っておいて「俺が無権限であることを見抜けなかった銀行が全部悪い。だから民法478条により預金の使い込みは無効。よって民法703条の「損失」が発生していないからノーカン」は通用しないという意味です。
この判決は、相続における預金払戻しの正当性と信義則の適用に関する重要な判例となっています。

まとめ

本判例は、相続における預金の取扱いと不当利得返還請求の法的解釈において重要な指針を提供します。特に、信義誠実の原則が強調されており、遺産相続における公平性と誠実さが求められています。相続の場面では、法律の理解と適切な手続きが重要です。今回の判例を参考に、遺産相続における法的トラブルを未然に防ぎ、円満な相続手続きを心がけましょう。

本件判例を通じて、相続に関する法律の理解が深まり、今後のトラブル防止に役立つことを願っています。

最後に

今回は相続預金の使い込みに関する不当利得返還請求について解説しました。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が民法について学びたい方の参考になれば幸いです。

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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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