性同一性障害者が性別変更の審判を受けるための条件は違憲か?
「誰もが自分らしく生きる権利を持つ」という理念。それは現代社会で広く受け入れられつつあります。
しかし、その実現には多くの障壁が存在します。
特に、性同一性障害者が法的に性別を変更する際の手続きは、憲法との関連性や人権の問題に直面しています。
今回は、日本の法律がこれらの問題に対処しているかを最高裁判例に基づき解説します。
【判例 最高裁判所第二小法廷 平成31年1月23日】
事件の背景
平成30年に起こったこの事件では、ある性同一性障害者が性別の取扱変更を申立てました。この申立ての核心には、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律第3条1項4号の規定が関わっています。この規定は、性同一性障害者が性別変更の審判を受けるための条件を定めたものです。その条件の一つに「生殖腺がないこと、または生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」が含まれています。そのため、事実上、生殖腺除去手術を受けることが必須とされています。
(性別の取扱いの変更の審判)
第三条 家庭裁判所は、性同一性障害者であって次の各号のいずれにも該当するものについて、その者の請求により、性別の取扱いの変更の審判をすることができる。
一 十八歳以上であること。
二 現に婚姻をしていないこと。
三 現に未成年の子がいないこと。
四 生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。
五 その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。
性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律
手術の目的は、性別変更後の親子関係の問題や、社会的混乱を防ぐためとされています。
特に、社会が生物学的な性別に基づいて男女を区別してきたことから、急激な変化を避ける意図があるとされています。しかしながら、この規定により、性同一性障害者が法的に性別を変更するためには、自己の意思に反してでも身体的な手術を受けざるを得ないケースが生じることも否定できません。
事件では、原告が生殖腺除去手術を受けていなかったため、申立てが却下されました。
これは、本人にとって重大な影響を及ぼすものであり、結果的に特別抗告事件となり、最高裁まで持ち込まれることとなりました。
この審理では、特例法が憲法13条、14条1項に反しているかが争点となりました。
特例法と憲法の関係
最高裁判所は、特例法3条1項4号の規定が、性同一性障害者の生殖腺除去手術を強制するものではないものの、手術を受けなければ性別変更を望む場合にその審判を受けることができないという事実が、個人の尊厳に対する制約であることを認識していました。
しかし、裁判所はこの制約が社会秩序や親子関係の問題防止のため必要と判断しました。
ただし、裁判所も特例法が社会の変化に伴い再評価が必要であることを認めました。社会の認識や法制度が変わる中で、性同一性障害者の法的権利を保護しながら公共の福祉を維持するためのバランスを再考する必要があると述べています。
この判決は、憲法13条・14条1項の解釈において個人の権利と公共の福祉とのバランスを考慮し、現行の法的枠組みが現時点では違憲ではないと判断したものの、今後の社会の変化や多様性への理解の進展に応じて法律の見直しが求められることを示唆しました。
【個人の尊厳と公共の福祉】
日本国憲法
第13条
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
【法の下の平等、貴族政治の廃止、栄典】
第14条日本国憲法
- すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
法改正と社会の受け止め
特例法の制定以来、7000人を超える性同一性障害者が性別変更を認められています。さらに、性同一性障害者が社会において適切な取扱いを受けるための取組が進められています。これにより、性自認の多様性を受け入れる社会の構築に向けて進歩が見られます。
結論
性同一性障害者の性別に関する現行の法律は、社会の変化に伴い進化し続けるべきです。性自認と生物学的性別の法的な取扱いは、個々の人格と自由を尊重するためのものです。そのバランスをどのように取るかが今後の課題です。
最後に
今回は性同一性障害者が性別の取扱いが憲法に反するかどうかについて解説しました。
今回は以上で終わります。
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この記事が憲法について学びたい方の参考になれば幸いです。
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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
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