HBV感染による慢性肝炎:最高裁が示した除斥期間の新指針
集団予防接種は、疾病の予防に貢献してきました。しかし、その反面、予期せぬ感染被害も引き起こす場合があります。本判例は、乳幼児期に集団予防接種等でB型肝炎ウイルス(HBV)に感染し、成人後に慢性肝炎を発症した人々の損害賠償請求についての司法判断を示しています。本事案の背景には、集団予防接種の有益性とそのリスクの評価に対する複雑な問題が潜んでいます。
【判例 最高裁判所第二小法廷 令和3年4月26日】
目次
事件の背景
集団予防接種と感染の経緯
上告人たちは乳幼児期に集団予防接種等を受けた際にHBVに感染し、その後、成人後に慢性肝炎を発症しました。彼らの訴えの焦点は、集団予防接種での注射器の連続使用により感染したことへの国家賠償法に基づく損害賠償請求です。
【公務員の不法行為と賠償責任、求償権】
第1条国家賠償法
- 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
B型肝炎の特性
B型肝炎は、HBVに感染することで発症し、長期化すると肝硬変や肝細胞がんを発症する可能性があります。ウイルスの活動性は抗原と抗体の量によって評価され、感染の様式によって急性か慢性かが分かれます。特に乳幼児期に感染すると持続感染になる可能性が高く、免疫応答によってセロコンバージョン(抗原から抗体への転換)が起こり得ます。
上告人の経緯
上告人AとBは、それぞれ昭和33年、昭和27年に生まれ、乳幼児期に集団予防接種等によって感染しました。Aは昭和62年にHBV抗原陽性の慢性肝炎を発症し、平成12年頃にはセロコンバージョンが起こり鎮静化しましたが、平成19年には再びHBV抗原陰性の慢性肝炎を発症しました。Bも同様に平成3年にHBV抗原陽性慢性肝炎を発症し、その後セロコンバージョンを経て平成16年頃にHBV抗原陰性慢性肝炎を発症しました。
司法判断の分析:損害賠償の起算点
本判決で焦点となったのは、HBV抗原陰性慢性肝炎の発症により発生した損害の賠償請求における除斥期間の起算点です。従来の判例では、損害賠償の請求権はHBV抗原陽性慢性肝炎の発症時から計算されるとされていました。
(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)
民法(平成29年改正前)
第724条
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする。
しかし、最高裁は今回の判決で、HBV抗原陽性慢性肝炎とHBV抗原陰性慢性肝炎は質的に異なるものとして、損害賠償請求権の除斥期間の起算点はHBV抗原陰性慢性肝炎の発症時点と判断しました。これにより、上告人らの損害賠償請求は除斥期間内にあったとされ、原判決は破棄されました。
まとめ:本判決が示すもの
本判決は、医療行為に伴う感染被害における損害賠償請求において、損害の発生時点を慎重に判断する必要性を強調しています。また、特定B型肝炎ウイルス感染者給付金等の支給に関する特別措置法とも連動しており、感染被害者の救済を進めるための重要な指針となりました。
最後に
今回は民法742条の除斥期間の起算点についての新指針について解説しました。
今回は以上で終わります。
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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
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