建物占有者と登記名義人の責任について解説

民法の物権編を勉強していると、誰もが疑問に思うことがあるかと思います。
それが、建物の占有者と登記名義人の責任に関する以下の2つの有名判例の違いです。

建物の登記簿上の所有名義人にすぎない者は、たとえ、所有者との合意により名義人となつた場合でも、建物の敷地所有者に対して建物収去義務を負わないと解すべきである。

昭和47年12月7日  最高裁判所第一小法廷

甲所有地上の建物を取得し、自らの意思に基づいてその旨の登記を経由した乙は、たとい右建物を丙に譲渡したとしても、引き続き右登記名義を保有する限り、甲に対し、建物所有権の喪失を主張して建物収去・土地明渡しの義務を免れることはできない。

平成6年2月8日  最高裁判所第三小法廷 

この通り、一見するとほぼ同じ内容にも関わらず結論が正反対となっています。
今回は、この判例の趣旨と違いについて解説します。

結論:自らの意思で実態上の所有者として登記したか否かにより結論が変わる

結論から先に述べると、現登記名義人に所有の意思がある(あった)かどうかがポイントになります。
登記を持っていても実態として名義貸しの状態であったのが前者の判例であり、所有の意思を持って一度は自己に登記を設定したのが後者の判例となります。
以下、少し掘り下げて解説します。

建物の占有者と登記名義人が異なる場合の責任

まず、前者の判例から解説します。

土地や建物の所有権に関する紛争は頻繁に発生しますが、特に占有者と登記名義人が異なる場合の責任問題は複雑です。一般的な原則として、物理的に建物を占有している者が、その建物を収去し土地を明渡す義務を負います。これは、占有者が実際にその場所を支配し、建物に対する直接的な管理を行っているためです。

昭和47年12月7日最高裁判所第一小法廷では、上告人A2が土地の賃借権を無断で譲り受け、その土地上に建物を建築しました。上告人A1は建物の名義上の所有者であり、実質的にはA2が所有者です。上告人A1に対して、建物の撤去および土地の明渡しを求める請求がなされました。原判決は、建物の名義所有者(A1)が、実質的な所有者でないために撤去義務を免れることはできないと判断しました。しかし、本判決では、名義所有者が実際の所有者でない場合には、その建物を撤去する義務を負うものではないという異なる見解を示しています。このため、上告人A1に関する部分は破棄され、再審査のために原審に差し戻されました。

自らの意思で登記を行った場合の責任

次に、後者の判例を解説します。

一方で、登記名義人が自らの意思で建物の登記を行い、その後建物を第三者に譲渡したとしても、登記名義が変更されていない限り、法的な責任はそのまま残ります。この点に関しては、法の公平性と信頼性が問われるため、法律は登記名義人に厳格な態度を取ります。

平成6年2月8日最高裁判所第三小法廷では、被上告人が自らの名義で建物の登記を行いながら、その建物を第三者に売却した事案が審理されました。売却後も登記名義が更新されず、被上告人の名前で登録されていたため、土地の所有者(上告人)は被上告人に対して建物の撤去を求めることができました。最高裁は、建物の売却が登記されていないため、名義上の所有者である被上告人には依然として建物の収去義務があると判断しました。

まとめ

この2つの判例は、不動産登記の正確さと時宜を得た更新の重要性を示しています。登記は単なる形式的な手続きではなく、所有権関係の公的な記録としての役割を果たします。その内容が現実の所有権状態を正確に反映していない場合、混乱や紛争の原因となり得ます。したがって、不動産の取引においては、登記の適時更新が不可欠であり、所有権の明確化がトラブルを未然に防ぐための鍵となります。

最後に

今回は建物占有者と登記名義人の責任について解説しました。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が民法について学びたい方の参考になれば幸いです。

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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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