建設業の2024年問題について
建設業の2024年問題なる言葉を最近よく耳にします。
自分も元々は建設関係の仕事に従事していました。
今後の動向が気になって仕方がない人間の一人です。
概要をかいつまんで解説すると、働き方改革の一環として、長時間労働が状態となっている建設業や物流業の残業時間の上限を定めることにより離職率が高い業界全体の健全性を向上しようとする施策です。
具体的には、残業時間を月45時間、年間360時間以内にすることが定められました。
なお、この時間を超えて残業をさせた場合は罰則も設けられています。
今までは建設業、物流業、医師などの職種では残業時間の上限規定の猶予がありました。
しかし、2024年4月からその猶予が撤廃されることから2024年問題と呼ばれるようになりました。
一見すると、過酷な長時間労働の環境に当たっていた労働者の救済や業界全体の若者離れが緩和される良い流れなのかと思えます。
しかし、建設業の2024年問題も掘り下げれば障害が多いのです。
この記事では、行政書士という立場をいったん離れ、元建設業関連の従事者であった立場から建設業の2024年問題を掘り下げていこうと思います。
なお、以下のリンクから厚生労働省の作成した関連法案の開設記事を参照できます。
より詳しく知りたい方はこちらを参照してください。
PowerPoint プレゼンテーション (meti.go.jp)
目次
問題1 施工管理者は休みにくい現状がある
工程管理(作業が計画どおりに進んでいるのかチェックすること)は建設業において非常に重要な要素の一つです。
どんなに美しい仕事をしていても、納期に間に合わなければ何の意味も持ちません。間に合わなければ、おそらくその会社は次からは契約を打ち切られてしまうでしょう。
そのような事態を避けるため「完成期日から逆算して、いつまでに何をしなければならないのか」を誰の目から見ても明らかにする必要があります。
そのために工程管理表(作業全体の予定表)を作成し、人員や機械の動態を決定します。
(↓作業工程表とはこんな感じのものです【出典:国土交通省HP】)
施工管理者が激務すぎる
そして実際の作業が始まれば、毎日の作業の進捗度を数値化して、計画通りに進捗しているのかを毎日分析し続けます。
もし作業の遅れが発覚した場合は速やかに対策を講じなければなりません。
この分析を実施するのが施工管理者です。通常であれば工事現場の責任者クラスがこれを実施します。
自分も幾度となくこの施工管理者をやったことがあります。
これが非常に大変なんです・・・
施工管理者の実態
まず、工事の数週間前から工程表の作成に着手します。
この時点で休みはほぼありません。
また、工程表が完成したら現場の職人達と打ち合わせをして流れを確認します。
そして、一度工事が着工されてしまえば、ずっと現場に付きっきりです。
また、その日の進捗度を分析して元請にデータを送信しなければいけません。
そのため、作業が終わってからもやらなければならない事務作業に追われます。
それ以外にも、毎日必ず作業開始前に職人達との打ち合わせ、作業が終わったら明日の流れの打ち合わせ、次の工事が決まれば現工事と同時並行に次の作業工程表作成等、やらなければならない仕事はたくさんあります。
いや、これがもう、本当に大変なんですよ・・・
帰宅時間は日付が変わってからがデフォです。
あるいは、帰宅することもできず事務所で寝袋で仮眠を取ってそのまま連勤も普通です。
さらに、現場の職人様からは厄介な仕事を押し付ける嫌な奴認定されて邪険にされます。
もう、毎日が精神を擦り減らす日々なんですよ・・・
施工管理者が孤独すぎる
施工管理の仕事は助けてくれる人がいない
工程管理という作業自体は実はそれほど難しくありません。
義務教育レベルの数学の知識と基礎的な建設技術の知識があれば誰でもできます。
ですが、上記の現状があるため、当然ながら誰もやりたがる者はいません。
手伝ってくれる人もいません。
上司から「あ、この人は工程管理できるんだ!」と思われたら次からその人が工程管理者に任ぜられるのが目に見えています。
そのため、手伝ってくれと頼んでも大抵の人は「いや~、自分は頭悪いんで無理っス、すんません」と言って光の速さで去っていきます。
皮肉なことに、優秀な人間には仕事は集中しません。
真面目で優しく、どんなに厳しい仕事でも絶対に断らない人間に仕事は集中します。
自分の経験上、本当に優秀な人間は、厄介な仕事から逃げるのが上手な人間でした。
今考えれば、危機管理能力に優れていたのだと思います。
ちなみに、施工監理技術士という工程管理の技術を専門的に学ぶことができる資格が存在します。
ですが、これは専任技術者や監理技術者という役職に就くための資格であって、この資格がなければ工程管理をしてはいけないというわけではありません。
対策:施工管理ができる人材を増やす努力が必要
そのような実情があるため、施工管理者はとにかく休みが取りにくいものです。
また、長時間労働がデフォになりがちです。
これに関しては、対策は一つしかないと思います。
それは、「工程管理ができる人材を増やす」ということです。
前述したとおり、工程管理には必修資格がありません。基本的な知識があれば誰でも実施できます。
とにかく、やり方を教えてることです。
少なくとも現場のNO2~3までの人は漏れなく工程管理ができるようにすべきです。
そうでなければ施工管理者は永遠に休めないし早く帰ることもできません。
問題2 工期は絶対に厳守しなければならない
工期の遅れは損害賠償を請求されることがあるほど重い
問題1の冒頭でも触れましたが、建設業は工期が命です。
まあ、これは建設業に関わらず納期がある仕事は大抵そうなのですが…
この工期はいかなる理由があろうと厳守しなければなりません。
現場の技術者が倒れた、自然災害等の天変地異があった等、常識的に考えて作業遅延による工期延長が認められそうな理由も基本的には一切認められません。
もし納期までに完成が間に合わなければ、施主から莫大な損害賠償を請求されてしまう可能性もあります。
最近では大手ゼネコンの大成建設が世田谷区庁舎の建て替え工事が約2年ほど工期が遅れる可能性があるということで、都から莫大な損害賠償を請求されるのではないかと話題になっています。(もっとも、この件は根本的に設計計算ミスが原因のようですが)
大成建設、「世田谷区役所」工事が2年遅延の波紋| 東洋経済オンライン
そのため、作業遅延が発覚した場合はいかなる手段を用いて遅れを取り戻そうとします。すなわち、残業です。
対策:ある程度のゆとりを持った施工計画を立てておく
こればかりは、そもそも対策のしようがないとは思います。
しかし、あるとすれば「最初からある程度のバッファを持たせた施工計画を作成する」くらいしかないのかと思います。
そして、計画を立てた以上はその計画を厳守することが重要です。
計画とは実行されるために存在します。例外はありません。
実効性のない計画は妄想です。
なので、計画作成の段階でこの計画は本当に実行できるのかを検討することが必要です。
また、予想外の事象に対応する余力はあるのかをよく考えることが大切です。
島本和彦の漫画「燃えよペン」のように、物理的に不可能な計画を立ててしまい気合で何とかするというのは、漫画の世界だから許されるのです。
問題3 慢性的な人手不足
建設業でテレワークは難しい
建設業界の離職率は高いと言われています。
厚生労働省の「新規学卒就職者の離職状況(平成28年3月卒業者の状況)」によると、大学卒で27.8%・高校卒で45.3%となっています。
なかなかの離職率であると言わざるを得ないでしょう。
【参考:建設業の離職率が高くなってしまう理由10個|離職率を下げるためのポイントも | 施工管理技士・CADオペレーターの人材支援なら【株式会社 夢真】 (yumeshin.co.jp)】
原因については、問題1と問題2で挙げたように、休みが少なく残業が多いことや、作業そのもののハードさなどがあるでしょう。
現代では通信技術が発達し、自宅にいながら業務をするテレワークも推奨されています。
しかし、建設業等の現場作業を主とする職種ではそのような働き方を導入することは難しいでしょう。
そして、インターネットが誰でも気軽に利用できるようになったことで、建設業の長時間労働の問題が広く知られることになったのも、若者が建設業に新規参入する意欲を削いでいるのかもしれません。
そして、なにより厚生労働省が推し進める働き方改革こそが、皮肉なことに建設業離れを加速させているのではないかと感じます。
現場での水面下の努力を軽視してはいけない
残業や長時間労働は絶対悪であり、改善しなければならないという理想は理解できます。
しかし、現実は理想の通りにはいかないものです。
どんなに綿密に計画を立てていても、地震や台風や感染症は待ってくれません。
ある日突然やってきては計画を遅延させます。
その遅延を補うためには、畢竟、人間の努力しかありません。
どんなにAIが発達しても最後は人間が組み立て作業をするしかないのです。
こうやって、生活のインフラを支えている建設業や物流業は、常に水面下で血の滲むような努力をしてサービスの品質を維持しているのです。
その実情を考慮せずに単純に労働時間の上限を設けて、その弊害に対する処置対策を現場の事業者に丸投げしようとするのならば、今まで通りのサービスの提供を享受するのは諦めるしかないでしょう。
対策:今いる人材を大切に育てる
さて、少し脱線してしましましたが、この人手不足の問題に関しては解決策は単純に「人を雇う、そして育てる」ことでしょう。
現代の日本人は確かに建設業離れが進んでいるのかもしれません。
しかし、建設業に就きたいと考える者がゼロになっているというわけではありません。
必ず需要はあります。その需要を掴み取ることが重要です。
また、新規雇用のみに目を向けていてはいけません。
今いる人材を手放さないことも重要です。
そのため、現場監督となりうる30~40代の中堅社員を大事にして下さい。
人材育成は植林のようなものです。非常に時間が掛かります。
中堅社員を育てるために、どれだけの時間を費やしたのかを考えてみましょう。
墨壺やネコが何の事かも分からない未熟者だった時代から、現場で若い衆にテキパキと次の行動を指示できるようなるまでに費やした時間です。
10~20年は必要だったはずです。
中堅社員という存在はそれほど価値のあるものなのです。
中堅社員の離職率が高くなった職場は終わりの始まりと言って過言ではありません。
そして、今いる従事者とこれから参入する従事者を大切に育てていくこと。
それが、この問題の解決策なのではないでしょうか。
建設業の2024年問題のまとめ
さて、長々と書いてきましたが、まとめると以下のようになります。
1 長時間労働の常態化
⇒施工管理ができる人材を育成する。
2 施工期間の厳守
⇒バッファを持たせた施工計画を作成する。
3 人材不足
⇒人材を大切に育てる。
それができれば苦労はしないんだよなぁ…と思われる方も多いでしょう。
しかし、建設業の2024年問題は現に目前に迫っています。
このような、根本的なことを徹底的に見直す。
それが、建設業の2024年問題を解決する唯一の方法なのかもしれません。
最後に
いかがでしょうか、建設業の2024年問題の重さが読者に伝われば幸いです。
行政書士として特筆して支援できることは少ないかもしれませんが、建設業許可の更新手続きや、外国人労働者を雇用する際に必要になる申請取次業務などは行政書士の得意分野です。
今後、業務の効率化を図って働き方改革を推進しようと考えていらっしゃる事業主の方は、一度、行政書士に相談されてみることをお勧めいたします。
今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
この記事が建設業の2024年問題について学びたいと考えられていた方の参考になれば幸いです。
また、この他にも有益な情報を逐次投稿しております。よろしければ他の記事もご覧ください。
投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
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