後から建物を建築した者が目隠し設置要求できる?

建物が隣接している場合、ベランダ等に目隠しを付けることが義務付けられています。
では、当初は隣接建物が無かったが後から隣接建物ができた場合、後から建物を建築した者が先住者に目隠し設置要求ができるのでしょうか?
今回はこの問題について解説します。

事例

A所有の甲地とB所有の乙地は隣接している。境界に争いはない。Bは、乙地上に境界から約10㎝の距離に本件建物を建築して居住している。一方、甲地は更地 (土地上に工作物もない) である。Aは年2回程度、甲土地の草刈りをするなどして管理していた。1年前にAは死亡し、その後Aの相続人は全員相続放棄した。
甲地を買い受けたCは、甲地上に本件境界から2m離れて建物を建築した。
Cは、Bに対して本件建物に目隠しを設置して欲しいと考えている。
Cどのように対処をすべきだろうか?

回答:Bに対して訴訟を提起すべき

目隠し設置請求について

Cは、Bに対し民法235条1項に基づく目隠し設置請求権を行使することができます。この請求における訴訟物(裁判所に対して求める請求内容のこと)と請求の趣旨は次の通りです。

1. 訴訟物

民法235条1項に基づく目隠し設置請求権

(境界線付近の建築の制限)
第235条

  1. 境界線から1メートル未満の距離において他人の宅地を見通すことのできる窓又は縁側(ベランダを含む。次項において同じ。)を設ける者は、目隠しを付けなければならない。
民法

2. 請求の趣旨

裁判例における請求認容の例として、「被告は、原告に対し、建物2階のベランダにおいて、同ベランダの手すり上部に長さ3.6メートル、高さ0.4メートルの目隠しを、同手すり柵部分に同図面記載のとおり同図面記載の大きさの目隠しを、それぞれ設置せよ。」(東京地判平24.6.21)などが挙げられます。一方で、請求棄却の例も一定数見られます(東京地判令3.3.18)。

Cの請求に対する裁判例の例示から、請求の認容や棄却の基準が明確に示されています。

請求原因の解説

請求原因(特定の法的行為や権利を主張する際にその根拠となる事実や法的要件のこと)について、次の要素が挙げられます。

ア) 原告が土地およびその土地上に建物を所有していること

イ) 原告が所有する土地と被告が所有する土地が隣接していること

ウ) 被告がイ) の土地上に建物を所有していること

エ) ウ) の建物に他人の宅地(原告が所有する土地)を見通すことのできる窓または縁側(ベランダを含む)が設けられていること

オ) エ) の窓または縁側(ベランダを含む)は、イ) の境界線から1メートル未満の距離に設けられていること

請求原因の説明において、以下のポイントが重要です。

  • 目隠しの設置請求権者は隣地(「他人の宅地」)上の建物の所有者であるため、ア)が請求原因となります。
  • 目隠し設置義務を負う主体は、窓等を備えた建物の所有者であるため、ウ)が請求原因となります(当該建物の敷地の所有者ではない)。
  • 民法235条2項は、オ)の解釈規定であり、独自に請求原因事実となるものではありません。

請求原因を明確にすることで、目隠し設置請求の根拠が確定されます。

3.Bの抗弁

Bは目隠しを設置しなくてもよい慣習の存在やCの権利濫用を主張することができます。

(境界線付近の建築に関する慣習)
第236条
前二条の規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う。

民法

慣習の存在については、当事者がその存在を主張・立証することが必要となるでしょう。

建物設置の先後関係に関する問題

1. 問題の所在

Cはすでに隣地の建物に居住するBの存在と、Bが自らの宅地を見通すことができることを知って建物を建築しました。このように、隣地関係にある者が後で建物を設置した場合にも、相手方(隣地の建物所有者)に対し、目隠し設置請求することができるかが問題となります。

2.検討

先に建物を建築した者が後に隣地に建物が建築されるかどうかは偶然の事情であり、先に建物を建築した者が結果的に「他人の宅地を見通すこと」が可能な窓等を設置したと評価されることは不合理であるという見解があります(東京地判昭60.10.3)。

民法235条1項の趣旨は「相隣関係に基づく互譲の精神」にあるため、他人の宅地を見通すことが可能な状態になった以上は、相手方は隣地者への配慮を要すると考えられます。条文上も建物の建築の先後について何ら規定していないため、建物設置の先後関係を問うことなく、本条は適用されると考えるべきです。権利行使が不適切な事案については、事案ごとに権利濫用を適用することで足ります。

本事例において、Bが民法234条1項に違反した建物を建築していることから、Cの主張は正当な権利行使であり、権利濫用には当たりません。したがって、Cは、Bに対して本件建物に目隠し設置請求することができます。

まとめ

この事例では、Cが隣接するBの建物からの視線に対し、民法235条1項に基づく目隠し設置請求権を主張(後から建物を建築した者による目隠し設置要求)しています。裁判例から請求の認容や棄却の基準が明確に示され、請求原因も明確化されています。また、Bは異なる慣習の存在や建物設置の先後関係を主張する可能性がありますが、本件ではそれらの主張は十分な根拠がないと判断されるおそれがあります。

最後に

今回は後から建物を建築した者による目隠し設置要求の是非について解説しました。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が民法について学びたい方の参考になれば幸いです。

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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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