小平 直先生の講演体験記|行政書士は代書屋に徹してはならない

令和6年2月1日(木)、医療機器の許認可を専門とされていらっしゃる、せたがや行政法務事務所の小平直先生を講師に迎えた実務研修会に参加して参りました。
今回は、その研修会で教訓となった事項について記します。
なお、小平先生の講演の内容としては、医療機器の許認可にフォーカスしたものというより、行政書士としての業務の心構えがメインテーマだったと感じています。
そのため、この体験記では医療機器の許認可の概要については省略しています。御了承下さい。

行政書士は申請書類を作成する事がゴールではない

まず、行政書士の業務の内容としては「書類の作成代行」が筆頭として挙げられます。
これは、行政書士法に以下のように定められている代表的な業務です。

第一条の二
行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(…)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。

行政書士法

このため、行政書士はたまに「代書屋」という別称(蔑称?)で呼称されることがあります。
これは法律事務の全てを所掌できる弁護士と比較しての呼称です。しかし、果たして行政書士は本当に只の「代書屋」なのでしょうか?
確かに、代書人制度ができた明治初期では国民の識字率も今ほど高くありませんでした。そのため、難しい文章を書けるだけでも相当な価値がありました。
しかし、現代では文章の読み書きはほとんどの国民が不自由なく可能です。このような時代では、行政書士に求められる役割も大きく変わってきています。

お客様にとってのゴールから逆算して、何をしなければならないかを分析することが必要

許認可を取得するためには、申請書類を作成する事だけに注力をしていてはいけません。
例えば、医療機器販売許可においては申請書類の定型を揃えるだけではなく、具体的な製品実現計画や設計開発計画、企業の実態に即した人事組織等を築かなければなりません。内容の伴わない外見だけ美しい書類を作成するのみでは、たとえ許可が取得できたとしても実態が伴わないため結果的に依頼主を困らせることに繋がります。

そのため、小平先生はまず最初に御依頼を受けた顧客のニーズを丁寧に聴取し、最終的に目指す「あるべき理想の姿」と「現状の姿」の差を明確にされます。次に、現状と理想の姿とのギャップを埋めるため、顧客に対して必要な知識を繰り返し教育訓練し、顧客自身の知識のベースアップを図ります。
もちろん、これは本来の申請書類の業務の範囲ではありません。その事前の準備段階です。
しかし、この段階から確実な基盤構築を進めなければ最終的な許可取得に辿り着くことは困難なのです。小平先生の業務に対する真摯さが伝わってきます。
また、上記の教育訓練の実施等の施策はあくまでも行政書士としてのアクションプランの一例です。より良いものを創造するための手段の一つとしてお考え下さい。また、この他にも創意工夫により選択しうる行動方針はあることを意識しましょう。

顧客のニーズを誤認してはいけない

これは、目標を申請書類の作成に置いている「代書屋」では到達できない境地です。
顧客が真に欲しているモノは美しい申請書類ではありません。事業を開始し継続することです。許可取得はそのための通過点の一つです。
確かに、行政書士は申請書類が受理される段階まで到達できたのならば報酬金は請求できるかもしれません。しかし、結果が不許可になったのでは本も子もありません。顧客の真のニーズを達成するために行政書士は常に尽力しなければならないのです。

自分に出来ない業務を安易に受任してはいけない

自分が特に印象に残った部分は「使用できるリソースと業務内容を比較検討しなければならない」という部分です。
ここでいうリソースとは、自分の知識や経験を指しています。おそらく、助言を求められる信頼できる仲間の有無等もこれに含まれるかと思います。
これらの要素を全て合わせて、依頼された業務内容と比較検討して遂行が可能かどうかを総合的に判断しなければなりません。
もし、比較検討の結果、自分では対処しきれないと判断した場合は受任すべきではありません。
安易に受任してしまうと、後々とんでもないことになります。

リソースを超える業務を受任してしまったという設例

小平先生がご紹介された設例(あくまでも先生の知る事例に分かりやすく教育用にアレンジを加えた設例です。決して特定の実例を取上げているわけではないことを御承知ください)では、某行政書士が自己の能力を超過する業務を受任して手に負えなくなり、約2年間も放置してしまったケースを紹介されていました。
その設例では、受任した行政書士は許可要件となる製品実現計画や設計開発計画にまでは意識が及んでおらず、依頼者に適切な助言を与える等の行為はしていませんでした。だだ単に形式を整えた申請書類を作成して提出していたようです。当然ですが、基本的な見識も無いため担当官からの質問には一切答えられませんでした。結果として、ただ時間を浪費しただけになってしまいました。
その後、依頼主が別の行政書士に委任し、最終的に何とか許可は取得できたようです。
依頼主から相当な額の損害賠償を請求されても反論の余地が無い事案と言っても過言ではないでしょう。

教訓①:リソースの把握

ここから得られる教訓は、第一には自分の持てるリソースの正確な把握をすべきという点だと思います。
自分の実力を過信してはいけません。新しいことに挑戦する姿勢は素晴らしいことだと思います。しかし、失敗も覚悟しなければなりません。
失敗すれば自分だけではなく依頼主も不幸にしてしまいます。そのため、自分の知識や経験を最大限活用して勝算のある業務を引き受けるべきです。

教訓②:個人主義を捨てる

また、第二に、全てを自分一人で抱え込むべきではないという点も挙げられると思います。
もし、もっと早い段階で自分だけでは手に負えないと判断し先輩諸氏等に助言を求めることができていたら、結果は違っていたでしょう。
あるいは、士業は組織ではなく個人で戦うものだという先入観があったのかもしれません。しかし、一人の知識や可処分時間には限界があります。どこかで限界に突き当たったときは、迷わず助けを求めるべきだと自分は感じます。
職務にプライドを持つことは立派なことです。しかし、それが足枷になってしまっては本末転倒であると言わざるを得ません。

最後に

今回は小平先生の講演に参加して自分が感じたことを記しました。
業務の都合が合わずに参加できなかった方は、この記事から小平先生の業務に対する情熱を少しでも感じ取って頂けたならば幸甚です。

最後に、大変多忙であるにも関わらず広島へ来訪していただいた小平先生に、また、今回の研修会を企画していただいた広島県行政書士会の皆様に感謝の意を表し、末筆とさせていただきます。

最後までご覧いただき、ありがとうございます。

また、この他にも有益な情報を逐次投稿しております。よろしければ他の記事もご覧ください。
投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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