市街化調整区域の建築をする際の手続き
市街化調整区域での建築は煩雑な手続きが待っています。
今回は、市街化調整区域において住宅を建てるための詳細な手順や必要書類等、また、特に多い事例である分家住宅の建築について解説します。
目次
- 1 市街化調整区域で建築できる建築物
- 2 都市計画法第43条許可申請
- 3 分家住宅での建築許可
- 3.1 事例
- 3.1.1 分家住宅の要件
- 3.1.1.1 本家が存在すること
- 3.1.1.2 申請者に申請地の相続権があるか、申請者は本家の世帯に入っているか
- 3.1.1.3 申請者は過去においてこの建築許可を得ていないこと
- 3.1.1.4 新たに住宅を確保する必要性が認められること
- 3.1.1.5 申請地は既存集落または周辺の地域であること
- 3.1.1.6 勤務地が遠過ぎないこと
- 3.1.1.7 本家や申請者の世帯構成員が市街化区域などに建築可能な土地を所有していないこと
- 3.1.1.8 申請地は線引き前から祖父母や両親が持っている土地かどうか
- 3.1.1.9 敷地面積は500㎡以下
- 3.1.1.10 1戸建ての専用住宅で建物の高さの限度が12m、外壁の後退距離が1m以上
- 3.1.1 分家住宅の要件
- 3.1 事例
- 4 分家住宅での建築許可に必要な書類
- 5 分家住宅での建築許可申請方法
- 6 開発許可不要でも類似の手続が必要な場合
- 7 市街化調整区域でも手続が不要な場合
- 8 最後に
市街化調整区域で建築できる建築物
市街化調整区域は、原則として建物の建築はできません。
建築するためには、開発許可や建築許可など都市計画法の手続を経る必要があります。しかし、申請すれば必ず許可が下りるわけではありません。都市計画法第34条に建築できる建築物が定められています。
その全てをここに記載するには、あまりにも冗長すぎるため今回は省略します。しかし、事前に確認するようにしましょう。
都市計画法第43条許可申請
市街化調整区域で建築をしようとする場合、原則として開発許可や建築許可が必要です。
土地の区画・形質の変更がある場合は開発許可申請、ない場合は建築許可申請となります。
開発許可申請は都市計画法第29条、建築許可申請は都市計画法第43条にそれぞれ規定されています。
分家住宅での建築許可
市街化調整区域の住宅建築の典型例は分家住宅の建築です。以下、具体的事例を添えて解説します。
事例
会社員の夫A、妻B、子供3人の世帯が市街化調整区域の実家で両親と祖母と一緒に暮らしています。
この世帯が実家を離れて、マイホームを取得しようとします。しかし、市街化区域の土地は価格が高く、土地の購入まで含めると予算に合いません。そこで、実家の裏に倉庫がある父名義の土地があり、更地にして住宅を建築することになりました。
分家住宅の要件
分家住宅の要件としては、次の10項目が上げられます。
本家が存在すること
本家とは、当該地域が市街化調整区域になる前からそこに住んでいる両親や祖父母の実家のことです。
線引き時の所有者から線引き後に相続や生前贈与で取得した場合でも、取得後引続きそこに住んでいればそこが本家になります。
これらは住民票や戸籍の附票などで証明します。戸籍の附票とは、その戸籍ができてからの住所の履歴が記載されています。本籍地の市役所の市民課などで取得できます。
申請者に申請地の相続権があるか、申請者は本家の世帯に入っているか
申請者とは、家を建てる人のことです。もし家を建てる人にその土地の相続権がないと、家を建てるときはよくても、家を建ててしまった後に土地の所有者が亡くなって、土地の名義が変わり、トラブルになってしまう恐れがあります。
今回の事例では、土地は父の名義で、家を建てる息子に相続権があります。そのため、この要件を満たしています。
今回の事例では、申請者の息子と本家の世帯は同居しています。しかし、申請者が本家の3親等以内の血族であれば同居してなくても問題ありません。このため、戸籍謄本等で本家との関係を証明します。
手続きの簡易化のため、司法書士や行政書士に相続関係図を作成してもらうことを推奨します。
申請者は過去においてこの建築許可を得ていないこと
同じ申請者が分家住宅を何度も建築はできません。
新たに住宅を確保する必要性が認められること
新しく住宅を確保する必要性を説明した理由書等を添付しましょう。
申請地は既存集落または周辺の地域であること
既存集落とは、住宅が40戸以上、住宅間の距離100m以内で連たんしている地域です。
連たんとは、連続しているという意味です。要は申請地の近くに住宅が40戸以上ある程度密集していれば既存集落ということになります。既存集落かどうかは40戸連たん図で証明します。
40戸連たん図は、ゼンリン地図等の図面上で建築予定を中心とする100mの円を描き、その範囲内の周辺住宅に番号を振っていき、40戸以上カウントします。
当然ですが、カウントできるのは市街化調整区域の住宅だけです。事業用の倉庫や店舗の建物などもカウントできません。
勤務地が遠過ぎないこと
申請人の勤務先に勤務先証明書を出してもらって証明します。
大抵の場合、通勤時間2時間程度まで認められます。
本家や申請者の世帯構成員が市街化区域などに建築可能な土地を所有していないこと
本家世帯と申請者世帯が所有している不動産を調べて、市街化区域などに土地を所有していないことを確認します。
具体的には、不動産を所有している場合は名寄帳、所有していない場合は無資産証明書を市役所で取得します。
名寄帳とは、市町村内に所在するその人名義の不動産を一覧表にしたものです。もしも不動産を所有していなければ、資産がないということで、無資産証明書を作成してくれます。どちらも市役所の税務課の固定資産税係などで取得できます。
今回の事例では、祖母と父は不動産を所有しており名寄帳、母と申請者と妻は所有しておらず無資産証明書を取得しました。祖母の名寄帳に記載されている不動産はすべて市街化調整区域の農地、父の名寄帳に記載されている不動産は実家の土地・建物のみでしたので、要件を満たします。
申請地は線引き前から祖父母や両親が持っている土地かどうか
土地の登記事項証明書や土地の閉鎖謄本で線引き前から今までの所有者を確認します。
閉鎖登記簿謄本は、その土地を管轄する法務局でしか取得できません。注意しましょう。
敷地面積は500㎡以下
今回の申請地は500㎡以下です。
1戸建ての専用住宅で建物の高さの限度が12m、外壁の後退距離が1m以上
今回の予定建築物は1戸建ての専用住宅です。
専用住宅とは、住宅のみに利用するという意味です。住宅の一部を事務所や店舗にしてある併用住宅では、この要件に適合しません。
また、建物の高さも12mを超えてはいけません。
外壁の後退距離が1m以上とは、土地の境界線から1m以上離して建物を建築することです。
分家住宅での建築許可に必要な書類
まず、これまで分家住宅の要件で見てきた書類を添付します。
- 親族関係図
- 理由書
- 附近見取図・戸連たん図
- 名寄帳
- 無資産証明書
- 土地の登記事項証明書
- 土地の閉鎖謄本
その他、以下の書類を添付します。
- 建築行為等許可申請書
- 建築行為同意書
- 同意者の印鑑証明書
- 地図の写し
- 現況平面図・求積図
- 現況断面図
- 土地利用計画図
- 予定建築物の平面図
分家住宅での建築許可申請方法
申請書類の提出先は市町村の都市計画課です。
申請書類提出用の正本と市町村用の副本の2部準備します。審査が終わると、副申書という市町村の意見書が発行されます。その副申書と一緒に県提出用の正本を返却してくれますので、それをそのまま都道府県の都市計画課など開発担当の課に提出します。
都道府県に許可申請書類を提出し、受理された際に都道府県の証紙で申請手数料を払います。
標準処理期間は、市町村で10日、都道府県で20日程度です。
特に指摘事項などがなければ、書類を最初に市町村に提出して約1か月後に許可ということになります。
都道府県での審査が無事終われば許可書が受領できます。
建築許可申請は、開発許可申請と違い、工事完了検査や工事完了公告がありません。そのため、他の法令による許可などの必要がなければ、許可書が出て建築確認を取れば、建築工事に着手できます。
市街化調整区域での建築確認申請
開発許可も建築許可も、最終的には建築することが目的です。
建築するためには、建築基準法の建築確認申請をする必要があります。
市街化調整区域の場合は、都市計画法で建築が制限されているため、建築確認を申請して審査されるときに、都市計画法上の手続を踏んでいるのか確認をされます。
これは許可を取っていれば許可書、許可不要ならばその証明書と、書面で確認されます。
開発許可不要でも類似の手続が必要な場合
法定の開発許可は不要でも、各市町村の条例で開発許可類似の手続を定めている場合があります。
後からこのような手続が必要と判明し、予定が狂うケースが多々あります。開発許可が不要の場合でも、各市町村で開発指導規定や開発指導要綱が定められていないか、また、定められていた場合に今回の計画が対象となるのかは、事前に必ず確認するようにしましょう。
市街化調整区域でも手続が不要な場合
市街化調整区域でも、開発許可や建築許可などの都市計画法の手続を必要としない建築物があります。
開発許可や建築許可などの都市計画法の手続は、一般的に煩雑で時間がかかることが多いので、これを省略できるのは建築する側からすると大きなメリットと言えます。まずはこちらに該当しないかどうか確認しておきましょう。
このうち典型的なケースである既存建築物の建替えと農林漁業従事者住宅について解説します。
既存建築物の建替え
既存建築物とは、その場所が市街化調整区域になった時点で既に建っていた建築物です。
既に建物が建っていたところに同じような建物を建てるなら、これ以上市街化を促進する恐れはないという考え方です。
ただし、建築物の敷地用途や規模が当時から変更がないということが前提です。
農林漁業従事者住宅
これは農家の方が農業をするための住宅等のことです。
役所や専門家の間では、農家住宅といわれています。市役所の農業委員会事務局で、農業従事証明を取得することで証明できます。
開発許可不要証明
市街化調整区域で開発許可や建築許可が不要であっても、建築確認申請時に、その不要であるこ とを証明する書類を添付しなければなりません。このように、市街化調整区域で建築する場合は、建築確認の前に何かしらの手続が必要となります。
最後に
今回は市街化調整区域での建築について解説しました。
この記事で紹介した必要書類は一般的に必要とされるものを纏めたものです。開発行為の内容によっては各自治体で必要となる書類の増減があるため、最終的には所轄の役所に確認するようにしましょう。
今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
この記事が市街化調整区域での建築を検討されている方の参考になれば幸いです。
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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
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