農地の違反転用の定義とは?事例と行政の対応
農地の違法転用は法令違反です。
農地法の許可を受けずに転用したり虚偽の申請をして許可を受けた場合は3年以下の懲役または300万円以下の罰金という極めて厳しい罰則が科されます。
【根拠法令:農地法第64条】
この農地の違法転用は、具体的にどのような場合に違法転用と認定されるのでしょうか?
今回は、関係法令を紐解き、違反転用の定義及び違反転用をしてしまったケースの対応について解説します。
違反転用者の種別
農地転用上の違反転用者とは、以下の者を指します。
【根拠法令:農地法51条】
4条許可もしくは5条許可の規定に違反した者またはその一般承継人(1号違反)
これは、農地転用許可を受けることなく農地を転用した者を指します。最も分かりやすい例かと思います。
また、ここでいう「一般承継人」とは、通常は無断転用者の相続人を指します。
これに対し、無断転用者から土地を譲り受けた第三者は、特定承継人に当たるため、本号の対象には含まれません。
4条許可もしくは5条許可の許可に付した条件に違反している者(2号違反)
こちらは1号違反と異なって明文で「一般承継人」が定められていません。
そのため、「許可に付した条件に違反している者」に、許可を受けた本人の一般承継人が含まれるかが問題となります。
この点について、国の通知は、一般承継人は含まれますが、特定承継人は含まれないものとしています。
【関係法令:「農地法の運用について」の制定について】
前2号に掲げる者から、当該違反にかかる土地について工事その他の行為を請け負った者またはその工事その他の行為の下請人(3号違反)
非常に厳しい規定ですが、違反者本人に限らず、違反者から工事等を請負った業者も違反者扱いとなります。
このため、農地転用に関わる工事を担当する建設業者は依頼人が適正に許可を得ていることを確認する必要があります。
偽りその他不正の手段により、4条許可もしくは5条許可を受けた者(4号違反)
こちらの場合も、 2号違反と同様に、不正手段によって転用許可を受けた者の一般承継人も同号に含まれるかという問題があります。
国の通知は、一般承継人は含まれますが、特定承継人は含まれないとしています。
【関係法令:「農地法の運用について」の制定について】
違法転用者の処分権者
違反転用者に対する処分権者は、都道府県知事等です。
この点について、農地法施行令は以下のように定めています。
法第51条第1項の規定による処分又は命令は、法第4条第1項又は第5条第1項の許可に付した条件に違反している者及びその者から当該違反に係る土地について工事その他の行為を請け負った者又はその工事その他の行為の下請人並びに偽りその他不正の手段によりこれらの許可を受けた者に対してはその許可をした都道府県知事等が、その他の者に対しては都道府県知事等がするものとする。
根拠法令:農地法施行令32条
この「その他の者」とは、無断転用者や無断転用者から工事を請け負った者などが該当します。
処分の内容
処分の内容は、以下の内容です。
- 許可の取消し
- 許可条件の変更
- 許可条件の付加
- 工事その他の行為の停止
- 相当の期限を定めての原状回復その他違反を是正するため必要な措置を講じること
これらの処分の中で、許可の取消しについて細かく分析すれば、許可処分の時点で瑕疵が認められることを理由として行われる「職権取消し」と、許可処分の後に新たに発生した事由を原因として行われる「撤回」に分けることができます。
実際の事例と対処について
それでは、実際に違反事例を想定して、その後の対応について考察してみましょう。
事例
農地所有者Aは、転用後に農地を第三者に転売する意図を隠して4条許可申請を行った。
その際、転用目的を駐車場として申請したところ、県知事の許可が下りた。Aは農地を非農地化した上で、4条許可書を添付して、地目を雑種地に変更する旨の登記申請を行った。
その後、Aは、登記官によって地目が雑種地に変更されたことを確認した。そのため、AはBに対し土地売買をもちかけ、Bに対し土地所有権を移転し、所有権移転登記も完了した。
Q1 違反転用者に対する処分
C県知事は、Aに対する4条許可を取り消すことができるでしょうか?
A1
Aは、不正に転用許可処分を取得した者に当たると考えられます。これは4号違反に該当します。
そのため、C県知事は4条許可処分を職権で取り消すことができます。
この場合、4条許可処分の効力は、処分時に遡及して効力を失います。これを遡及的無効といいます。
Q2 譲受人に対する処分
C県知事は、Bに対して何らかの処分ができるでしょうか?
A2
Bは、既に非農地化した土地を売買契約によって取得した者にすぎません。よってBは特定承継人です。
C県知事としては、Bに対し処分を行うことはできないと解されます。
Q3 取消処分後の土地所有権の所在
C県知事が4条許可処分を取り消した場合、Bの土地所有権に何か影響が生じるでしょうか?
A3
問題となった農地は、Aによって既に非農地化されています。このため、C県知事が、Aに対する4条許可処分を取り消しても、A・B間の土地売買契約の効力には何らの影響も及ぼさないと解されます。
つまり、4条許可処分の効力の有無にかかわらず、売買対象となった元農地の所有権は、有効にAからBに移転しているということです。
これは、許可取得後に対象農地が非農地化した場合について共通して言えることであり、売買契約自体は有効となります。
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最後に
今回は農地の違反転用者の定義および違反転用者に対する行政の対処について解説しました。
違反転用はそれ自体が法令違反です。小規模なものであれば、追認許可が認められる場合もありますが、第1種農地のような大規模農地を違反転用してしまったような場合は処罰の対象にもされかねません。決して違反転用はしないようにしましょう。
また、もし違反転用をしてしまった、または相続等で取得した土地が違反転用であることが分かった場合、速やかに役所に相談しましょう。農地の違反転用は時間が経てば経つほど解決が困難になります。
今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
この記事が農地転用許可の取得を検討されている方の参考になれば幸いです。
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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
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【参考文献:農地法講義三訂版(宮崎直己)頁150】
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