営農型太陽光発電の制度概要とメリット・デメリット解説
農業とエネルギー資源開発の両立が近年注目されています。
国は、農地に支柱を立てて、営農を継続しながら上部空間に太陽光発電設備を設置する場合の農地転用許可基準を定めました。この場合、通知の対象とされる設備は営農型太陽光発電設備と呼ばれます。
【参考資料:平成30年5月15日30農振第78号農村振興局長通知】
今回は、この営農型太陽光発電設備の制度の概要について解説します。
目次
営農型太陽光発電設備の設置には4条許可または5条許可が必要
この制度は、支柱の基礎部分及びパネルを設置する上部には農地の転用が生じます。
このため、農地法4条または5条許可が必要となります。なかなか融通が利かないものですね…
また、当該太陽光発電設備は、農業と両立するものでなければいけません。
そのため、永久的な転用許可ではなく一時転用許可の限度で太陽光発電設備を設置するものとされています。
通常の転用許可と一時転用許可の違いは、転用許可処分の有効期間の有無にあります。一時転用許可の場合は、転用期間が、原則として3年以内に限定されます。
この期間は、※行政処分の付款に相当すると考えられています。したがって、原則として、期間が経過すると、当然に処分の効力が失われます。期間経過後に太陽光発電設備が依然として存在する場合、再度の一時転用許可を受けない限り、期間経過後は違反転用状態に陥ると解されます。
※行政処分の俯瞰とは
主たる行政行為の内容を制限したり、特別の義務を課したりすること。代表例は運転免許の条件として「眼鏡等」と記載されている場合が該当します。
一時転用許可を行う場合の許可基準
上記の通知では、次のような許可基準を定めています。
- 申請にかかる転用期間が、別表の区分に応じた期間内であること
- 簡易な構造で容易に撤去できる支柱であること
- 下部の農地における営農の適切な継続が確実と認められること
- パネルの角度、間隔等からみて農作物の生育に適した日照量を保つための設計となっていること
- 営農型発電設備の位置等からみて、その周辺の農地の効率的な利用、農業用排水施設の機能等に支障を及ぼすおそれがないと認められること
- 支柱を含め営農型発電設備を撤去するのに必要な資力および信用があると認められること
- 事業計画において、発電設備を電気事業者の電力系統に連系することとされている場合には、電気事業者と転用事業者が連系にかかる契約を締結する見込みがあること
一時転用の期間
以下の場合には、特別に一時転用期間が10年まで認められます。
- 担い手が自ら所有する農地または賃借権等の使用収益権を有する農地等を利用する場合
- 荒廃農地を再生利用する場合
- 第二種農地または第三種農地を利用する場合
上記以外の場合は原則通り一時転用期間は3年間となります。
一時転用に必要な書類
この一時転用許可の申請には、通常の申請書に加えて以下の添付書類の提出が求められます。
- 営農型発電設備の設計図
- 下部の農地における営農計画書
- 営農型発電設備の設置による下部の農地における営農への影響の見込み及びその根拠となる次に掲げるいずれかの書類
1 下部の農地で栽培する農作物の収穫量及び品質に関するデータ(例えば、試験研究機関による調査結果等)
2 必要な知見を有する者(例えば、普及指導員、試験研究機関、設備の製造業者等)の意見書
3 先行して営農型太陽光発電の設置に取り組んでいる者の事例 - 営農型発電設備を設置する者(以下「設置者」という。)と下部の農地において営農する者(以下「営農者」という。)が異なる場合には、支柱を含む営農型発電設備の撤去について、設置者が費用を負担することを基本として、当該費用の負担について合意されていることを証する書面
農作物の収穫量等の報告義務
営農型発電設備の設置は農業との両立が前提とされていますので、一時転用許可期間中は農作物の収量等の報告義務が課されます。
このため、明らかに営農型発電設備の設置の影響で農作物の収穫量が極端に落ち込んでいる場合は指導の対象になります。
また、農地転用許可権者による転用事業の進捗状況の把握・申請者への指導などもされるため、行政が営農者に関与する機会も多くなってしまいます。
営農型発電設備の設置の利点と不利点
それでは、営農型発電設備の設置の利点と不利点についても解説します。
利点として、まず挙げられるのが追加収入源の確保です。
営農型太陽光発電は、農地の一部を利用して発電した電気を売電することで、追加の収入源を確保できます。
また、土地の有効活用という面で、農地と発電施設という広大な面積を必要とする土地を一体化することにより、どちらも損失させることなく共存できます。
不利点については、やはり手続きの煩雑さという点が目立ちます。
行政書士の自分から見ても、相当な決意が無ければできない量の手続きだと感じます。また、許可取得後も毎年の収穫高報告をしなければならない点もネックです。
その他の不利点としては、設置されたパネルや支柱が景観を損ねる可能性があり、地域社会の意見を考慮する必要があることがあげられます。また、設置から運営・管理までのコストがかかる点も無視はできません。
導入を検討されている方は、長期的な視点で採算がとれるかどうかを検証してみることを推奨します。
最後に
今回は営農型太陽光発電設備の制度の概要について解説しました。
この制度は導入することで経済的な利点を多く享受できます。
しかし、その分、障害もあることをよく理解しておかなければならないですね。
今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
この記事が農地転用許可の取得を検討されている方の参考になれば幸いです。
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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
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