他人から借りている農地を転用できる?できるとすれば4条許可?5条許可?

他人から借りている農地を転用して宅地等にすることは可能なのでしょうか?
結論から言えば、これは可能です。
何故なら、農地転用は※事実行為とされ、転用者の権原の種類を問わず可能とされているからです。
※事実行為とは
行為者の意思表示を必要とせず、物理的な行為だけで法律効果を発生させること。つまり、行為者の心情などは一切考慮されず、特定の行為をした時点で法律上の効果を発揮します。具体例は「物品の加工」が最も分かりやすいかと思います。材木を加工して建物にした以上、加工者が「これは建物ではなく依然として材木だ」と主張しても、その主張は通らないということです。

これは、以下の農地法判例の判旨が根拠となっています。

農地法4条は、農地について所有権その他の権原を有すると否とにかかわらず、一般に農地を転用しようとする者に適用がある。

昭39.8.31 最高二小 38(あ)2046 刑集18-7-457

また、上記の判旨では、権限の種類はおろか権限の有無すら問わないとされています。
そのため、極端な例を挙げると、他人の農地を不法占有している者でも転用は可能ということになります。もっとも、転用申請の際に権原を確認されるため、実際にそのようなケースが役所に認められることはまずありえないでしょうが…

さて、ここで1つの問題が生じます。
それは、他人から正当な権原(今回は賃借権とします)で農地を借りている者が、当該農地を転用する場合、4条許可か5条許可のいずれが適正なのかという問題です。
今回はこの問題について解説します。

結論

結論から述べれば「どちらでもいい」となります。
理由について解説する前に、4条許可と5条許可ついて簡単に解説しておきましょう。

4条許可とは?

4条許可とは、単純に農地を農地以外のものに変更する際に必要な許可です。
具体的には農地を宅地や駐車場に変更する場合が該当します。
そのため、所有権移動や地上権設定などの新たな権利変動を一切伴いません。

5条許可とは?

5条許可とは、農地を農地以外のものに変更し、かつ権利の変動を伴う際に必要な許可です。
具体的には、第三者が農地を買い取り、宅地にして建物を建てるような場合が該当します。
そのため、3条許可(農地の権利変動のみ)と4条許可(農地の地目変更のみ)を混合させたような許可となります。

なぜ4条許可でも5条許可でも可能なのか?

次に、なぜ4条許可でも5条許可でも借用農地の転用が可能なのかについて解説します。
まず、4条許可は冒頭で示した判例の通り、権原の種類・有無を問わず対象とされます。
このため、その権原が借地権であろうが地上権であろうが原則として転用は可能です。
これは比較的分かりやすいかと思います。

問題は、5条許可の場合です。
5条許可は地目変更に加え、必ず権利変動が伴わなければなりません。
このため、農地を地目変更した後も当該農地の賃借を続ける場合は権利変動が発生せず、一見すると5条許可には該当しないように感じます。
しかし、この理論はよく考えればおかしいことが分かります。
なぜなら、前提である「転用者が他人から正当な権原で農地を借りている」という状態であれば、転用者は必ず過去に農地法3条許可の手続きを経て賃借権を設定している筈です。
そのため、現状として当該転用者は耕作目的で当該農地の賃貸借契約を締結しているのであって、それ以外の目的で当該農地を使用することはできません。もし、転用後の宅地を継続して賃借したいのならば、新たに貸主と「宅地として使用する旨の賃貸借契約」を結びなおす必要が出てきます。
つまり、新たな権利設定が必然的に発生せざる負えないため、5条許可による申請も可能となります。

結局、4条許可と5条許可のどちらで申請すべきか?

さて、4条許可と5条許可のいずれでも申請自体は可能なことは分かりました。
では、どちらで申請する方が申請者にとって得なのかについて解説します。
これは圧倒的に4条許可の方が得であるといえるでしょう。
手続きの煩雑さや発生する費用は、4条許可の方が簡単かつ安価で実施できます。
以前、行政書士に手続きを依頼した場合の費用帯について解説しましたが、概ね4条許可が約8万円、5条許可が約10.5万円程度です
わざわざ手続きが難しく高コストな5条許可を選択する利点は無いと言えそうです。

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ただし、注意すべきことが1点あります。
それは、事前に所轄の役所に4条許可と5条許可のいずれで申請すべきかを相談することです。
行政機関という組織は過去の事務処理事例に拘束されるという悲しき宿命が存在します。
そのため、4条許可で申請が可能な事例でも、いざ申請してみると過去に5条許可で処理した実績があるため5条許可での再申請を指示される場合が絶対に無いとは言い切れません。
そのような場合、4条許可でも申請可能な法的根拠を示して行政と争うか、素直に5条許可で再申請するかの選択を迫られます。
当然ですが、どちらの方法を選んだとしても申請手続きが予定より遅延してしまうことは明らかです。
このため、土壇場でこのような事態になることを避けるためにも、事前に所轄の役所によくヒアリングをしておくことを推奨します。

最後に

今回は他人から借りている農地の転用手続きについて解説しました。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が農地転用許可の取得を検討されている方の参考になれば幸いです。

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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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【参考文献:農地法講義三訂版(宮崎直己)頁127、129】

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