認定農業者制度とは?:農業経営の新たな道
認定農業者制度とは、農業者自らが農業経営の改善計画を作成し、市町村等の認定を受けることで各種支援が受けられる制度です。
日本の農業は多くの課題に直面しています。人口減少、高齢化、技術の進歩、環境変動など、これらの問題はすべて、国内の食料生産システムに影響を与えています。これらの課題を克服するための解決策の一つが、認定農業者制度です。
今回は、この制度の概要について解説します。
目次
制度の概要
認定農業者制度が出来た背景
平成5年に農業経営基盤強化促進法が制定されました。
その中で、都道府県は「農業経営の基盤強化の促進に関わる基本方針」を定め、市町村はそれに基づいて「基本構想」を定めることとなりました。
市町村の基本構想の内容
市町村の「基本構想」において定められる事項は以下の通りです。
- 農業経営基盤の強化の促進に関する目標
- 農業経営の規模、生産方式、経営管理の方法、農業従事の態様等に関する営農の類型ごとの効率的かつ安定的な農業経営の指標
- 農業経営の規模、生産方式、経営管理の方法、農業従事の態様等に関する営農の類型ごとの新たに農業経営を営もうとする青年等が目標とすべき農業経営の指標
- 上記2号及び3号に掲げる事項のほか、農業を担う者の確保及び育成に関する事項
- 効率的かつ安定的な農業経営を営む者に対する農用地の利用の集積に関する目標、その他農用地の効率的かつ総合的な利用に関する事項
- 農業経営基盤強化促進事業に関する事項
認定農業者となろうとする者は、この基本構想の目標に適合する経営改善計画を作成し、市町村等に認定申請をすることができます。
認定申請をができる者
申請の有資格者は「農業経営を営み、又は営もうとする者で、経営改善計画を作成して認定を受けることを希望する者」です。
したがって、申請先である市町村又は都道府県の区域内に農用地を所有しない者や、現に住所を有していない者も認定申請を行うことができます。
認定申請の許可権者
通常は農業を行っている市町村長が許可権者になります。
しかし、複数の市町村をまたがって農業を実施しようとする場合、またがっている複数の市町村の区域が同一都道府県内にある場合には都道府県知事が、都道府県の区域を超える場合には農林水産大臣(このケースで市町村の区域が同一の※地方農政局長の管轄する区域内のみにある場合には、当該地方農政局長)が許可権者となります。
例えば、広島市のみで農業をする場合は広島市長、広島市と廿日市市にまたがる場合は広島県知事、広島県と山口県にまたがる場合は地方農政局長、岡山県と兵庫県にまたがる場合は農林水産大臣が許可権者となります。
地方農政局とその管轄区域一覧
- 東北農政局
青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県 - 関東農政局
茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県、長野県、静岡県 - 北陸農政局
新潟県、富山県、石川県、福井県 - 東海農政局
岐阜県、愛知県、三重県 - 近畿農政局
滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県 - 中国四国農政局
鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県、徳島県、香川県、愛媛県、高知県 - 九州農政局
福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県 - 北海道農政局
北海道
なお、沖縄県には農政局は無いため、沖縄県と「それ以外の都道府県」にまたがって認定を受けようとする場合、この「それ以外の都道府県」の農地を所轄する地方農政局長が許可権者となります。
農業経営改善計画に含める事項
農業経営改善計画に必ず含めなければならない事項は以下の通りです。
- 経営規模の拡大に関する目標(作付面積、飼養頭数、作業受託面積)
- 生産方式の合理化の目標(機械・施設の導入、ほ場の連担化、新技術の導入など)
- 経営管理の合理化の目標(複式簿記での記帳など)
- 農業従事の様態等に関する改善の目標(休日制の導入など)
その他、細部については各自治体の様式に従ってください。
実際の様式の一例
さて、上記の計画に含める事項はたったの4項目だけです。
意外と楽勝なのではないか?そう感じる方も多いかと思います。
それでは、ここで実際の申請書の様式と記載例を見てみましょう。
【画像出典:認定農業者制度について:農林水産省 (maff.go.jp)】
はい。
「いや、記載内容多すぎぃ!!」とほとんどの方は思われたでしょう。
自分もそう思いました。
自分で作成するのが困難だと感じた方は、農業系コンサルや農地法専門の行政書士に相談することを推奨します。
認定農業者への支援措置
さて、申請書を提出して晴れて認定農業者となった場合、以下のような支援を受けられます。
畑作物の直接支払交付金
諸外国との生産条件の格差による不利がある畑作物(麦、大豆、てん菜、でん粉原料用ばれいしょ、そば、なたね)を生産する農業者に対して、経営安定のための交付金(標準的な生産費と標準的な販売価格の差額)が交付されます。
米・畑作物の収入減少影響緩和交付金
収入減少による農業経営への影響を緩和するため、米、麦、大豆等の当年産の販売収入の合計が、標準的収入を下回った場合に、その差額の9割を補塡してもらえます。
補塡の財源は、農業者と国が1対3の割合で負担します。
スーパーL資金及び農業近代化資金
農業用機械・施設の整備などに制度資金が利用できます。
さらに、一定の場合には、貸付当初5年間実質無利子化されます。
資本性劣後ローン
日本政策金融公庫から、農業経営安定資金又は施設資金について、期限一括償還(5年1か月以上20年以内)で貸付けを受けられます。
農業経営基盤強化準備金制度
地域計画において農業を担う者として位置付けられた認定農業者が、農業経営改善計画等に従って、経営所得安定対策等の交付金を農業経営基盤強化準備金として積み立てた場合、所得の計算上、この積立額を、個人は必要経費に、法人は損金に算入できます。
積立金を経費や損金にできるのは税制上かなり有利ですね。
また、積み立てた準備金を5年以内に取り崩したり、受領した交付金をそのまま用いて、農用地や農業用の建物・機械等の固定資産を取得した場合には、※圧縮記帳ができます。
※圧縮記帳とは
一定の要件のもとで固定資産を取得した場合に課税の繰り延べができる制度のこと
農業者年金の保険料支援
青色申告を行う認定農業者は、保険料の助成措置を受けることができます。
農地転用手続のワンストップ化
農業経営改善計画の認定の際に、農業用施設の整備に係る農地転用の審査を併せて受けることができます。
また、認定を受けた農業経営改善計画に基づいて農業用施設を整備する場合には、農地転用の許可があったものとみなされます。
最後に
今回は認定農業者制度について解説しました。
認定農業者数は令和4年で22万2442経営体、そのうち2万7974経営体が法人です。
いろいろと優遇措置の恩恵を受けられる制度なのですが、平成28年をピークにして年々減少傾向にあります。
やはり農業従事者の高齢化等の問題が影を差している面は否定できない事実かもしれません。今後の制度拡大に期待するばかりです。
今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
この記事が農業制度について学びたい方の参考になれば幸いです。
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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
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