農業経営体の動向と担い手の育成
日本の農業は農業者の減少・高齢化等の課題に直面しています。
農業が成長産業として発展していくためには、担い手の育成・確保が必要です。
今回の記事では、令和4年度の農業白書を紐解き、農業経営体の動向、経営継承・新規就農、女性が活躍できる環境整備等の取組について紹介します。
農業経営体等の動向
農業経営体数は減少傾向で推移している
※農業経営体数は全体的に減少傾向で推移しています。
令和4年は前年に比べ5.4%減少し97万5千経営体となりました。
96%を占める※個人経営体が前年比5.7%減少し93万5千経営体となりました。
また、4%を占める※団体経営体は前年比1.5%増加し4万経営体となっています。
なお、個人経営体のうち、※主業経営体は20万5千経営体です。
また、※準守業経営体は12万6千経営体、※副業的経営体は60万4千経営体となっています。
また、個人経営体の減少数の約5割を副業的経営体が占める状態となっています。
このことから、やはり大規模経営体の拡大の傾向は顕著であると言えるでしょう。
特に副業的経営体の減少が著しいのは、農業に投入できる基盤の確保が難しいということも要因の一つになっていると思われます。
【参考資料:令和4年度農業構造動態調査結果の概要 頁1、頁5】
注釈
※農業経営体とは
農産物の生産を行うか又は委託を受けて農作業を行う者のこと。簡単に言えば農家のことです。
※個人経営体とは
個人(世帯)で事業を行う経営体のこと。なお、法人化して事業を行う経営体は含まれません。
※団体経営体とは
個人経営体以外の経営体の総称です。
※主業経営体とは
農業所得が主(世帯所得の50%以上が農業所得)で、調査期日前1年間に自営農業に60日以上従事している65歳未満の世帯員がいる個人経営体のこと。簡単に言えば専業農家のことです。
※準主業経営体とは
農外所得が主(世帯所得の50%未満が農業所得)で、調査期日前1年間に自営農業に60日以上従事している65歳未満の世帯員がいる個人経営体のこと。簡単に言えば農業以外の兼業がある農家のことです。
※副業的経営体とは
調査期日前1年間に自営農業に60日以上従事している65歳未満の世帯員がいない個人経営体のこと。簡単に言えば副業農家のことです。
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農業従事者の高齢化が進行している
※基幹的農業従事者数は減少傾向で推移しています。
令和4年は50〜64歳層、65〜74歳層が前年に比べそれぞれ9.3%、7.8%減少しました。
また、全体としては前年に比べ5.9%減少し122万6千人となりました。
このうち、65歳以上の基幹的農業従事者数が86万人と全体の約7割を占めています。
また、令和4年の基幹的農業従事者の平均年齢は68.4歳です。
もはや凄まじいレベルで高齢化が進行していますね…
【画像出典:農林水産省HP】
なお、同年の団体経営体の役員・構成員数(農業従事60日以上)は前年に比べ4.0%増加し12万1千人、個人経営体及び団体経営体が雇用する※常雇いは前年に比べ2.8%増加し15万2千人となりました。
これは、農業経営体の大規模化が進んでいることの顕れでしょう。
また、基幹的農業従事者に占める49歳以下の割合は11.4%(14万人)です。対して、常雇いの同割合は52.8%(8万人)となり、雇用就農者に占める若年層の割合が高くなっています。
これまで消極的な事実ばかりが目立ちますが、良い面も見えてきました。
ただし、この雇用者については外国人技能実習生もカウントされています。
※基幹的農業従事者とは
15歳以上の世帯員のうち、普段から仕事として自営農業に従事している者のこと。
※常雇いとは
あらかじめ年間7カ月以上の契約で農業経営のため雇った者のこと。外国人技能実習生も含まれます。
認定農業者制度や法人化等を通じた経営発展の後押し
農業経営体に占める認定農業者の割合は22.8%に増加
認定農業者制度は、農業者が経営発展に向けて作成した農業経営改善計画を市町村等が認定し、これらの認定を受けた農業者に対して支援措置を講じようとする制度です。
【参考資料:認定農業者制度とは】
農業経営改善計画の認定数については、令和3年度末時点で前年度に比べ2.2%減少し22万2千経営体となりました。これは前年度比で5,070経営体の減少になります。
しかし、農業経営体に占める認定農業者の割合は増加傾向です。
令和3年度末時点で22.8%となっています。
すなわち、国のお墨付き農家が増加傾向にあるということが言えます。
【参考資料:認定農業者の認定状況(令和4年3月末現在)】
このうち法人経営体の認定数は一貫して増加しています。同年度末時点で前年度に比べ3.2%増加し2万8千経営体、法人経営体に占める認定農業者の割合は86.9%です。
法人経営体は3万2千経営体に増加
農業経営の法人化には様々なメリットがあります。
経営管理の高度化、安定的な雇用、円滑な経営継承、雇用による就農機会の拡大等が挙げられます。
このうち、経営継承と就農機会拡大は営農者の高齢化を解消しうる利点となるでしょう。
法人経営体数の動向
農林水産省は、法人経営体数を令和5年度までに5万法人にする目標を設定しています。これは効率的かつ安定的な農業経営を育成・確保するためです。令和4年は前年から1.9%増加し3万2千経営体となりました。
また、法人経営体では経営耕地面積の大きい層の割合が高いこともあり、農業経営体数に占める法人の割合は3.3%です。
しかし、販売金額3,000万円以上の農業経営体数に占める法人の割合は34.7%、経営耕地面積に占める法人が経営耕地面積に占める法人が経営する面積の割合は24.9%と高くなっています。
国の支援もあって、法人経営体はその力を増しています。
また、農林水産省では、農業経営の法人化を進めるため、都道府県が整備している就農・経営サポートを行う拠点による経営相談や、専門家による助言等を通じた支援を行っています。
【参考資料:農業経営等に関する相談】
法⼈化した集落営農組織の増加
※集落営農組織は、地域農業の担い手として農地の利用、農業生産基盤の維持に貢献しています。
令和4年の集落営農組織数は前年に比べ126組織減少し1万4,364組織となりました。
水稲やそば、野菜、農産加工品を生産・販売する組織が増加しています。
一方、法人化した集落営農組織数は、年々増加しています。
令和4年は前年に比べ130組織増加し5,694組織となりました。
また、令和4年の集落営農組織による現況集積面積は前年に比べ3千ha増加し46万7千haとなり、このうち法人によるものは23万5千ha(50.4%)と初めて非法人によるものを上回りました。
農林水産省では、集落営農組織に対し、法人化のほか、機械の共同利用や人材の確保につながる広域化、高収益作物の導入等、それぞれの状況に応じた取り組みを促進し、人材の確保や収益力向上、組織体制の強化、効率的な生産体制の確立を支援していくこととしています。
※集落営農とは
「集落」を単位として、専業農家・兼業農家等を含めた集落の農家の協力のもと、農業生産過程の全部又は一部について、共同で取り組む組織をいいます。
経営継承や新規就農、人材育成・確保等について
新規就農者数は司法書士受験者数を上回る
令和3年の新規就農者数は前年に比べ2.7%減少し5万2,290人となりました。
その内訳を見ると、新規自営農業就農者が全体の約7割となっています。
つまり、全く未経験の方でも年間3万人以上は農業に就職していることになります。
司法書士受験者数が毎年1.5万人程度なので、その倍以上の人気職です。
新規雇用就農者は、平成27年以降は1万人前後で推移しています。
令和3年は前年に比べ15.1%増加し1万1,570人となりました。
また、49歳以下の新規就農者は、近年2万人前後で推移しています。
これらの就農者は将来の担い手として期待される存在です。
また、令和3年の49歳以下の新規雇用者数は10,720人でした。
雇用直前の就業状態別に見みてみましょう。
すると、農業以外に勤務が51%、学生が21%、農業法人等に勤務が15%です。
つまり、全くの未経験者が全体の70%を超えているのです。
【参考資料:新規就農者 5万2290人|JAcom 農業協同組合新聞】
次世代を担う農業者への経営継承や新規就農をサポートする施策
地域農業を持続的に発展させるためには、世代間のバランスのとれた農業構造を実現していくことが必要です。
農林水産省は、都道府県が整備している就農・経営サポートを行う拠点において相談対応や専門家による経営継承計画の策定支援、就農希望者と経営移譲希望者とのマッチング等を行うなど、円滑な経営継承を進めています。
一方、新規就農者の就農時の課題もあります。具体的には農地・資金の確保、営農技術の習得等が挙げられます。就農しても経営不振等の理由から定着できないケースも見られています。
このため、農林水産省では、就農準備段階・就農直後の経営確立を支援する資金の交付や、地方と連携した機械・施設等の取得の支援、就農・経営サポートを行う拠点による相談対応や専門家による助言、雇用就農促進のための資金交付、市町村や農協等と連携した研修農場の整備、農業技術の向上や販路確保に対する支援等を行っています。
また、「農業をはじめる.JP」、「新・農業人ハンドブック」により新規就農に係る支援策等の情報を提供しています。
複数の⺠間企業による「農業の魅⼒発信コンソーシアム」では、ロールモデルとなる農業者の情報発信を通じて、若年層等が職業としての農業の魅⼒を発⾒する機会を提供しています。
農業高校・農業大学校による意欲的な取組が進展
農業高校は全ての都道府県、農業大学校は41道府県において設置されています。
農林水産省では、若年層に農業の魅力を伝え、将来的に農業を職業として選択する人材を育成するため、スマート農業や経営管理、環境配慮型農業等の教育カリキュラムの強化のほか、地域の先進的な農業経営者による出前授業等の活動を支援しています。
また、近年、※GAPに取り組む農業高校・農業大学校も増加しており、令和4年2月末時点で111の農業高校および31の農業大学校が第三者機関による※GAP認証を取得しています。
※GAPとは
農業生産の工程の実施、記録、点検及び評価を行うことによる持続的な改善活動のこと。Good Agricultural Practicesの頭文字を取ったもの。いわゆるPDCAサイクルとほぼ同じ意味です。
※GAP認証
ISO/IEC 17065の基準に適合することを認定された認証機関の審査でGAPの実施が確認された証明のこと。
【画像出典:GAP(農業生産工程管理)をめぐる情勢】
農業者年金の政策支援を実施
農業者年金は、厚生年金に加入していない自営農業が任意で加入できる年金制度です。
同制度は平成13年に抜本的に見直され、農業者の減少・高齢化等に対応した積立方式・確定拠出型を採用しており、農業者の老後生活の安定と農業者の確保を図っています。
女性が活躍できる環境整備
49歳以下の女性の新規就農者数は前年に比べ2%増加し5,540人
令和4年における女性の基幹的農業従事者数は、前年に比べ6.3%減少し48万人になりました。
女性の基幹的農業従事者は全体の39.3%であり、重要な担い手となっています。
年齢階層別に女性の割合を見ると、50〜64歳層で43.4%です。また、49歳以下層では29.6%となりました。
令和3年における女性の新規就農者数は前年比14.7%減少で1万2,750人です。
また、新規就農者に占める女性の割合は3.4ポイント低下し24.4%です。
しかし、49歳以下の新規就農者数は前年比2.0%増加し5,540人となりました。
新規雇用就農者に占める割合は34.7%と比較的高いといえます。
女性の新規雇用就農者の約8割が49歳以下となっています。
認定農業者に占める女性の割合
女性の認定農業者数は、令和3年度末時点で前年度から164人減少し1万1,440人となりました。
一方、全体の認定農業者数に占める割合は、令和3年度は前年度と同水準の5.1%となりました。
また、認定農業者制度には、家族経営協定1等を締結している夫婦による共同申請が認められており、その認定数は5,764経営体となっています。
農業を発展させていく上で、農業経営における女性参画は重要な役割を果たしています。
農林水産省は、女性の農業経営への主体的な関与をより一層推進するため、認定農業者に占める女性の割合を令和7年度までに5.5%にする目標を設定しています。
【参考資料:農業における女性の活躍推進について】
農業委員、農協役員に占める女性の割合は年々増加
農業委員会等に関する法律及び農業協同組合法においては、農業委員や農協理事等の年齢や性別に著しい偏りが生じないように配慮しなければならないことが規定されています。
また、これらの組織で女性の割合は増加傾向で推移しています
令和3年度の農業委員に占める女性の割合は、12.4%でした。
また、令和4年度の農協役員に占める女性の割合は9.7%になりました。
農林水産省は、女性の割合について令和7年度までに農業委員は30%、農協役員は15%にすることを目標としています。
【参考資料:地域における男女共同参画の推進に関する農林水産省の取組】
この目標の達成に向けて、各組織に対して女性登用に取り組むよう働き掛けています。
各自治体の農業委員会では98.7%が女性登用に関する目標を設定しています。同じく農協でも81.5%が目標を設定しています。
また、農林水産省では、令和4年3月に、「農業協同組合・農業委員会女性登用の取組事例と推進のポイント」を公表しています。
このように、国として⼥性登⽤の更なる推進に取り組んでいるのです。
【参考資料:女性登用の取組事例:農林水産省 (maff.go.jp)】
最後に
今回は農業経営体の動向と後継者の育成等について解説しました。
農業は国家の食料自給率を支える重要な産業です。
このように、数字で農業の実態を学ぶことも時として重要ですね。
今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
この記事が農業について学びたいと考えられている方の参考になれば幸いです。
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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
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