農業経営の問題と新たな農業形態について
農業は今まさに変革の時を迎えています。
小規模農家は減少し続け、大規模農家は増加の一途を辿っています。
このような農業を取り巻く現状で、今後ますます先鋭化する農業経営の問題と新たな農業形態について解説します。
目次
農業規模拡大の限界と突破口
1つの経営体当たりの稲の作付面積が15haを超えると、コストダウンは頭打ちになるケースが多く見られます。
この限界は、乗り越えられないのでしょうか。
日本の農家が「頭打ち」になる理由
農林水産省が発表している「コメの作付規模別生産費」によれば、15haを超えると1俵当たりの全算入生産費(自家労働や自己資本利子、自作地地代を含む)は、ほとんど下がらなくなってしまいます。
理由は少なくとも2つあります。1つは「分散」です。
日本では農地が点在しています。
このため、作業のため農地から地へと移動するのにかなりの時間を取られてしまいます。
その結果、作業効率が悪くなり、生産費が下がらないというわけです。
もう1つは大規模化するほど、機械を増加させ生産費が下がらないことが挙げられます。
下手をすれば、逆にコストアップの恐れもあります。
コメの生産費4割減を達成する2つの方法
かつて、アベノミクス三本の矢である「日本再興戦略」では、コメの主産費を4割削減する目標を掲げていました。
4割削減とは60kg当たり1万円以下にすることです。では、目標を達成するにはどうすればいいのでしょうか。
1つは収量の多い品種を選ぶことが挙げられます。
最近はハイブリッド品種を含めて従来よりも数割多く獲れる品種が出ています。
乾田直播が新たな鍵となる
もう1つは※乾田直播です。
通常の田植えである移植体系と大きく違うのは、育苗と※代かきが不要になる点です。
農林水産省の「農業経営統計調査」によれば、作付規模別の労働時間を見た場合、特に育苗にかかる時間は面積が拡大するとむしろ増える傾向にあります。
コメの生産費のうち労働費は約35%です。
育苗や代かきの省力化はコスト削減には重要なのです。
【参考資料:農業所得の向上に向けた取り組み(品目別)農林水産省】
(※乾田直播:乾いたままの田んぼに種もみを直接まく栽培法のこと。日本の農家が一般にやっている水を張った田んぼに稲を植える移植体系とは異なります。
【参考資料:乾田直播栽培のポイント |営農情報|農業機械専業メーカー|井関農機株式会社】
※代かき:田んぼに水を入れた状態で、土の塊を細かく砕く作業のこと。田植えの前に行われ、水田の漏水を防止し、田植えを容易にするために行われます。
【参考資料:代掻き(しろかき)のやり方や注意点とは? (ummkt.com)】)
乾田直播による作業速度の向上
作業機のスピードによる違いもあります。
通常、ロータリーによる耕うんの時速は2km/hです。田植え機による移植であれば3~5km/hです。
これに対して※プラウや※スタブルカルチでは6~8km/hです。播種機のドリルシーダーでは10~13km/hにもなります。
後者の作業機を活用するのが乾田直播です。
つまり、移植体系よりもずっと作業が速いのです。
(※ブラウ:トラクターに牽引させて使う鋤のこと。
【参考資料:ボトムプラウ| スガノ農機株式会社】
※スタブルカルチ:トラクターに牽引させて、土を粗く起こして表層を乾かせ、有機物を腐食させる作業機のこと。
【参考資料:月刊 現代農業2018年3月号 高速で粗く起こす スタブルカルチってどんな作業機? (ruralnet.or.jp)】)
フード・バリュー・チェーンという新たな農業方法
日本の農家数は215万戸 (2015年時点)も存在します。
分母が多いぶん、一戸当たりの売上げは必然的に少なくなってしまいます。
それでは、どうすれば農業で稼げるようになるのでしょうか。
フード・バリュー・チェーンへの注目
その1つの方向性として、食と農を連携させた※フード・バリュー・チェーンの構築が模索され始めています。
注目すべきは、令和4年時点で農業を含めた食料関連産業の国内生産額が114.2兆円もあることです。
【参考資料:農業 ・食料関連産業 の経済計算 (概算 )】
※ フード・バリュー・チェーン:農林水産物の生産から消費までを鎖のようにつなぐことで、総合的な付加価値を高める考え方のこと。
【参考資料:フードバリューチェーンとは?その意味や戦略などについて解説 | minorasu(ミノラス) - 農業経営の課題を解決するメディア (basf.co.jp)】
令和4年の農業総産出額は9兆15億円でした。
加工されたり小売りされたりすることで、10倍以上に利益を増やしているのです。
【参考資料:令和4年 農業総産出額及び生産農業所得(全国)】
チェーンの繋がりの中に販路を探すことが重要
儲かる農業を形作るのであれば、販売や加工などフード・バリュー・チェーン全体のなかで利益の源泉がどこにあるかを探しながら、利害関係者との間で関係を結び、販路拡大していくことが大切です。
年商数億円の農業法人が誕生していることからも、新ビジネス創造の萌芽は既に存在しています。
フランチャイズ農業について
農業界でもフランチャイズビジネスが活用されています。
フランチャイザーである本部と、加盟店が商業上の契約関係にあります。
本部は契約を結んだ加盟店に対し、商号や商標の使用権の認可、開発した商品やサービス、情報といった経営ノウハウの提供、継続的な指導や援助といった後押しをします。
その見返りとして、加盟店は加盟料やロイヤリティを支払います。
農業界でも同様の構図があります。
実力のある農家が本部となり、加盟店に当たる農家を募集します。
そして、同じ品目を生産し、同じブランドで売ります。
本部が開拓した取引先からの求めに応じて種や規格を統一し、適期に適量を出荷することを目指します。
農家がフランチャイズに加盟する利点は、販路の開拓を本部してくれることです。
また、作った物は本部が買い取ってくれるので、売り先を探す苦労はありません。
また、肥料や重油などの資材を共同で購入すれば、交渉次第で安価に入手することができます。
これらの役割は本来であれば農協が担ってきました。
しかし、農協が農家の要望に応えられないなか、農家が農協に代わってこうした農家の連合体を作ることは、避けられない事態となっていくのです。
集落営農のジレンマ
全国で1万4,832の集落で行われている集落営農は、集落を単位に農業生産の一部または全部を共同で行うものです。
しかし、※内部留保が難しいこと、集落内で農業に関わる人が減ってしまうこと、雇用の確保が難しいことなど、多くの課題を抱えています。
(※内部留保:当期純利益のうち配当金に回されない部分のことです。つまり、企業が生み出した最終的な利益のうち、内部に蓄えられる利益を意味します。)
小規模農家は内部留保が難しい
内部留保が難しいのは、規模の小ささが主因です。
集落営農のうち、1つの集落で構成するものが73.1%を占め、20ha以下の面積のものが50.4%に達します。
内部留保ができないという事実は、機械が壊れても更新ができないという不安に直結します。
また、集落内で農業に関わる人が減るのは、経営者や機械の操縦手の人数が個別に経営していたころよりも減るので、当然のことではあります。
ただ、当事者が減れば、後継者も減ります。
集落の農地を保全するために作ったはずの集落営農によって、逆に集落にとどまる人が減り、営農組織の世代交代すらままならなくなるという皮肉な現実があります。
人手不足という課題
最後に、雇用の確保が難しいのは、稲作の場合は冬場に仕事がなくなるからです。
現代はただでさえ人手不足の時代です。
周年雇用ができないとなると、働き手の確保が困難になるのは当然でしょう。
集落営農の法人化は、内部留保ができるので、機械の更新に備えることができます。
また、機械の操縦手も、各種社会保障制度に加入することができ、安心感が増します。
さらに、2005年~2006年に小規模農家は対象にならない支援策が出されました。
このため、集落営農組織の結成が一気に進み、集落営農に占める法人の割合は右肩上がりで、36.8%に達しています。
【参考資料:集落営農の課題を探り 広域化・連携・再編へ 第4回全国集落営農サミット|ニュース|JAの活動|JAcom 農業協同組合新聞】
集落営農に参加する農家が共同で利用する農業用機械を共同所有する方法、集落の農地全体を1つの農場とみなし集落内の営農を一括して管理運営する方法、集落営農に参加する各農家の出役により、共同で農作業を行う方法、作付地の団地化等、集落内の土地利用調整を行う方法などがあります。
【参考資料:集落営農の今後の展開方向 - 大分県ホームページ (pref.oita.jp)、岡山県の集落営農の特徴と課題】
広域化と連携が集落営農の解
集落営農は、現在直面している困難を克服し次世代に引き継いでいかねばなりません。
キーワードは「広域化」と「連携」です。
既存の組織の経営改善や再編をどう進めていくのがよいのでしょうか。
集落営農を引き継ぐための課題
集落営農は、新規設立が減少傾向にあるのに対し、解散・廃止が一定の水準で続いています。
この傾向を食い止め、次世代へ引き継いでいくためには、既存の組織の経営改善や再編が喫緊の課題です。
農地の集積、若手の雇用・育成、経営の多角化、組織の統合や広域化、営利部門と公益部門の分離などが考えられます。
ネットワーク型とプラットフォームの形成
全国で広がりつつあり、かつ効果的だと考えられているのは、広域化と連携の動きです。
まず「ネットワーク型」と呼ばれる形があります。
複数の集落営農組織が集まり、新規法人といった新たな組織を作って機械を共同利用したり、共同で作業をしたり、資材を共同購入したりします。
もう1つ、より緩やかなプラットフォームの形成があります。
地域には兼業農家や専業農家、法人経営などさまざまな形態の農業者がいます。
転作用の大豆や麦は共同で生産する。もし個人農家が営農できなくなれば集落営農組織や法人で農地を預かる。そのように緩やかに連携するのです。
近年の統廃合が進む前の小学校区くらいの広さを範囲とします。
というのも、1つの集落単位で考えると、農地が限られます。
また、機械操縦手いない、経理を担当する人がいない等の人材不足の問題があります。
そのため、集落営農の存続には困難が伴います。
その点、旧小学校区くらいまで範囲を広げれば生産量が増えて販売に有利になり得ます。
また、人材も豊富になるのです。
最後に
今回は農業経営の問題と新たな農業形態について解説しました。
農業を取り巻く環境は一層の変化を遂げていきます。
農業経営者は新たな経営戦略を常に検討することが求められるでしょう。
今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
この記事が農業について学びたいと考えられている方の参考になれば幸いです。
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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
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