農地の賃借権は設定と解除にも許可が必要です
農地の賃借権は設定と解除にも許可は必要です。
他人の農地を借りて農業を営む場合、貸借権または使用貸借権を設定することが一般的です。
この場合は農地に権利を設定することになるので、3条許可に該当します。
また、永小作権という手段もありますが、これは現在ではほとんど使用されていません。ほぼ絶滅危惧種の幻の物権です。
賃借権と使用賃借権という簡単に設定できる権利があるため、永小作権を使用する意義が無くなったためです。
【参考資料:民法1第4版(我妻榮、有泉亨、川井健、鎌田薫)】
さて、農地の貸借についても農地法は民法とは乖離した独自の制限等をしています。(農地法は民法の特別法であるため)
今回は、農地の貸借における注意すべき事項について解説します。
なお、以下、賃借権と使用貸借権をまとめて賃借権等と表記します。
原則として転貸はできない
民法上は借主は貸主の承諾があれば転貸(借りたものを更に誰かに貸すこと)が出来ます。
【根拠法令:民法第612条】
- (賃借権の譲渡及び転貸の制限)
- 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
- 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。
少し前にマンションサブリース契約というのが流行しましたが、まさにこれが不動産の転貸です。
ここにはリンクを貼ることはできませんが、気になる人は「かぼちゃの馬車事件」で検索してみてください。不動産投資の闇を垣間見ることが出来ます。
このように、転貸は当事者の承諾さえあれば当然に可能です。
しかし、農地法は転貸の自由を否定します。
たとえ貸主の承諾があっても転貸はできません。これは、貸主の承諾の他に役所の許可が必要という意味ではありません。
条文上で明確に禁止しているのです。
(農地又は採草放牧地の権利移動の制限)
【根拠法令:農地法第3条2項5号】
前項の許可は、次の各号のいずれかに該当する場合には、することができない。
(…)農地又は採草放牧地につき所有権以外の権原に基づいて耕作又は養畜の事業を行う者がその土地を貸し付け、又は質入れしようとする場合
ただし、以下の場合のみ転貸が許されます。
- 借主の死亡、病気、負傷、就学、公職への就任により耕作ができないため一時的に転貸する場合
- 借主の世帯員等(従業員も含まれる)に転貸する場合
- 水田裏作(稲の栽培時期以外で、稲以外の作物を栽培すること)のための転貸の場合
- 農地所有適格法人の従事者たる借主が当該法人に転貸する場合
なお、農地法は転貸を禁止していますが、賃借権等の譲渡については禁止されていません。
そのため、許可を取得すれば賃借権等の譲渡は可能であると解釈されています。
【参考資料:農地法許可事務の要点解説(宮崎直己)55頁】
賃借人に不利な特約は無効
賃貸借契約には当事者の合意によって特約を設けることが可能です。
しかし、この特約は賃借人にとって不利な内容なものは無効になります。
例えば、「契約の法定更新はしない」等の内容は賃借人に不利なので無効です。
なお、この反対解釈により、賃借人に有利な特約は有効であると解釈されています。
前条又は民法第六百十七条(期間の定めのない賃貸借の解約の申入れ)若しくは第六百十八条(期間の定めのある賃貸借の解約をする権利の留保)の規定と異なる賃貸借の条件でこれらの規定による場合に比して賃借人に不利なものは、定めないものとみなす。
【根拠法令:農地法 第18条7項】
また、同様に解除条件及び不確定期限を付けた場合も無効となります。
これは、そもそも解除にも許可が必要なので、条件や不確定期限を付けたところで何の意味もないためだと思われます。
農地又は採草放牧地の賃貸借に付けた解除条件(第三条第三項第一号及び農地中間管理事業の推進に関する法律第十八条第二項第二号ヘに規定する条件を除く。)又は不確定期限は、付けないものとみなす。
根拠法令:農地法 第18条8項】
賃借権等の解除の許可要件
賃借権等の解除は、以下の場合に許可されます。
逆に言えば、それ以外の場合は原則として許可されません。
- 賃借人の信義に反した行為があった場合(賃料の長期間の不払い等)
⇒いわゆる民法上の信頼関係破壊理論が適用されます。 - 賃貸していた農地を転用する場合
⇒この場合、賃借人が平均的な農業収入を得られる営農を行っており、機械や労働力等の営農基盤が備わっている限りは原則として許可は認められません。 - 賃貸人が農地を耕作等の事業に供する場合
⇒これは「やっぱり俺が農業したいから返せ!」という場合です。少し身勝手な気がしますね。この場合は賃借人の生活を困窮させないか、賃貸人が確実に営農ができる能力があるか等によって許可が判断されます。 - 賃借人である農地所有適格法人が農地所有適格法人で亡くなった場合
- その他、正当の事由があると認められる場合
契約解除の不許可は抗告訴訟の対象となる
契約を解除するための申請が不許可となった場合は、不許可処分を求める抗告訴訟が可能です。
【判例:京都地裁平成29年4月13日】
これは前回の記事「農振地域除外申請が却下されたら抗告訴訟ができるか? 」とは打って変わり、処分性のある行政処分であると認められています。
この判例では、解除許可をするかどうかについて、以下の点を重視して判断されることが明らかになっています。
- 賃借人が農地を現に耕作しているかどうか
- 賃借人が農業で生計を立てているか
- 賃借人が農業を行う意思があるか
これらの条件について全て該当しないと判断された場合は、原則として解除許可がなされます。
最後に
今回は農地の賃貸借等において注意すべきことを解説しました。
今後、農地を貸したい・借りたい方は参考にしてみてください。
今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
この記事が農地転用許可の取得を検討されている方の参考になれば幸いです。
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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
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