農地転用許可は許可か認可か?

農地転用許可は講学上の許可か認可か?
これは現在でも度々論争が起きています。
書籍によって認可とするものもあれば、許可としているものもあるようです。
ちなみに行政書士独学応援chの佐藤浩一先生は動画で「許可」と判断されています。(自分が受験生の時は大変お世話になりました。)
いずれの説明も、かなり説得力のある説明です。

今回は、この問題に関して有力な説を発見したため紹介したいと思います。
法律を勉強されている方のちょっとした息抜きとして読んでいただけると幸いです。

許可と認可の違い

許可とは

まず、許可とは、本来ならば国民が有する自由を禁止して一定の条件下で禁止を解除することを指します。
例えば、医師等の職業を医師資格保有者に限定している事象などがこれに該当します。
本来であれば全国民は職業選択の自由がある筈です。
しかし、専門知識の無い者が自由に医師に就けるようになれば逆に国民の不利益になります。安心して医療サービスを享受することができません。これはポルポト政権下で横行した少年医師が良い例ですね。(まあ、これは自由になれたわけではなく強要されていたので厳密には違いますが)

認可とは

次に、認可とは、第三者の行為を補充してその法律上の効力を完成させることを指します。
例えば、社会福祉法人を設立する際の定款の認可などがこれに該当します。
本来は自由にできる行為ですが、公共性の高さ故に国のお墨付きを貰う必要があるのです。
この他には、公共料金の値上げや河川占用権の譲渡などが挙げられます。
許可に比べると、それこそ自由意志で出来そうな行為ばかりが挙げられていますね。

感覚的には、許可は「無秩序に実施されると安全が脅かされるから通常は禁止する」という意味合いが強いですね。
対して認可は「不足したパーツを加えて完成させる」といったところでしょうか。

農地転用に当てはめて検証

一般的に農地転用と呼ばれる行為は以下の3種類です。

1 農地を農地のまま第三者に譲渡等をする場合(3条許可)
2 農地を農地以外のものに改変する場合(4条許可)
3 農地を農地以外のものに改変し、かつ第3者に譲渡等をする場合(5条許可)

さらに分かりすく分別すると以下のようになります。

1 農地が無くなる⇒ 4条許可、5条許可
2 農地が存続する⇒ 3条許可

さて、では上記の許可と認可の要件を加味してみましょう。

認可としての考察

本来であれば所有物は個人が自由に売買できる筈です。売主と買主の意思表示があった時点で所有権は移転します。
しかし、農地法第3条は契約の効果発生の条件として許可取得を定めています。そのため、農地自体が存続するにも関わらず許可を要する3条許可は認可に該当するように感じます。
事実、最高裁判決ではこのように判決されています。

農地法第3条に定める農地の権利移動に関する県知事の許可の性質は、当事者の法律行為を補充してその法律上の効力を完成させるものに過ぎず、講学上のいわゆる補充行為(認可)の性質を有すると解される。

最高裁判決昭和38年11月12日

判決上、明確に講学上の認可であると明言されています。
農地転用認可説を支持する方々はおそらくこの判例を根拠にしているものと推定されます。
確かに、3条許可は認可の色合いが強いと言えるでしょう。

許可としての考察

しかし、これをもって許可としての一面を完全には否定できません。
3条許可とは違い、4条許可と5条許可は農地が完全に消滅してしまいます。
農地法が農地転用に許可を必要としている目的は、食料自給率の管理が根底にあります。
極端な例を挙げれば、日本の全農家が一斉に離農し、国内の全農地を転用する場合はどうなるでしょうか。
国内の食料自給率はゼロとなり、他国からの輸入に依存せざる負えなくなります。国民の安全を脅かすことは明白です。
そうなれば、どこかで「これ以上の離農は認めない」と国から禁止されることになります。
これは国民の安全を守るために職業選択の自由及び売買の自由を制限しているため、明確に講学上の許可に該当すると言えるでしょう。
上記の例が極端すぎて、少しふざけた話のようになってしまいましたが、確かに講学上の許可の一面を否定できないのです。
また、上記の判例は3条許可について論じていますが、この場合でも譲受人が必ずしも農業に従事する保証はありません。取得した農地を長期間放置して荒廃化させてしまう危険性もあります。この場合は、結果的に農地の喪失を意味します。
このため、3条許可の譲受人に関しては経済力や耕作能力、国籍、過去に農地転用違反が無いかどうかまで審査の対象になっているのです。
こうして考えると、3条許可も講学上の許可の色を完全には否定できないことが分かります。

結論:農地転用許可は、許可と認可の両方の特性を持っている

まとめると、農地転用許可は講学上の許可でも認可でもあると言わざる負えません。
許可、認可、公証、特許などの講学上の分類に収まりきらない事象も中にはあるのです。
ただ、現在でも議論が飛び交う問題なので、行政書士等の法律系資格試験でこの論点が出題される可能性は無いということだけは明言できるでしょう。
【参考にした説:農地法許可事務の要点解説(宮崎直己)】

最後に

今回は農地転用許可は許可か認可かについて解説しました。
法学とは本当に奥が深いですね。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が行政書士試験を受験される方のちょっとした息抜きになれば幸いです。

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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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