農地転用の許可基準:詳細ガイドと審査プロセス

農地転用の許可基準は「立地基準」と「一般基準」の二つの基準によって審査されます。
この2つの基準の双方をクリアしなければ許可は取得できません。
「立地基準」とは、農地の区分のことです。
これについては既に「農地区分とは?」の記事で既に一度解説したため今回は解説しません。
そのため、今回の記事では「一般基準」について解説します。

また、今回は約5000文字の文量になってしまいました。
もしお時間の無い方は、最終段落の「最後に」でまとめを記載しています。そちらを先に参照して下さい。

目次

一般基準の目的

そもそも農地転用に許可が必要な理由は、農業は国家の食糧自給率を支える重要な産業であるため無暗に離農されては困るという国家方針が根底にあるからです。
しかし、その理由だけなら立地基準のみで十分な筈です。
そう、国家が農地転用を制限する理由は実はもう1つあるのです。
それは、「適正な都市開発を進めたい」という狙いです。
かつて、最初の許可基準が制定されたのは昭和34年(1959年)でした。東京タワーが完成する前年です。
この時代の日本は経済発展を優先するあまり、過剰な都市開発が行われていました。
そのため、無計画な農地転用が多く、都市の虫食い化が起きてしまうことがありました。
農地を潰して市街地を作っても、有効に機能しなければ無駄な犠牲になってしまいます。
むしろ農地のままの方が経済効果が高かったという本末転倒なことにもなりかねません。
なので、一般基準によって「本当に必要な転用なのか」「確実に転用が行われるのか」を審査することになったのです。
【参考文献:農地転用許可基準の解説(平成元年12月1日/桜井秀美/学陽書房)】

一般基準の内容

一般基準は許可をすることができる場合ではなく、許可をすることが出来ない場合を規定しています。
そのため、一般基準を全てクリアしていたとしても確実に許可が取得できるわけではありません。
以下、一般基準について一件ずつ解説します。

転用の確実性

以下の(1)から(8)により、申請に係る農地等の全てを申請に係る用途に供することが確実と認められない場合には許可は認められません。

農地等の転用を行うために必要な資力及び信用があると認められないこと。

【根拠法令:農地法第4条第6項第3号及び第5条第2項第3号

「信用」とは?

ここにいう信用とは、「申請適格等」及び「過去の実績」のことを指します。

申請適格等

まず、申請適格等については申請者が法律上の適格者かどうかです。
例えば、自然人の場合であれば行為能力を有する者であることが必要です。未成年者の場合は親権者等の同意を得ていなければなりません。
法人の場合は、申請に係る事業の内容が定款又は寄附行為等の目的等に適合することが必要です。つまり、定款の目的に農業が含まれていない場合は先に定款変更をしなければなりません。

過去の実績

次に、過去に計画通りに転用を実施しているかどうかで判断されます。
過去に許可を受けた者が、特別な理由もないにも関わらず、計画通りに転用を行っていない場合には信用があるとは認められません。
また、相当の理由がないにも関わらず、許可による所有権取得後、少なくとも3年を経過しておらず、かつ3作以上の耕作がされていない農地の転用が申請された場合は信用が無いものと判断されます。役所から全然農業する気がないと思われるということですね。

農地等の転用行為の妨げとなる権利を有する者の同意を得ていないこと。

「農地等の転用行為の妨げとなる権利」とは

これは地上権、永小作権、質権、賃借権を指しています。
使用貸借権は農地の権利を取得する第三者に対抗できないため、原則該当しません。
しかし、作付け中であるにもかかわらず収穫前に転用に着手する場合は、使用貸借者の同意も得る必要があります。

許可を受けた後、遅滞無く、申請に係る農地等を申請に係る用途に供する見込みがないこと。

【根拠法令:農地法施行規則第 47 条第1号 | e-Gov法令検索

「遅滞無く、申請に係る農地等を申請に係る用途に供する」とは

これは速やかに工事に着手し必要最小限の期間で申請に係る用途に供されることをいいます。
具体的には、原則として許可の日からおおむね 1 年以内の期間を指しています。

申請に係る事業の施行に関して行政庁の許認可等の処分が必要な場合は、これらの処分がなされなかったこと又は処分がされる見込みがないこと。

行政庁の許認可等の処分(見込み)について

当該処分がなされたことを条件として許可されます。手続中の場合は役所の担当者が総合的に判断します。
ただし、開発許可又は建築許可については、役所内で事前調整が行われ、同時許可がなされます。

太陽光パネル設置(再生可能エネルギー発電事業)の場合

これも原則として認定後に許可がなされます。
しかし、転用者側に起因しない事情により認定が遅延している場合、申請書の写し、遅延理由を記した書面及び電気事業者の接続同意がわかる書面の写しにより判断されます。

申請に係る事業の施行に関して法令等により義務付けられている行政庁との協議を現に行っていること。

【根拠法令:農地法施行規則第 47 条第2号の2

申請に係る農地等と一体として申請に係る事業の目的に供する土地を利用できる見込みがないこと。

【根拠法令:農地法施行規則第 47 条第3号

申請に係る農地等の面積が申請に係る事業の目的からみて適正と認められないこと。

【根拠法令:農地法施行規則第 47 条第4号

「適正」とは
住宅の場合

適正な面積は家屋、倉庫、駐車場及び庭敷等に必要な面積や配置図等から判断されます。
敷地面積が農家住宅で 1000 ㎡、一般住宅で 500 ㎡(建築面積に 22 分の 100 を乗じた面積が500 ㎡以下の場合はその面積)を超過する場合は、その理由を加味して判断されます。
この場合、農地として適正利用が困難な残地が生じる恐れがあるときは具体的な事情を聴取された上、残地が生じない転用計画を認めるか、個別に判断されます。
また、既存の住宅を拡張する場合は、既存の敷地面積に新たに転用する面積を加えた面積について同様に審査されます。

資材置場の場合

この場合、資材の配置図の提出を求められ、資材の種類及び量により個別に判断されます。

自家用以外の駐車場の場合

この場合、台数決定根拠の提出を求められ、個別に判断されます。

申請に係る事業が工場、住宅その他の施設の用に供される土地の造成(処分を含む)のみを目的とするものであること。

【根拠法令:農地法施行規則第 47 条第5号

残土処分を目的とした転用

この場合、土地の造成を目的とした転用に該当するため許可は認められません。
ただし、工事期間に限定した一時転用であれば許可は認められます。
なお、土砂の搬入及び搬出を恒常的に繰り返す場合は「資材置場」として申請する必要があります。

「貸露天施設」(貸資材置場、貸駐車場等)への転用

この場合、造成目的ではないことを以下の条件により確認されます。
ア 転用者が、自ら土地の造成など露天施設の整備を行うこと。
イ 露天施設を利用する者の当該施設を利用する必要性及び利用の確実性(契約書等)について確認することができること。
ウ 露天施設を利用する者が転用者とならないことについて、合理的な理由があること。

被害防除措置の妥当性

農地等の転用により、以下の危険性があると判断された場合は許可は認められません。

土砂の流出その他の災害を発生させるおそれがあると認められる場合

これは読んで字の如くですね。これを防止するために擁壁の設置等の設計書が必要なのです。
また、この条件にはガス、紛じん、鉱煙の発生、湧水、捨石等により周辺農地等の営農上への支障がある場合も含まれます。

農業用用排水施設の有する機能に支障を及ぼすおそれがあると認められる場合

これも読んで字の如くですね。水路をせき止めるような構造物は認められません。

その他の周辺の農地に係る営農条件に支障を生ずるおそれがあると認められる場合

これには以下の場合が該当します。
ア  申請に係る農地等の位置等からみて、集団的に存在する農地等を分断するおそれがある場合
イ  周辺の農地等の日照、通風等に支障を及ぼすおそれがある場合
ウ  農道、ため池その他の農地等の保全又は利用上必要な施設の有する機能に支障を及ぼす場合

農業上の効率的かつ総合的な利用の確保

地域における農地等の農業上の効率的な利用に支障を生ずるおそれがあると認められる場合で、以下の事項に該当する場合には許可は認められません。

市町村等に農用地利用集積計画の策定の申し出があり、その公告があるまでの間において、当該申出に係る農地を転用することにより、当該農用地利用集積計画に支障を及ぼすおそれがあると認められる場合

これまた非常に難解な文章ですね・・・
(これでもかなり纏めた文章です、原文はこの倍以上はあります)
まず、農用地利用集積計画とは、農地法第3条許可を受ける必要なく農地の貸借契約を行うことができる制度のことです。
これは農業従事者からの要請に基づいて市町村が設定します。
最大の特徴としては、貸借期間が終了すれば絶対的に終了し、法定更新が無いことです。
このため、期間満了時に貸主に確実に農地が返納されるため貸主が安心して農地を貸し出すことが出来ます。
つまり、これは「市に農用地利用集積計画を作ってくれと言ったけど、やっぱり無しで!あの農地は誰かに売ることにした!」という身勝手は許さないという意味です。

農振地域設定の公告があってから実際に設定されるまでの間に、当該農振地域予定地の農地を転用しようとする場合で、農地の効率的な利用の確保に支障を生ずるおそれがあると認められる場合

これまた本当に難解な文章ですね・・・。要約するのに骨が折れます。
つまり、「農振地域予定地に設定されてしまうと、たとえ予定であっても許可が認められるのは難しい」という意味です。

一時的な転用

一時的な利用のため農地等の転用をしようとする場合、以下の事項に該当する場合は許可は認められません。
※一時的な利用とは、申請目的を達成できる必要最小限の期間のことをいいます。農用地区域外であれば最長5年以内、農用地区域内であれば最長3年以内です。

一時的な利用に供された後に、その土地が農地へ復元がされることが確実と認められないこと。

一時的な利用に供するため所有権を取得しようとする場合

これは、ぐうの音も出ない正論ですね。
一時利用目的で申請しているのに、農地への回復ができないような大型建造物を構築する場合は、当然、疑われます。
また、一時利用目的であれば所有権取得でなく賃借権等で良い筈です。

最後に

一般基準は分量が多くて読むのが大変です。
しかし、要約するすると以下のように纏められます。
1 確実に転用すること
2 周囲に悪影響を及ぼさないこと
3 一時利用後に確実に原状回復すること
4 過去に転用違反を起こしていないこと
5 他の法令等の条件をクリアできていること

自分だけで作成するのが困難であれば、行政書士と相談してみましょう。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が農地転用許可の取得を検討されている方の参考になれば幸いです。

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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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