農地法第3条申請書の書き方【広島市】

農地法第3条の申請書は、自己の農地を他人に譲渡、または他人のために権利を設定する場合に必要な書類です。
【根拠法令:農地法第3条
農地は国家によって管理されているため、他人に売ったり貸したりするにも許可が必要です。
なお、農地法第3条申請の「譲渡」には競売や特定遺贈も含まれるため注意が必要です。
また、相続、時効取得、包括遺贈の場合は許可は不要です。この場合は届出のみで認められます。
相続は民法上でも不動産登記法上でも「被相続人の権利は包括的に相続人に受け継がれる」と解釈するためです。すなわち権利上は「被相続人=相続人」という扱いなのです。包括遺贈も全く同じ理由です。
また、時効取得は原始取得なので、占有開始時に遡って最初から時効取得者の所有物だったとみなされます。当然、最初から自分の持ち物だったのだから新しく許可は必要ありません。
ただし、何故か不動産登記法上では所有権更正ではなく所有権移転の登記が必要になるため注意が必要です。もっとも、これは農地転用とは全く別の話になりますので細部は司法書士に相談してください。
許可を受けずにした売買契約等は無効です。ただし、許可取得を停止条件とした場合や売買予約は認められます。

さて、前置きが長くなってしまいましたが、今回は農地法第3条申請書の作成方法を徹底解説します。

目次

農地法第3条申請書の概要

以下の解説は広島市の申請書式をもって実施します。
なお、全国の各自治体によって細部の書式は変わります。

記載事項

記載事項は以下の通りです。

  1. 申請日
  2. 許可権者
  3. 譲受人等の住所、職業、年齢、国籍、在留資格または特別永住者の別、氏名、電話番号
  4. 譲渡人等の住所、職業、年齢、氏名、電話番号
  5. 対象の農地または牧草放牧地の「なに」を「どのようにしたい」のか
  6. 許可を受けようとする土地の状況等
  7. 引渡の時期
  8. 権利の設定または移転の理由
  9. 権利を設定または移転の契約内容
  10. 譲渡人等、譲受人等の保有または使用している農地の面積
  11. 作付け作物、作物別の作付面積
  12. 譲受人等とその世帯員の農業従事の状況
  13. 譲受人及びその世帯員の保有する農機具及び家畜
  14. 信託契約の内容
  15. 転貸を認めるかの別
  16. 周辺地域との関係
  17. その他の参考となる事項
  18. 申請に関する詳解に応答する者の氏名、住所、連絡先

フォーマット

実際のフォーマットは以下のリンクから参照できます。

220435.xls 農地法第3条申請書【広島県HP】

農地法第3条申請書の作成方法

申請日

窓口での簡易審査で補正を受けた場合、書き直しになってしまうため、ここは空欄で提出しましょう。

許可権者

許可権者は以下の通りです。
1 面積4㌶(4万㎡)超:農林水産大臣
2 面積4㌶(4万㎡)以下:都道府県知事(政令指定都市の場合は各市長又は農業委員会会長)

譲受人等の住所、職業、年齢、国籍、在留資格または特別永住者の別、氏名、電話番号

ここは読んで字のごとくそのまま記載します。また、押印は不要です。
なお、法人の場合は住所に代わり主たる事務所の所在地を記載します。住所は住民票に記載された通りに一字の差異無く転記して下さい。
令和5年9月1日の規則改正により、譲受人のみ国籍及び在留資格を記載することになりました。
譲受人が法人の場合、理事等または役員(取締役)、5%株主の全員の氏名、国籍、住所の記載が必要です。
【根拠法令:農地法施行規則第11条6項及び7項
また、譲受人が記載欄に書ききれないほど複数いる場合は「別紙の通り」として別紙を添付してください。

譲渡人等の住所、職業、年齢、国籍、在留資格または特別永住者の別、氏名、電話番号

ここは読んで字のごとくそのまま記載します。また、押印は不要です。
なお、法人の場合は住所に代わり主たる事務所の所在地を記載します。住所は住民票に記載された通りに一字の差異無く転記して下さい。
また、譲渡人が記載欄に書ききれないほど複数いる場合は「別紙の通り」として別紙を添付してください。

対象の農地または牧草放牧地の「なに」を「どのようにしたい」のか

この部分は通称で主文と言われているところです。

【次の農地(採草放牧地)の(に)「     」を「   」したいので,農地法第3条第1項及び同法施行令第1条の規定により許可を申請します。】

という文章の「   」の部分に該当する言葉を記載します。
所有権移転ならば、「所有権」を「移転」になります。そのままですね。

許可を受けようとする土地の状況等

ここに記載する項目は少し煩雑です。
以下、項目別に解説します。

土地の所在

ここには対象の農地の住所を記載します。
不動産登記簿に記載されている通りに、一字の差異無く転記して下さい。

地番

ここも不動産登記簿に記載されている通りに、一字の差異無く転記して下さい。

地目

ここには不動産登記簿上の地目と現状の地目を記載します。
登記簿上は畑でも、現状が宅地であったりする場合があるための処置です。

面積(㎡)

ここも登記簿上の面積を転記します。

所有者氏名

ここも登記簿上の所有者を転記します。
登記簿上の所有者と現実の所有者に差異がある場合は注意が必要です
例えば、登記簿上の所有者が死亡して相続が発生している場合が考えられます。この場合は相続登記を先にしてから申請して下さい。遺産分割協議書で相続人が明確になっている場合は遺産分割協議書を根拠として申請できますが、本来であれば望ましくはありません。
国家の方針として、登記の状態は常に最新の現状に則していることが前提となっているからです。
そのため、無駄に提出する書類が増えるだけです。また、役所の担当者の心象もあまり良くはなりません。

耕作者の氏名と利用権原

ほとんどの場合は所有者がそのまま耕作者になっているかと思います。
また、利用権原は所有権や永小作権等の耕作ができる根拠となる権利を記載します。
「権限」ではなく「権原」であるところが法律書式らしいですね。

合計面積と田、畑、牧草放牧地別の面積

ここには申請対象となる農地の合計面積を記載します。
また、括弧書きで田、畑、牧草放牧地の別を記載する欄がありますので、ここには各農地種類別の筆数と面積を記載します。
注意すべき点として、各農地種類別の筆数と面積は登記簿上の数値を記載してください。

その他の注意点

・余白部分には「以下余白」と記載します
・書ききれない場合は別紙を添付し「別紙の通り」と記載します。

引渡の時期

ここには農地を譲受人に引き渡した時期を記入します。
民法上は売買契約等をした段階で所有権が移転しますが、農地は農地法の許可を得た後でなければ所有権は移転しません。ただし、引き渡すことは事前にできるためこのような記載欄があります。とはいえ、通常であれば許可を取得した後に引き渡すことになるので、ここは空欄のままでもいいでしょう。ただし、自治体によってローカルルールがあるため、事前に役所に問い合わせることを推奨します。

権利の設定または移転の理由

ここには譲渡人と譲受人のそれぞれの申請に至った理由を記載します。
譲渡人であれば、「高齢で耕作困難となったため譲渡する」
譲受人であれば、「耕作地を拡大するため買い取る」
といったような書き方になります。
ただし、自治体によってはかなり詳細に書かなければならない場合もあります。

権利を設定または移転の契約内容

ここは以下の項目に分けて解説します。

申請に関わる権利の内容

所有権移転、賃借権設定、使用貸借による権利の設定のどれかを〇で囲みます。どれにも当てはまらない場合はその他に理由を記載します。

権利の設定又は移転の時期

許可が取得できなければ権利の設定も移転もできないため、ここは許可が取得できる予定日を記載することになります。
ただし、自治体によってローカルルールがあるため、事前に役所に問い合わせることを推奨します。

権利の存続期間

この欄は該当する場合のみ記載します。
永久ならば永久、有限ならば始期から終期及び合計年数を記載します。
なお、民法上や借地借家法上の借用期間に適合していなければ補正指示の対象となるため注意しましょう。

売買価格または賃借料

この欄は該当する場合のみ記載します。

譲渡人等、譲受人等の現在保有及び使用している農地の面積

ここは現在保有している面積なので、売買等をする前の現状を記載します。
以下の項目に分けて解説します。

地目区分

保有または使用している農地について、田、畑、樹園地、牧草放牧地の区分に振り分けて、次の項目別に面積を記載します。

譲受人の場合

①所有地で自作地(自分で耕作している自分の農地)
②所有地で貸付地(他人に貸し付けて耕作させている自分の農地)
③所有地で非耕作地(耕作していない自分の農地)
④所有地以外で借入地(自分で耕作している借りた農地)
⑤所有地以外で貸付地(他人に耕作させている借りた土地)
⑥所有地以外で非耕作地(耕作していない借りた土地)
最後に①と④の合計値を「経営地」の欄に記入します。

なお、広島市のフォーマットにある記載例では「200㎡の休耕地の畑」が所有地以外の土地に分類されていますが、これは正しくは譲受人の所有地に分類される土地です。(市の担当者に記載例が誤植であることを確認済みです)


220435.xls 農地法第3条申請書【広島県HP】

譲渡人の場合

①自作地(自分で耕作している農地)
②貸付地(他人に貸し付けて耕作させている農地)
③非耕作地(耕作していない農地)
こちらは自己所有か借りた土地なのかの区別はありません。

非耕作地がある場合はその所在、地番、所有と借入の別、地目、面積、状況・理由

所在、地番、所有と借入の別、地目、面積については既に作成してきた項目の中から転記して下さい。
状況・理由については耕作していない(出来ない)理由を記載して下さい。

作付け(予定)作物、作物別の作付面積

ここには、まず譲受人が権利を取得した後に耕作する作物の種類を地目別に記載します。
田であれば水稲、畑であれば野菜で結構です。具体的な品種名までは通常は求められません。
次に、各地目の権利取得後の作付面積を記載します。
つまり、現在既に作付けしている面積+今回の申請で取得する面積の合計値を記載します。
最後に「必要な農作業期間」を作物別に記載します。
これは大雑把に〇月から〇月までといった記載で問題ありません。

譲受人等とその世帯員の農業従事の状況等

ここには譲受人の家族構成、各世帯員の年齢、性別、続柄、職業、農業経験年数、年間農業従事日数を記載します。
なお、世帯員等の定義については以下の記事で詳細に解説しています。よろしければ御参照ください。
農地の譲受人の世帯員等とはどこまで含まれるか? - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
注意すべきこととして、世帯の中に未成年の子がいる場合でも記載は省略できません。
また、農業従事者として雇用している者がいる場合はその方の情報も記載します。
最後に、譲受人が今回の申請で取得または権利設定する農地との移動距離及び移動時間を記載します。
かなり細かい規定ですね…

譲受人及びその世帯員の保有する農機具及び家畜

農業機械及び家畜の種類、確保済み数量、導入予定数量、導入のため借入等を行う場合はその旨を記載します。

信託契約の有無

信託契約とは、自己の財産を他人に委託して管理又は運用してもらう契約です。
所有権は委託者のままなのですが、受託者が実効支配することになります。
農地法では農地の信託契約を原則禁じています。なので、ここは通常であれば「無し」に〇を付けます。

転貸を認めるかの別

譲受人が申請で権利を設定する場合、当該農地を転貸することを認めるかどうかの別を記載します。
これは実際に転貸するかどうかという問題ではありません。契約上、転貸ができるようになっているかどうかを記載します。

周辺地域との関係

これは転用後に周囲の農地に及ぼす影響について記載します。
特に記載すべき事項として、地域の水利調整、地域の基準に則った農薬の使用、排水計画が挙げられます。

その他の参考となる事項

ここには農振地域の除外申請や土地改良区の除外手続き等、許可の前提となる要件をクリアしている旨を記載します。

申請に関する詳解に応答する者の氏名、住所、連絡先

申請者本人の情報を記載するか、行政書士等に作成を依頼した場合は当該行政書士の情報を記載します。

最後に

農地法第3条の申請書はなかなか記載事項が多くて作成が大変ですね。
自分だけで作成するのが困難であれば、行政書士や土地家屋調査士と相談してみましょう。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が農地転用許可の取得を検討されている方の参考になれば幸いです。

また、この他にも有益な情報を逐次投稿しております。よろしければ他の記事もご覧ください。
投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

なお、業務に関するお問い合わせは、下記のお問い合わせフォームからいつでもどうぞ。
お問い合わせ - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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