農地転用に関連する法令
農地転用に関連する法令等は非常に多岐に亘ります。
農地転用は関連法令が密接に関係するため軽視することは出来ません。
今回は農地転用に関連する法令とその手続きの概要について解説します。
目次
- 1 所有者に相続が発生している場合
- 2 農地に関する所有権以外の権利の確認
- 3 確定測量と分筆登記
- 4 農業振興地域の手続き
- 4.1 除外に係る土地を農用地等以外の用途に利用することが必要かつ適当で農用地区域以外に代替する土地がないこと
- 4.2 農用地の集団化、農作業の効率化その他農業上の効率的・総合的な利用に支障を及ぼすおそれがないこと
- 4.3 効率的・安定的な農業経営を営む担い手に対する農用地の利用の集積に支障を及ぼすおそれがないこと
- 4.4 農用地等の保全又は利用上必要な施設の機能に支障を及ぼすおそれがないこと
- 4.5 土地改良事業等の工事が完了した年度の翌年度から8年が経過していること
- 4.6 まとまった土地(10㌶以上)の一角ではないこと
- 4.7 農業用水路の流れを妨げないこと
- 4.8 具体的な計画があり、確実に転用すること
- 5 土地改良区の除外手続き
- 6 市街化調整区域内の手続き
- 7 道路後退(セットバック)の手続き
- 8 道路及び水路の占有許可
- 9 市町村独自の条例
- 10 生産緑地の買い取り申請制度
- 11 最後に
所有者に相続が発生している場合
転用しようとする農地の所有者が既に死亡している場合があります。
この場合、現在の所有者が遺産分割協議書で明確になっていなければなりません。
もちろん、相続を原因とする所有権移転登記まで完了させておくのがベストです。しかし、権利に関する登記は任意なので、しなくても法令違反にはなりません。
ただし、その場合は申請に必要な書類が増えるだけです。面倒でも登記を完了させることを推奨します。
農地に関する所有権以外の権利の確認
農地は不動産なので、あらゆる物権や債権の対象となります。
特に、抵当権や根抵当権が付いている場合、転用により不動産の評価額が変動するため、事前に権利者と相談が必要です。
ただ、転用すれば通常は価格は上昇します。そのため権利者にとって有利になる場合が多いと思います。
また、地上権、永小作権、質権、使用貸借権、賃借権が設定されている場合も権利者に相談した方がいいでしょう。
特に永小作権は農業をするための権利なので、権利者にとっては死活問題です。
また、登記はできませんが、稀に「利用権」なる権利が設定されていることがあります。
これは農地法第3条の許可を例外的に緩和して貸借を許している措置です。利用権が設定されている場合、先にこれを解除しなければ許可は認められません。
利用権が設定されているかは通常であれば所有者本人が知っているかと思います。もし分からなければ役所の窓口に相談しましょう。
なお、利用権については以下の記事で解説しております。よろしければ御参照ください。
確定測量と分筆登記
確定測量は農地転用に必要な準備で解説しているため、そちらを参照してください。
分筆登記とは、1つの土地を複数に分割する手続きのことです。
この手続きは農地の一部分だけを転用したい場合は必須です。
農地法は農地の部分転用を認めていないのです。そのため、転用したい部分を先に分筆して独立の土地にする必要があります。
分筆登記は土地家屋調査士の独占業務です。確定測量とセットで依頼したほうがいいでしょう。
分筆登記の費用は対象の農地の面積にもよりますが、約20~30万円程度が相場のようです。
農業振興地域の手続き
転用しようとする農地が農業振興地域(以下、農振と呼称)内である場合は、そのままでは転用申請できません。
まず、先に農振除外手続きをしなければなりません。
農振除外手続きの要件は以下の通りです。
除外に係る土地を農用地等以外の用途に利用することが必要かつ適当で農用地区域以外に代替する土地がないこと
(1)除外予定地がその除外理由である事業や居住等の目的に対して必要最小限の面積であること
(2)除外後直ちに農用地以外等に利用する緊急性があること
(3)農用地区域外の土地について選定検討したが、選定できない明確な理由があること
(4)自己所有地の全てについて検討していること
(5)新たな土地取得が不可能であること
(6)農地転用や開発許可等他法令に係る許可見込みがあること(事前協議が必要です)
農用地の集団化、農作業の効率化その他農業上の効率的・総合的な利用に支障を及ぼすおそれがないこと
(1)農用地を細断することのない農用地区域の周辺部または※集落介在であること
※農地の一辺以上が宅地に面しているか又は周辺が宅地に囲まれている状態のこと
(2)効率的な農作業を行うために必要な農地の※連担性に影響がないこと
※複数の土地、区画を跨いでいる状態のこと
(3)除外が土地利用の※スプロール化、混在化を招くことがないこと
※無秩序かつ無計画な開発のこと
(4)日照、通風及び雨水、汚水等の放流により農業への影響が生じないこと
効率的・安定的な農業経営を営む担い手に対する農用地の利用の集積に支障を及ぼすおそれがないこと
(1)農地を借りている方が、※認定農業者等の担い手に該当しないこと
※市町村が認定した農業従事者のこと、税制面や融資面で手厚い優遇を受けられる
(2)農地を借りている方が、現在認定農業者等でなくとも将来確実に認定農業者等になる可能性が無いこと
(3)経営規模の縮小により、効率的、安定的な農業経営に支障を及ぼさないこと
農用地等の保全又は利用上必要な施設の機能に支障を及ぼすおそれがないこと
農道、用水路、排水路、ため池等の機能に支障が生じないこと
土地改良事業等の工事が完了した年度の翌年度から8年が経過していること
まとまった土地(10㌶以上)の一角ではないこと
農業用水路の流れを妨げないこと
具体的な計画があり、確実に転用すること
【根拠法令:農業振興地域の整備に関する法律第13条2項】
また、神奈川県藤沢市が参考になるチェックリストを公開していたため紹介します。
農用地区域からの除外要件チェックリスト‹.xlsx (city.fujisawa.kanagawa.jp)
上記の通り農振手続きは非常に面倒なのです。
なお、農振手続きをするためには、先に土地改良区の除外申請を取得する必要があります。
土地改良区の除外手続き
土地改良区は農業従事者の組合のことです。
これは官営ではないため、役所では除外手続きはできません。
各事務局に直接除外手続きをしに行かなければなりません。各事務局の連絡先は役所の農業委員会に教えてもらえます。
これは申請がデジタル化していないため、事務局に直接足を運ぶかFAXで書類を送ってもらう必要があります。
また、複数の土地改良区に属している場合、全ての所属土地改良区に対して手続きが必要です。
除外手続きが完了した場合、事務局から「意見書」が送付されます。
この意見書がなければ農地転用申請ができないため、まず先に土地改良区の除外手続きをするようにしましょう。
また、この手続きには手数料の納付が必要なことに注意しましょう。
市街化調整区域内の手続き
農地転用に関連する法令の代表格が都市計画法です。
転用しようとする農地が市街化調整区域内にある場合は都市計画法の手続きが必要です。
この手続きは農地転用とは別の許可申請手続きになります。そして、農地転用よりも複雑で難しい手続きです。自分でできそうにないと判断した場合は専門とする行政書士に依頼することを推奨します。
道路後退(セットバック)の手続き
転用しようとする農地が都市計画区域または準都市計画区域内にある場合、幅員4m以上の道路に2m以上接していなければなりません。
【根拠法令:建築基準法第42条 、建築基準法第43条 】
このため、新たに建物を建てる際、接道が幅員4m未満であれば土地の一部を削って道路にする必要があります。
この手続きには図面と現地の道路予定地を示すピンの打設が必要なので、土地家屋調査士に依頼しましょう。
また、道路予定地は分筆登記をして自治体に寄付することが一般的です。しかし、寄付せずに自己管理することもできます。
自己管理する場合は舗装工事等は必要ありませんが、障害物となる物を設置することは出来なくなります。
なお、細部は役所の土木課等と調整して下さい。
道路及び水路の占有許可
農地転用では排水経路の確保が非常に重要です。
通常であれば既設の水路に側溝を繋げて排水する、または地中に排水管を埋設することが一般的です。
この場合、水路または道路の占用許可が必要です。
どちらも役所の河川課または道路課と調整することが必要です。
なお、地中に排水管を埋設する場合は精密な図面を求められることがありますので、専門の業者に作成を依頼することを推奨します。
市町村独自の条例
小規模な転用であれば条例の規制対象になっていることは稀です。しかし、大規模(1,000㎡程度)な転用は注意が必要です。
市町村によっては条例の対象となり、近隣住民への説明会の実施等が求められることがあります。
もちろん、この場合は近隣住民の同意も許可要件となるので、難易度が上がります。
生産緑地の買い取り申請制度
生産緑地とは、農業を続けることを条件に国から税制優遇を受けている農地です。
当然ですが、そのままでは転用できません。ただし、農業従事者の身体的故障や死亡により農業を継続できなくなった場合は自治体に農地を買い取ってもらう申請ができます。
流れとしては、まず自治体が買い取りを検討し、買い取らない場合は他の農業事業者に対して買い取りの斡旋がされます。斡旋から3カ月経過しても誰からも買い取りの意思表示が無い場合は、ようやく転用が可能になります。
ただし、生産緑地を転用すると税制優遇を受けられなくなるため、事前によく検討しましょう。
最後に
農地転用に関連する法令は以上です。
農地転用に関連する法令をクリアする方が農地転用手続そのものより困難な場合も多々あります。
もし一人では対処しきれないと感じたならば、農地転用を専門とする行政書士に相談することを推奨します。
今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
この記事が農地転用許可の取得を検討されている方の参考になれば幸いです。
また、この他にも有益な情報を逐次投稿しております。よろしければ他の記事もご覧ください。
投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
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