圃場整備で無農薬田んぼが失われる?土地改良法に基づく反対の可否と対応策を徹底解説!

長年大切に育ててきた無農薬の田んぼが、圃場整備事業によって他の農薬使用田とまとめられてしまう──そんな理不尽な状況に、心を痛めている方はいませんか?

今回は、土地改良法に基づいて実施される圃場整備事業において、無農薬農家が自身の田を守ることはできるのか、また事業に反対することは法律上可能なのかについて、制度の概要とともに実務的な対応策を詳しく解説します。


相談事例:無農薬栽培を30年間続けてきたAさんの悩み

相談者のAさんは、広島県内の農村地域で30年以上にわたり無農薬の水稲栽培を続けていました。消費者からの信頼も厚く、安定した販売ルートを築いています。

ところが近年、地域の農地を対象とした圃場整備事業が持ち上がり、Aさんの田んぼもその対象に含まれることに。

事業によって、周辺の農薬を使用する農地と換地によって一体的に整備される可能性が高く、無農薬の農地としての独立性が失われることが懸念されています。

Aさんは役所に相談したものの、「あなたの田んぼだけ特別扱いはできない」「事業は地域全体で行うもの」と取り合ってもらえませんでした。


圃場整備事業とは?──土地改良法の基本を解説

圃場整備とは何か?

圃場整備とは、農業用地の効率的な利用を目的として、田畑の形状を整え、排水路や用水路、農道などの基盤インフラを整備する事業です。狭くて使いづらい田を大きな整形地にまとめることで、大型機械の導入が可能になり、作業効率が飛躍的に向上します。

この整備は、個々の農家ではなく地域全体で一斉に行うことが原則です。したがって、個別の希望が通りづらいという構造的な問題も抱えています。


法的根拠:土地改良法とは

圃場整備の法的根拠となるのは「土地改良法」です。これは農業生産の向上や農村の発展を目的とし、農地の整備や用排水施設の設置を支援する法律です。

(目的及び原則)

第1条
この法律は、農用地の改良、開発、保全及び集団化に関する事業を適正かつ円滑に実施するために必要な事項を定めて、農業生産の基盤の整備及び開発を図り、もつて農業の生産性の向上、農業総生産の増大、農業生産の選択的拡大及び農業構造の改善に資することを目的とする。

土地改良法|条文|法令リード


土地改良法第5条:3分の2の同意で事業は実施可能

土地改良法第5条では、事業区域内の土地所有者や耕作者のうち、面積または人数の3分の2以上の同意が得られれば、圃場整備事業を実施することができるとされています。

つまり、反対者が3分の1未満であれば、法的には事業が進行できることになります。

(設立準備)

第5条2
前項の者は、同項の認可の申請をするには、あらかじめ、農林水産省令の定めるところにより、同項の土地改良事業の計画の概要、定款作成の基本となるべき事項、同項の一定の地域内にある土地につき第3条に規定する資格を有する者で当該土地改良事業の計画及び定款の作成に当たるべきものの選任方法その他必要な事項を公告して、同項の一定の地域内にある土地につき同条に規定する資格を有する者の三分の二以上の同意を得なければならない。

土地改良法|条文|法令リード

この点から、Aさんのように一人または少数が反対したとしても、事業の中止には直結しないというのが現実です。


土地改良区とは?

土地改良区とは、圃場整備などの事業を推進するために、地域の土地所有者で構成される法人です。組合員の総会で方針が決まり、事務局や理事会を通じて計画の策定や換地の設計などが行われます。

この土地改良区が、換地処分や費用の賦課など、事業に必要なあらゆる実務を担います。


換地制度と無農薬農地の問題

圃場整備では、元の土地がそのまま維持されるとは限りません。「換地」と呼ばれる制度により、整備後の農地配置が変更され、異なる場所に新たな地番で土地が配分されるのが一般的です。

そのため、無農薬農地として管理していた田んぼも、整備後には他の田と一体化され、農薬の影響を受けるリスクが高まります。

これが、Aさんのような農家にとっては最大の懸念材料です。


「特別扱いはできない」は本当か?──希望を通す方法とは

行政が述べる「特別扱いはできない」というのは、確かに制度上の原則です。しかし、すべての希望が一切通らないわけではありません。

土地改良法では、組合員の合理的な希望がある場合には、可能な限りその意見を反映するよう努めるべきとされています。そのため、換地設計においても調整が行われることがあります。

実務上、下記のような対応が効果的です。


無農薬田を守るための実務的対応策

① 希望書の提出

「長年無農薬栽培を続けてきたこと」「現在の顧客との契約」「農薬混入による被害」などを文書にまとめ、現地換地(元の場所での土地再配分)を強く希望する旨を提出します。

② 地域との合意形成

周辺の土地所有者に状況を丁寧に説明し、地域内の協力を得て希望を通しやすくすることが重要です。

③ 政策的価値の主張

単なる個人の意見ではなく、無農薬農業が「地域ブランド」や「持続可能な農業」につながることを示し、地域全体の利益であることを訴える姿勢も有効です。

④ 専門家の関与

農業コンサルタントに相談し、法的・技術的に説得力のある資料を添えることで、希望の実現可能性を高めます。


まとめ

  • 圃場整備は土地改良法に基づき、地域の3分の2の同意があれば実施可能
  • 反対者がいても、3分の1未満であれば事業を止めることはできない
  • 換地により、無農薬農地が他の農地と統合される可能性がある
  • ただし、合理的な理由と希望があれば、計画段階で反映される可能性はある
  • 書面提出・地域協議・専門家の支援など、複合的な対応がカギを握る

最後に

今回は、圃場整備によって無農薬農地が他の田とまとめられてしまうことへの対応策と、土地改良法の仕組みについて詳しく解説しました。

熊谷行政書士法務事務所では、農地に関するご相談を多数お受けしております。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が農地に関する法律問題について学びたい方の参考になれば幸いです。

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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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