農地に瓦礫が埋められていた!撤去請求は可能か?
農地に突然、大量の瓦礫が出てきたとしたら、あなたはどう対処しますか?
昭和の基盤整備工事から数十年が経過した今、地中に埋まったアスファルトの塊が農業を妨げているという深刻な問題が発生しています。
今回は、農地から出てきたアスファルト瓦礫に対して、県の責任を問えるのか、撤去を求めることができるのか、民法の視点から実務的な対処法を詳しく解説します。
目次
相談事例:野菜作付けのための弾丸暗渠工事で瓦礫が発覚
相談者Aさんは、昭和後期に基盤整備が行われた田んぼを所有し、長年稲作を続けてきました。これまでは特に支障もなかったものの、今年、野菜に転作するために弾丸暗渠を入れたところ、地下30〜40cmの位置から次々にアスファルトの瓦礫が出てきました。
この瓦礫によって管理機が破損するなどの実被害が生じ、田んぼの価値が著しく損なわれている状態です。県の担当者に抗議したところ、「責任はない」「仮にあっても時効だ」と言われ、対応を拒否されたとのことです。
瓦礫によって土地の利用価値が損なわれるという法的問題
農地にアスファルト瓦礫が埋設されているということは、農業の生産活動に重大な支障をきたすだけでなく、地価・資産価値をも直接的に下げる要因となります。仮にこの土地を売却しようとする場合、買主への告知義務が生じる可能性があり、説明を怠れば契約解除や損害賠償、撤去請求などのリスクを抱えることになります。
また、買主が納得して購入したとしても、価格は相場より大きく下落することが想定されます。つまり、現時点でAさんはすでに損害を被っていると言えるのです。
県の主張する「時効」は成立しているのか?
県側は、昭和の工事に起因する問題であるため、「時効により損害賠償の責任は消滅している」と主張しています。この点について、まずは民法の条文を確認してみましょう。
民法第724条(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第724条
不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
- 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき。
- 不法行為の時から20年間行使しないとき。
この規定から明らかなように、不法行為から20年以上が経過している場合には、損害賠償請求権そのものが時効により消滅してしまうことになります。
本件のように、昭和の時代に基盤整備工事が行われたケースでは、Aさんが最近瓦礫の存在を知ったとしても、損害賠償請求の道は既に閉ざされているというのが結論です。つまり、この点においては県の主張が法律的に正しいということになります。
しかし、妨害排除請求は今も可能
それではAさんは泣き寝入りするしかないのでしょうか?
いいえ、まだ有効な法的手段があります。それが、妨害排除請求権(物権的請求権)です。
(所有権の内容)
第206条
所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。
この所有権に基づき、自己の土地に不法に妨害物が存在する場合は、その排除を求めることができると解されています。しかもこの請求権は、時効によって消滅することがないという特徴があります。
これは、あくまで「現在も妨害状態が継続していること」が前提となりますが、今回のように地中の瓦礫が撤去されない限り農地利用を妨げているという状況であれば、明らかに継続的な妨害と評価できます。
占有者としての主張もできる──「占有保持の訴え」
さらに、Aさんが実際にこの土地を占有し農業に利用しているのであれば、「占有保持の訴え」も法的手段として活用できます。
(占有保持の訴え)
第198条
占有者がその占有を妨害されたときは、占有保持の訴えにより、その妨害の停止及び損害の賠償を請求することができる。
(占有の訴えの提起期間)
第201条占有保持の訴えは、妨害の存する間又はその消滅した後1年以内に提起しなければならない。ただし、工事により占有物に損害を生じた場合において、その工事に着手した時から1年を経過し、又はその工事が完成したときは、これを提起することができない。
重要なのは、「妨害の存する間は提起できる」という点です。瓦礫が未撤去である以上、妨害は現在も進行中であるため、今まさに訴えを起こすことが可能というわけです。
実務的な対応策
では、Aさんのような状況にある方は、どのように行動すべきなのでしょうか。以下に現実的なステップを示します。
① 状況の証拠化
- 現地の写真・動画の撮影
- 農機具の破損箇所の記録
- 弾丸暗渠や作付け作業の妨害状況の証明
② 撤去費用の見積もり
専門の土木業者に依頼し、瓦礫の撤去費用を算出します。これにより、金額的な根拠をもとに請求や交渉が可能になります。
③ 書面での請求・交渉
県に対して、妨害排除を根拠とした文書による撤去請求を行います。可能であれば行政書士や弁護士の助言を受けて作成するのが望ましいです。
④ 訴訟の準備(必要に応じて)
交渉が決裂した場合には、民事訴訟として妨害排除請求や占有保持の訴えを提起することができます。ここでも記録や証拠が非常に重要になります。
まとめ
- 不法行為による損害賠償請求(民法第724条)は、20年の絶対的時効により請求ができなくなっている可能性が高い
- しかし、妨害排除請求(民法第206条)や占有保持の訴え(第198条・第201条)は、妨害が継続している限り時効の対象とならず、今でも行使可能
- 土地所有者や占有者は、瓦礫撤去の請求を文書で行い、必要に応じて訴訟も視野に入れるべき
最後に
今回は、昭和期の基盤整備工事によって農地に瓦礫が埋設された事例をもとに、現在も有効な法的請求の可能性について解説しました。
熊谷行政書士法務事務所では、農地に関するご相談を多数お受けしております。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。
今回は以上で終わります。
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