給水栓が復旧されない?土地改良区工事後のトラブルと法的対処法を徹底解説
長年農業を営む方にとって、畑の水はまさに命です。しかし、土地改良区の工事に協力した結果、給水栓が取り外されたまま戻らず、そのまま使えなくなってしまった――そんな不条理な事態に直面したら、あなたならどうしますか?
今回は、土地改良区の工事で一時的に取り外された給水栓が復旧されず、さらに賦課金の免除も拒否されているという相談事例をもとに、考えうる法的対応について解説します。
目次
相談事例:給水栓の復旧を拒否された農家の声
相談者は、25年前に土地改良区の圃場整備事業に協力する形で、自身の畑を工事用の資材置き場として一時的に提供しました。その際、「邪魔になる」という理由で給水栓が一時的に取り外されました。
しかし、工事は10年以上にわたって続き、ようやく終了したのは今から約15年前のことです。それにもかかわらず、取り外された給水栓は元に戻されていません。土地改良区に復旧を要望したものの、「業者と契約がない」「すでに業者は存在しない」「個人負担でしか復旧できない」と断られてしまいました。
相談者は「給水栓が使えないなら、その畑は受益地ではないはずだ」として、少なくとも賦課金の免除を求めました。しかし、「近くの給水栓を共有できたはず」との理由で却下されました。
法律上の観点からみる給水栓の復旧義務
あまりにも理不尽で憤りを感じざる負えない状況かと思います。
さて、法的にどのような対処が可能か検討していきましょう。
まず確認すべきは、土地改良区の工事に関連して取り外された給水栓の復旧責任がどこにあるのかという点です。
このようなケースにおいては、以下の法令が参考になります。
(定義)
第2条2 この法律において「土地改良事業」とは、この法律により行う次に掲げる事業をいう。一 農業用用排水施設、農業用道路その他農用地の保全又は利用上必要な施設の新設、管理、廃止又は変更
(抜粋)
この規定により、給水栓の撤去も土地改良事業の一環と考えられます。そして事業の主体は「土地改良区」であるため、原則としてその工事の管理・調整・履行責任も同様に負うことになります。
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
土地改良区が「一時的に取り外した給水栓を復旧する」という黙示的な合意があったとすれば、その不履行により損害が生じた場合、賠償責任を問える可能性もあります。
給水栓が復旧されないままの土地の法的位置づけ
相談者が主張するように、給水栓が機能しない以上、その土地は本当に「受益地」なのかという疑問もあります。
土地改良法第11条(受益者負担金)
(経費の賦課)
第36条9 土地改良区は、第1項、第2項又は第4項の規定による場合のほか、定款で定めるところにより、都道府県知事の認可を受け、その行う土地改良事業によつて利益を受ける者で農林水産省令で定めるもの(以下この条において「特定受益者」という。)から、特定受益者の受ける利益を限度として、その土地改良事業に要する経費の一部を徴収することができる。
つまり、土地改良による利益が実質的にない土地に対して賦課金を課すことには、法的な正当性が欠ける可能性があります。給水栓の未復旧により、キュウリやサトイモなどの水を多く必要とする作物が作れず、農業の用途が制限されている現状では「受益の不存在」を主張する余地があるでしょう。
対応策①:関係者への再ヒアリング
長年にわたる経緯のため、当時の工事に携わった業者や土地改良区の役員がすでに退任・廃業していることもあります。
しかし、まずは以下の点を確認しておくことが有効です。
- 土地改良区の記録・議事録に当時の工事内容や給水栓に関する記載が残っていないか
- 当時の役員や関係者が地元に在住しており、事情を証言できるか
- 工事の過程で口頭でも復旧の約束がされていなかったか
地域社会に根ざした工事である以上、非公式な合意が存在していた可能性もあります。それを裏付ける証言や資料があれば、交渉の足掛かりになるかもしれません。
対応策②:弁護士との連携
状況の打開が困難な場合、やはり法的な交渉を視野に入れる必要があります。
このときは、以下のような専門的対応が考えられます。
- 損害賠償請求(民法第709条に基づく不法行為)
- 地位確認訴訟(受益地ではないことの確認)
- 賦課金の差止請求(行政不服申し立て)
(不法行為による損害賠償)
第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
土地改良区の対応が過失にあたると認定されれば、この規定に基づき損害賠償を求めることもできます。まずは市役所等の無料法律相談を利用し、地元に詳しい弁護士を紹介してもらうのが良いでしょう。
実務的な対応策まとめ
現実的に取り得る選択肢としては、以下のようなアプローチが考えられます。
- 書面で土地改良区に復旧要望を正式に提出
- 旧役員の証言など状況証拠の収集
- 給水栓未復旧を理由とした賦課金の一部または全部の免除要請
- 地元の議員や自治体担当部署への相談
- 弁護士への正式な相談・代理交渉
いずれの方法でも、重要なのは「記録に残すこと」です。口頭のやりとりだけで終わらせず、必ず文書に残し、交渉の経緯が第三者にも伝わるようにしておきましょう。
まとめ
- 土地改良区には給水栓復旧の黙示的義務がある可能性がある
- 給水栓が使えない場合、その畑が「受益地」に該当しない可能性もある
- 賦課金の正当性を争うには法的根拠と証拠の収集が不可欠
- 弁護士との連携により損害賠償や差止め請求が可能となる
最後に
今回は、土地改良区の工事によって給水栓が取り外されたまま復旧されず、その後の賦課金免除も認められなかったという事例をもとに、法的な対応方法を解説しました。
熊谷行政書士法務事務所では、農地に関するご相談を多数お受けしております。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。
今回は以上で終わります。
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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
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