自分の土地に勝手に植えられたスギの所有権は誰のもの?


長年所有している農地や山林に、気付いたら他人がスギを植えていた――そんな事態に直面したら、あなたならどうしますか?

今回は「他人が勝手に植えたスギが自分の土地にある」という相談事例をもとに、スギの所有権や撤去の可否、そして時効取得の可能性について、法的にどう考えるべきかを解説します。

相談事例:法面に生えたスギの正体

相談者は、代々所有している畑の法面に植えられていたスギについて困っていました。そのスギは、自身の父が購入した土地であるにもかかわらず、元の地主の息子が「事情を知らずに」植林していたものでした。

地域的なつながりもあり、当時ははっきりと反対の意思表示ができなかったとのこと。しかし、今では土地を長男に相続させる予定もあり、スギの所有者が誰なのか、また今後どう対応すべきかを整理したいというご相談でした。

土地の所有権とスギの所有権は別?法律的な基本整理

まず理解すべきは、土地とその土地に生えているスギの所有権が、必ずしも同一ではないという点です。

この点に関して直接的に定める条文として、次の規定が参考になります。

不動産付合
第242条
不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。ただし、権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない。

民法第242条 - Wikibooks

つまり、原則としては他人がスギを植えても、それが「土地に付着」した時点で、そのスギも土地所有者に帰属するというのが民法の立場です。ただし、ここにはいくつかの例外や留意点があります。

例えば、以下のようなケースでは、スギが他人の所有物として認められることがあります。

  • スギを植えた時点で、所有者がそれを明確に主張していた
  • 土地所有者がその植林に明確に同意していた
  • スギが鉢植えや杭で明確に独立していた(付着していない)

相談者のように、「明確に反対はしなかったが、無断で植えられた」という曖昧な状態は、法的には争いが生じやすい状況です。

無断で植えたスギは違法?撤去は可能か

元地主の息子が、無断で相談者の土地にスギを植えたという場合、民法上の「不法行為」に該当する可能性があります。


不法行為による損害賠償
第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

民法第709条 - Wikibooks

他人の土地に無断でスギを植えることは、「所有権侵害」に該当します。したがって、土地の所有者は不法占拠に基づき、スギの撤去を請求することが可能です。

ただし、問題は「いつ植えられたのか」「その後の管理状況はどうだったのか」といった経過です。これが時効取得の可能性と深く関係してきます。

スギを植えてから20年経っていたら?取得時効のリスク

スギが植えられてから20年以上が経過している場合、元地主の息子がスギや土地の一部を「時効取得」している可能性が出てきます。

所有権取得時効
第162条

10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。

20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の占有した者は、その所有権を取得する。

民法第162条 - Wikibooks

つまり、たとえ元地主の息子が「他人の土地だと知っていた(悪意)」場合でも、20年間スギを占有・管理していれば、スギの所有権、あるいは土地の一部を取得した可能性があります。

特に、以下のような事実があると、時効取得が認められる可能性が高まります。

  • 間伐、枝打ち、施肥など定期的な管理をしていた
  • 明確にスギが自己のものであると公言していた
  • 土地の一部に囲いをするなど、排他的に使用していた

逆に、20年未満であったり、植えっぱなしで放置していた場合には、時効取得の主張は難しくなります。

消滅時効の可能性もある?

時効は「取得」だけでなく「消滅」もあります。

スギを植えた側(元地主の息子)が、その後一切管理も主張もしていなかった場合、「スギの所有権を主張する権利」が消滅している可能性もあります。

債権等の消滅時効
第166条

  1. 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
    1. 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
    2. 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。

民法第166条 - Wikibooks

スギに対する所有権や撤去要求を長期間放置していた場合、その主張自体が失効していることもあるため、植えた側が自動的に有利になるとは限らないのです。

実務対応:撤去、買取、合意書の選択肢

こうした状況において、相談者が取るべき実務的対応にはいくつかの選択肢があります。

  1. 撤去請求
     → スギが勝手に植えられたもので、かつ20年未満であれば有効。文書での請求が望ましい。
  2. スギを買い取る交渉
     → 今後のトラブルを避けるため、スギの評価額を定めて買い取る形で解決する方法。
  3. 使用許可・賃貸契約
     → 一定期間土地を使用させる代わりに、書面で契約を交わす方法。曖昧な関係を明確にできます。
  4. 合意書の作成
     → 今後の紛争防止のため、スギの所有者と土地所有者で合意書を作成するのがベストです。

必要であれば、行政書士・司法書士などの専門家のサポートを受けると、スムーズな手続きが期待できます。

まとめ

  • 土地に植えられたスギは原則として土地所有者のものとされるが、事情によっては他人の所有とされることもある
  • 無断で植えた場合、民法第709条の不法行為に該当し、撤去請求が可能
  • 植林から20年以上が経過しており、継続的な管理がある場合には、民法第162条により時効取得されている可能性がある
  • 植えた側が長年放置していた場合、民法第166条の消滅時効により主張ができない可能性もある
  • 実務的には撤去請求、買い取り、合意書の作成など、法的整理を文書で明確に行うことが重要

最後に

今回は、自分の土地に他人が勝手に植えたスギがあった場合に、どのような法的対応が可能かを解説しました。

熊谷行政書士法務事務所では、農地に関するご相談を多数お受けしております。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が農地に関する法律問題について学びたい方の参考になれば幸いです。

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