生産緑地なのに宅地並み課税?行政のミスと現況課税のはざまで


農地を保有している方であれば、「生産緑地制度」による税制優遇について一度は耳にしたことがあるかもしれません。ところが、この制度の運用は複雑で、行政の手続きミスや認識の違いによって、想定外の税負担が生じることがあります。

今回は、「生産緑地に指定されているにもかかわらず宅地並み課税がなされていた」という実際にあり得るトラブルについて、法律の観点からどのように整理されるのか、そして納税者としてどのように対応すべきかを詳しく解説していきます。


相談事例:分筆した農地に宅地並み課税が?

相談者は、長年にわたり農地を所有している方です。
約10年前、自宅の裏手にある農地の一部を宅地への通路として利用するために分筆しました。当時、生産緑地としての指定がされていた土地でした。しかし、役場に相談したところ「とりあえず分筆だけしておけばよい」とだけ言われ、特に指定解除等の手続きについては案内されませんでした。

その後、通路として使用していた土地には宅地並み課税がなされるようになりました。
しかし、昨年になって生産緑地の30年指定期間が満了するのに際して、改めて書類を確認したところ、分筆後の土地も含め、すべての土地が生産緑地として指定されたままになっていたことが判明。

相談者は「指定が外れていないのに、なぜ宅地並み課税なのか?」と疑問を持ち、税務課に申し出たところ、行政側は「分筆時に指定を外すべきだった」とミスを認めました。しかし、「課税は現況に基づいているため正当」と説明されたとのことです。


生産緑地と課税の基本的な関係

まず整理しておきたいのは、「生産緑地の指定=自動的に優遇課税が適用される」というわけではないという点です。

固定資産税評価は、農地である限り「農地評価」によって計算されますが、都市計画法に基づく市街化区域内農地については、現況に応じて宅地並みに評価される場合があります。
特に、生産緑地の要件を満たさなくなった場合や、転用に近い使用形態が見られた場合には、現況課税(地方税法第408条・固定資産評価基準)の考え方に基づき、宅地として課税されることがあるのです。

(固定資産の実地調査)

第四百八条
市町村長は、固定資産評価員又は固定資産評価補助員に当該市町村所在の固定資産の状況を毎年少くとも一回実地に調査させなければならない。

地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)


行政のミスはあったが、課税は正当?

今回のようなケースでは、次の2つの要素を切り分けて考える必要があります。

① 分筆時に指定解除がなされなかったという行政の手続きミス
② 実際に土地が通路として利用されていたという「現況」

行政側は①についてはミスを認めています。しかし、②を理由に「宅地並み課税は正当」としているわけです。

この「現況課税」の根拠は、地方税法第408条や固定資産評価基準の中にあります。たとえ名目上は農地であっても、実態として農地以外に利用されていれば、それに応じた課税を行うという考え方です。


「現況課税」は万能なのか?

では、現況課税が行われれば、すべて課税は正当ということになるのでしょうか。

答えは、必ずしも「YES」ではありません。
現況課税には一定の合理性があります。ただ、それが適用されるには「課税の客観的な根拠」と「適正な手続き」が必要です。

今回のように、生産緑地の指定が継続しているにもかかわらず、行政側が解除手続きを怠っていた場合、納税者としては「本来なら優遇措置が継続されていたはず」という主張を行うことは可能です。


行政の責任と納税者の保護

行政が自らのミスを認めた場合、その行為に基づいて不利益が生じた納税者には、損害賠償請求等の民事的救済を検討できる場合があります。

第1条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

2 前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。

国家賠償法|条文|法令リード

ただし、税金に関する手続きでは「課税の適法性」と「手続の過誤による損害」は分けて考えられる傾向があります。つまり、仮に行政が手続きを怠っていたとしても、課税そのものが現況に基づいて適法であれば、取り消しや減免を勝ち取るのは容易ではないということです。

このように、課税の是非と行政手続の瑕疵は、法的には別の問題として扱われます。そのため、納税者としては「課税自体の違法性」を立証するか、「手続きミスによる損害」を別途立証する必要があるのです。


対応策:どうすればよかったのか?

本件のような状況を避けるためには、以下のような注意点が重要です。

  • 農地を分筆・転用する際は、生産緑地指定の解除が必要かどうかを必ず確認する
  • 役所の口頭説明だけで済ませず、書面で確認・記録を残しておく
  • 固定資産税の納税通知に異常があれば、早期に問い合わせを行う
  • 生産緑地の指定状況は農業委員会で確認可能

また、納税通知に納得がいかない場合は、審査請求を行うことができます。これは、課税内容に不服がある場合に、行政に対して訂正を求める正式な手続きです。


まとめ

  • 生産緑地の指定が継続している土地に宅地並み課税がなされた場合でも、「現況」が農地以外であれば課税が正当とされることがある
  • 行政の手続きミスがあったとしても、課税の正当性とは必ずしも直結しない
  • 現況課税の考え方は、地方税法第408条や評価基準に基づいて運用されている
  • 不服がある場合は、審査請求や国家賠償請求も検討の余地があるが、法的なハードルは高い
  • 事前の手続確認と記録が、納税者自身を守る重要な手段となる

最後に

今回は、生産緑地として指定されている土地にもかかわらず、宅地並み課税がなされたという事例を通じて、現況課税の考え方や行政手続との関係性を解説しました。

農地や生産緑地に関する制度は複雑で、行政とのやり取りも一筋縄ではいきません。
熊谷行政書士法務事務所では、農地転用に関するご相談を多数お受けしております。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が農地に関する法律問題について学びたい方の参考になれば幸いです。

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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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