農地の一部に違法な倉庫を建てられていた場合の対応策とは?

長年にわたって大切に守ってきた農地に、ある日突然「見知らぬ倉庫が建っている」と気づいたとしたら――その驚きと困惑は計り知れません。
特に、自分の許可なく第三者が農地に建築物を設置していた場合、それが違法行為である可能性は高く、土地の所有者としては早急な対応が必要です。

今回は、他人によって農地に無断で倉庫などの建物が建てられていた場合に、どのように対応すべきかについて、民法や農地法の条文を参照しながら詳しく解説していきます。

相談事例:知らぬ間に倉庫が建てられていた

相談者は広島県内で農地を所有している60代の男性。
先祖代々受け継いできた田んぼの一角に、ある日突然プレハブの倉庫が建っているのを発見。調べたところ、近隣の業者が無断で設置していたことが判明しました。

しかも、農地法の許可も受けておらず、固定資産税の通知にも変化がなかったことから、行政にも届け出がされていない状態でした。

このようなケースでは、どのような対応が可能となるのでしょうか。


無断建築は違法行為にあたる可能性が高い

まず大前提として、農地に倉庫や建物を建築するには、農地法第4条または第5条に基づく「農地転用の許可」が必要です。
農地法は、農地の保護と農業生産の維持を目的としており、無許可での転用行為は原則として違法とされています。

農地の転用の制限)
第4条[抜粋]

  1. 農地を農地以外のものにする者は、政令で定めるところにより、都道府県知事の許可を受けなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合は、この限りでない。

農地法第4条 - Wikibooks

つまり、倉庫の建築は「転用」にあたりますので、農地である以上、その行為には事前の許可が必要ということになります。


他人の土地への建築物設置は不法占拠

他人の土地に無断で建物を建てる行為は、民法上「不法占拠」に該当します。
民法第200条では、不法に占有された物件に対しては、所有者が返還請求できると定めています。

占有回収の訴え)
第200条

  1. 占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。
  2. 占有回収の訴えは、占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができない。ただし、その承継人が侵奪の事実を知っていたときは、この限りでない。

民法第200条 - Wikibooks

このため、相談者は倉庫を設置した業者に対し、農地の明け渡し(倉庫の撤去)を求めることが可能です。
また、農地法の無許可転用にあたることから、都道府県知事(または農業委員会)に対して通報し、行政的な是正措置を促すことも重要です。


民事訴訟による明渡請求の流れ

業者が任意に倉庫を撤去しない場合には、民事訴訟を提起し、土地の明け渡しを求めることになります。
この訴訟では、以下のような点を立証していく必要があります。

  • 自分が土地の所有者であること(登記簿謄本など)
  • 相手方が無断で建築物を設置していること(現場写真、行政通報記録など)
  • 農地法上の許可を得ていないこと(農業委員会の回答書など)

勝訴判決を得ることで、倉庫の撤去や損害賠償の請求も可能となります。
なお、判決に基づいても撤去に応じない場合は、強制執行手続を通じて解決を図ることもできます。


損害賠償請求も視野に

農地に無断で建築物を設置された場合、使用不能となった期間について損害賠償を請求できる可能性もあります。
これは、民法第709条に基づく「不法行為による損害賠償請求権」に該当します。

不法行為による損害賠償
第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

民法第709条 - Wikibooks

この損害額は、例えばその農地で作物が収穫できなかった場合の逸失利益や、土地を利用する予定が頓挫したことによる逸失収益などを根拠に算定することが考えられます。


行政への通報で是正命令を促す

農地法違反が認められる場合、都道府県知事(通常は農業委員会が実務を担います)は、無断転用者に対して是正命令を発出することができます。

(違反転用に対する処分)

第51条
都道府県知事等は、政令で定めるところにより、次の各号のいずれかに該当する者(以下この条において「違反転用者等」という。)に対して、土地の農業上の利用の確保及び他の公益並びに関係人の利益を衡量して特に必要があると認めるときは、その必要の限度において、第4条若しくは第5条の規定によつてした許可を取り消し、その条件を変更し、若しくは新たに条件を付し、又は工事その他の行為の停止を命じ、若しくは相当の期限を定めて原状回復その他違反を是正するため必要な措置を講ずべきことを命ずることができる。

農地法|条文|法令リード

この命令に従わない場合は、行政罰や罰金(農地法第64条)も科される可能性があります。

第64条
次の各号のいずれかに該当する者は、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処する。

一 第3条第1項、第4条第1項、第5条第1項又は第18条第1項の規定に違反した者

二 偽りその他不正の手段により、第3条第1項、第4条第1項、第5条第1項又は第18条第1項の許可を受けた者

三 第51条第1項の規定による都道府県知事等の命令に違反した者

農地法|条文|法令リード


したがって、被害を受けた側としては、農業委員会などに相談し、事実確認と是正命令の発出を促すべきです。


登記や境界があいまいな場合は専門家に相談を

倉庫の位置が筆界付近にあり、登記簿上の境界線が不明確な場合は、土地家屋調査士に依頼して境界確認を行い、筆界特定制度の利用も検討すべきです。

境界が曖昧なまま放置すると、相手方が自己の土地と誤信して建築を行ったと主張してくることもあり、法的な主張に対抗しづらくなります。

現地調査と測量図の作成を通じて、土地の範囲を明確にし、民事訴訟や行政通報においても有効な証拠となる書類を整えることが重要です。


今後の予防策

このようなトラブルを未然に防ぐために、以下のような措置を講じることが推奨されます。

  • 農地周囲への境界標識の設置
  • 定期的な巡回や監視カメラの設置
  • 登記内容の確認と地積測量図の備え付け
  • 農業委員会との定期的な連携と情報共有

農地は長期間にわたって利用される財産であり、代替わりや相続時に法的トラブルが顕在化するリスクが高まります。
日頃から適切な管理と記録を行い、第三者の不当な利用を防ぐ備えが重要です。


まとめ

  • 他人が農地に無断で倉庫などを建てた場合、農地法第4条・第5条違反に該当し、是正命令の対象となる
  • 民法第200条により、所有者は土地の返還請求(建物の撤去)を行える
  • 撤去がなされない場合は、民事訴訟により明渡し請求や損害賠償請求を行うことが可能
  • 境界が曖昧な場合は筆界特定制度や土地家屋調査士の活用を検討すべき
  • 定期的な巡回と登記確認、境界管理が未然防止につながる

最後に

今回は、農地に他人が無断で倉庫を建てていた場合の法的対応について、農地法や民法をもとに解説しました。

農地に関するトラブルは複雑で、適切な対処を怠ると自らの権利が損なわれるリスクもあります。
熊谷行政書士法務事務所では、農地に関する相談について幅広く対応しております。お困りの際は、お気軽にご相談ください。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。
また、農地に関する有益な情報を継続的に発信しております。ぜひ他の記事もご覧ください。

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