土地の一部が他人名義だったときの対処法とは?
長年にわたって自分の家族で耕してきた土地。その一角が「他人名義になっていた」と判明したら、誰しも驚きと不安を感じるでしょう。施設を建てようにも地目変更もできず、名義人に交渉しても高額な代金を提示される…。そのようなトラブルは、実は全国で珍しくありません。
今回は、そうしたケースで活用できる「所有移転登記請求」や「時効取得」の法的手段について、民法や不動産登記法をもとに解説していきます。読者の方が、自らの土地を守り、安心して農地を次世代に引き継ぐためのヒントになれば幸いです。
目次
相談事例:祖父の土地に他人名義の地番が存在していた
相談者は農業を営む50代の男性。祖父が昭和40年代に購入し、以後、家族で耕作をしてきました。しかし、土地の一部に、実は他人名義の地番が含まれていることが最近判明しました。
問題となっているのは「地番A」と呼ばれる区域です。登記簿上の名義人のA氏に確認したところ、驚くほど高額な土地代を請求されました。また、「地番A」の土地の固定資産税を支払っていたのは名義人であるA氏でした。
発端は、戦後に施行された自作農創設措置法による農地解放とされており、その過程で登記が複雑化し、境界線の曖昧なまま地番が分かれてしまったようです。
こうした事例に対して、どのように対応すべきなのでしょうか。
所有移転登記請求とは何か?
名義人が異なる土地に対して、自分が正当な所有者であることを証明し、その登記名義を移転するよう求める手続きが「所有移転登記請求」です。
本件のように、土地を長年耕し、事実上の支配を継続している場合、「時効取得」により所有権を取得している可能性があります。そこで、名義人に対して裁判等を通じて「所有移転登記をせよ」と求めることができます。
これは、民法上の「物権変動に基づく登記請求権」によって根拠づけられます。
土地を長年占有していた場合、時効取得が成立する可能性がある
土地に関する所有権は、登記によって第三者に対抗できるとされています。しかし、登記がない場合であっても、一定の条件を満たせば時効によって所有権を取得することができます。
以下が、民法に定められている時効取得の規定です。
この条文の要件を満たせば、たとえ登記が自分名義でなくても、所有権そのものを取得していると法的に認められる可能性があります。
時効取得の成立要件を満たすか確認する
相談者のケースを時効取得の要件に照らして確認してみましょう。
- 所有の意思があったか?
→ 購入後、自らの土地だと信じて耕作を続けていたため、所有の意思が認められます。 - 平穏・公然な占有か?
→ 名義人からの妨害もなく、耕作も周囲に明らかな形で行われていたならば、この要件も満たします。 - 占有期間は20年以上か?
→ 昭和40年代から耕作していたので、20年を大きく超えています。 - 善意・無過失か?(短期取得の場合)
→ 10年時効を主張する場合には「他人の物と知らなかったこと」が必要です。しかし、20年の場合は不要です。
このように、相談者は民法第162条に基づく20年の時効取得の要件を満たしていると考えられます。
税金を払っていたのは名義人だが、時効取得には影響しない
土地の固定資産税を支払っていたのは名義人であるA氏だったという点についても触れておきましょう。
この点はしばしば誤解されがちですが、時効取得においては、税金の支払いは必須条件ではありません。むしろ、現実に土地を誰が支配・使用していたかが重要です。
したがって、A氏が税金を納めていたとしても、相談者が長年にわたり土地を支配・耕作していた事実が重視されます。そのため、時効取得を否定する理由にはなりません。
名義人と交渉する際の注意点
名義人に対して「地番を譲ってほしい」と申し入れた場合、その行為が「相手の所有を認めた」と評価される可能性があります。
しかし、時効取得が成立している以上、「紛争を円満に解決するための交渉だった」と主張すれば問題はなく、時効の利益を放棄したとは認定されにくいです。
重要なのは、自分が土地の真正な所有者であるとの意思を持ち続けていたこと。その点を示す証拠や言動があれば、交渉自体が不利に働くことはありません。
所有移転登記請求訴訟を検討する
名義人との交渉が決裂した場合には、時効取得を原因とする所有移転登記請求訴訟を提起することが選択肢となります。
この訴訟では、自身がどのように土地を支配していたか、いつからどのように占有していたかなどを主張立証し、裁判所に登記の移転を命じてもらうことを目指します。
勝訴すれば、裁判所の判決を登記原因として、単独で登記を移すことが可能となります(不動産登記法第59条等)。
測量や境界確定の必要性
登記移転に向けた準備として、測量を行い、境界を確定しておくことも重要です。
特に、複数の地番が混在していたり、国土調査が曖昧なまま終わっていたケースでは、地積測量図や境界確認書の作成が、登記官とのやりとりにおいて大いに役立ちます。
測量は土地家屋調査士などの専門家に依頼し、正確な資料を整えておきましょう。
今後のトラブルを防ぐために
こうした土地の登記・境界に関する問題は、相続や代替わりの際に顕在化しやすく、対応が遅れるほど複雑になります。
今後に備えてできることは以下の通りです。
- 現状の使用状況を写真や図面で記録
- 境界確認書の作成や筆界特定制度の利用
- 専門家(司法書士・行政書士・土地家屋調査士)への相談
事前の準備と記録が、将来の法的トラブルを防ぎます。
まとめ
これまでの内容を整理します。
- 名義が他人であっても、20年以上平穏・公然に占有していれば時効取得が成立する可能性がある(民法第162条)
- 所有移転登記請求により、名義人に登記の変更を求めることが可能
- 固定資産税を名義人が支払っていても、時効取得には影響しない
- 名義人と交渉する際も、所有の意思を維持していれば不利にはならない
- 必要に応じて訴訟によって登記を移すことも視野に入れる
長年の耕作の実態には法的な保護が及ぶ場合があります。不安な点があれば早めに専門家に相談し、適切な手続きを進めましょう。
最後に
今回は、他人名義となっていた土地について、どのように対応し、所有権を取り戻すことができるのかを解説しました。
土地にまつわる問題は、法的な知識と冷静な対応が不可欠です。熊谷行政書士法務事務所では、このような農地に関する問題にも積極的に対応しております。
今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
この記事が農地に関する法律問題について学びたい方の参考になれば幸いです。
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