地域計画とは?農地を未来へつなぐ新たな法定制度の全貌

農地の未来を守る新たな仕組みとして「地域計画」が法定化されたことをご存知でしょうか?

近年、農業従事者の高齢化や後継者不足が進行し、耕作放棄地が増加しています。このような中で、地域の農地をいかにして次の世代へ引き継ぐかが、深刻な社会的課題となっています。

今回は、令和5年4月の法改正によって制度化された「地域計画」について、法的根拠や具体的な流れ、農地転用への影響などをわかりやすく解説します。農業者の方はもちろん、農地転用を検討している方や、地域づくりに関心のある方にも必読の内容です。

人・農地プランから地域計画へ:農林水産省


地域計画とは何か

地域計画とは、地域の農地を将来にわたって守り、活用するために、「10年後に誰がどの農地を使うか」を定めた法定の設計図です。

この制度は、農業経営基盤強化促進法(以下、基盤強化法)の改正により創設されたもので、同法第18条以降に規定されています。市町村が集落単位で作成主体となり、地域の農業者や関係機関と協議を重ねながら策定されます。

計画の中核をなすのは「目標地図」の策定です。この目標地図は、単なる参考資料ではなく、農地転用などの行政手続きにも影響を与える、法的な重みを持つ内容となっています。


地域計画が必要となった背景

地域計画の法定化は、現在の日本農業が直面する深刻な課題に対応するためのものです。具体的には、次のような背景があります。

農業従事者の高齢化

農業就業者の平均年齢は令和5年時点で68歳を超えており、高齢化が著しく進行しています。多くの農家が「あと何年農業を続けられるかわからない」という不安を抱えており、耕作の継続が困難になりつつあります。

人口減少による後継者不足

日本全体の人口減少とともに、農村地域でも若年層の流出が進んでおり、農業の担い手となる後継者が見つからない世帯が増加しています。その結果、農地の維持管理が難しくなり、使われないまま放置されるケースが多くなっています。

耕作放棄地の増加

農林水産省の調査によると、耕作放棄地は全国で約42万ヘクタール(2020年時点)に達しており、これは東京都の約2倍の広さに相当します。こうした放棄地の存在は、周囲の農地にも悪影響を及ぼし、害虫の発生や景観の悪化、不法投棄の温床となるなど、地域全体の農業環境を悪化させています。

農地の適切な利用が困難に

農地の所有者と実際の利用者が一致しないケースも多く、誰がどの農地をどのように使っているかが曖昧な地域もあります。また、個々の農家が高齢化して機械の更新ができず、大規模な機械化農業に移行できないといった技術的・経済的な課題も複合的に存在しています。


これらの問題が放置されると、農業の生産力は著しく低下し、日本の食料自給率の低下に拍車をかけることになります。さらには、農村地域の雇用・経済・景観・文化といった「地域の根幹」にも影響を及ぼすこととなり、過疎化・地域崩壊という深刻な事態を招きかねません。

このような現状を打破し、農地を守り、将来にわたって地域で持続的に活用していくためには、「誰が・どこで・何のために」農地を使うのかを地域全体で明らかにする必要があります。
その答えとして導入されたのが「地域計画」制度です。



地域計画の策定プロセス

策定は以下のようなステップで進められます。

  1. 意向調査(アンケート)
    地域の農業者や地権者に対して、将来の農地利用に関する意向を調査。
  2. 協議の場の開催
    農業委員会や農地バンク、JAなどの関係機関を含めた話し合いで、地域農業の将来像を共有。
  3. 地域計画の作成
    アンケート結果と協議内容を基に、市町村が目標地図を含めた地域計画を策定。
  4. 公表と実行
    計画は市町村のHPや窓口で公表され、実行段階に移行。
  5. 毎年の見直し(ブラッシュアップ)
    地域の実情に応じて柔軟に見直しや変更が可能。

地域計画と農地転用の関係

地域計画は、農業経営基盤強化促進法に基づいて策定される法定計画であり、農地の将来的な利用方針を明確に示したものです。そのため、この計画と整合しない形で農地を転用することは、地域農業全体の計画的発展を妨げることとなり、法的・実務的にも大きな影響を及ぼします。

特に、農地法に基づく転用許可の審査では、地域計画との整合性が重視されるようになっており、次のような手続きが必要になる場合があります。

地域計画の変更手続き

地域計画に記載された「目標地図」では、10年後の農地利用者が明示されています。この地図に反して第三者に農地を貸し出したり、住宅や資材置場などの非農業的な用途に転用する場合には、市町村を通じて地域計画の変更手続きが必要です。

ただし、計画の変更は簡単には認められず、地域の合意形成や協議が求められることから、相応の時間と労力を要するケースがあります。

農業振興地域整備計画からの除外(いわゆる「農振除外」)

対象農地が農業振興地域内の「農用地区域」に指定されている場合には、農業振興地域の整備に関する法律(農振法)に基づき、除外手続きが必要となります。

この農振除外の審査では、地域計画の目標と矛盾しないことが重要な要件とされており、地域計画との整合性が確認されない場合には、除外申請が却下される可能性もあります。

農地法第4条・第5条の転用許可申請

上記の手続きを経たうえで、さらに農地法第4条(自己転用)または第5条(権利移転を伴う転用)に基づく農地転用許可申請を行う必要があります。

この際も、申請内容が地域計画に沿ったものであるかが厳しく審査されます。たとえば、目標地図において「将来の耕作者」として指定されている農地を、商業施設や宅地開発などに転用しようとする場合は、原則として許可が下りない可能性が高いです。


転用を検討する際の注意点

  • 地域計画の内容(特に目標地図)を事前に確認する
  • 農業委員会、市町村の担当部署と早期に協議を行う
  • 必要な変更手続きや除外要件を満たすかを慎重に検討する
  • 時間的余裕をもって申請手続きに臨む

地域計画の法定化により、農地転用の難易度は以前に比べて確実に上がっており、従来の感覚で手続きを進めることはリスクを伴います。

したがって、転用を検討している方は、地域の農業方針や行政計画と齟齬が生じないよう、専門家のサポートを得ながら慎重に準備を進めることが重要です。


地域計画によって得られるメリット

地域計画を策定・実行することは、単に「計画を作る」ことに留まらず、地域の農業を次世代につなぐための根本的な仕組みづくりでもあります。この制度がもたらす主なメリットについて、以下に詳しくご紹介します。


1.耕作放棄地の減少

目標地図によって、10年後に誰がどの農地を耕作するかが明確にされるため、農地の空白(=耕作放棄)の可能性が事前に把握できます。耕作者が決まっていない農地は「耕作者募集中」として可視化され、農地バンクやJAなどを通じてマッチングが進められるため、放棄地の未然防止が期待されます。

さらに、地域内で耕作放棄地が生まれると害虫や雑草の繁茂、不法投棄の温床になるなど、周辺農家にとってもリスクが大きくなるため、その発生を防ぐことは地域全体の利益になります。


2.地域内での農地の有効活用

目標地図に基づいて農地の利用が計画的に進められることで、遊休農地の再活用や、耕作効率の向上につながる区画整理が可能になります。これにより、点在していた小規模な農地を集約し、機械作業の効率を高めたり、通行や排水の支障を解消したりすることができます。

特に、機械化農業や大規模経営を目指す農業法人にとっては、整った農地環境は参入の大きな後押しになります。


3.新規就農者の受け入れ体制の整備

地域計画では、地域内で将来的に空く農地や後継者のいない農地がリスト化されるため、新たに農業を始めたい人とのマッチングが容易になります。また、地域ぐるみでの受け入れを前提とした計画であるため、「孤立した新規就農者」を生まず、地域コミュニティへの円滑な溶け込みも期待されます。

行政やJAなども、新規就農者向けの支援制度を活用しやすくなり、結果的に担い手の確保と育成にもつながります。


4.農地の集積・集約化

小規模な農家が農地を手放しやすくなり、意欲と能力のある担い手に農地がまとまって渡ることで、農業経営の合理化・大規模化が進みます。農業機械や施設の有効活用も可能となり、収益性の高い農業が実現しやすくなります。

また、農地が集約されることで、土地改良や農業用水の管理などのインフラ整備も効率化でき、行政コストの低減にもつながります。


5.地域の農業経営の安定化

地域計画によって「将来が見通せる農業経営」が実現することで、農業経営者の経営判断がしやすくなり、無理な投資や縮小に歯止めがかかる効果があります。

たとえば、目標地図で10年後の農地利用が確定すれば、施設投資や作付計画を長期的に見据えて立てることが可能になります。さらに、農地の管理や継承が明確になることで、相続や売買時のトラブルも回避しやすくなります。


6.高齢農業者が安心して農地を託せる

高齢化が進む中、農地を「誰に託せばよいか分からない」という不安を持つ農業者は少なくありません。地域計画では、耕作者の候補が事前に目標地図に示されるため、農地を安心して譲る・貸すことができる体制が整います。

また、耕作意欲があるうちは自分で耕し、限界を感じたら目標地図に従って他者に託すといった柔軟な対応も可能です。このように、地域計画は「農地の終活」を進める上でも非常に有効です。


地域全体の持続可能性の確保へ

地域計画は農業者個人のメリットにとどまらず、地域社会全体の持続可能性を高める制度です。農業を基盤とした地域経済や雇用、景観、文化などの維持にもつながるため、地域づくりの中核的な役割を果たすことが期待されています。


まとめ

地域計画とは、「10年後に誰がどの農地を耕作するのか」を明確にすることで、農地の有効活用と持続可能な農業を実現するための法定制度です。令和5年4月の法改正により、農業経営基盤強化促進法に基づいて市町村による策定が義務化されました。

策定のプロセスとしては、農業者への意向調査、協議の場の開催、目標地図の作成、市町村による計画の公表と実行、そして毎年の見直しが含まれます。

地域計画と整合しない農地転用には、地域計画の変更手続き・農振除外・農地法の許可申請など複数の手続きが必要になり、転用のハードルが高くなっています。そのため、事前に地域計画の内容を確認し、行政や農業委員会と相談を重ねることが不可欠です。

最後に

今回は農地の地域計画の概要について解説しました。
地域農業を次世代につなぐためには、関係者全員の合意形成と計画的な農地利用が不可欠です。農地転用を検討されている方や、地域農業の将来に不安を感じている方は、当事務所へご相談ください。


今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が農地転用許可の取得を検討されている方の参考になれば幸いです。

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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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