農地の境界線トラブルに時効取得は使える?
農地を代々耕し続けてきた土地であっても、境界に関する問題は発生することがあります。
特に、境界線を示す明確な資料が残っていない場合、トラブルに発展することも少なくありません。
今回は、かつて農地改革で取得した土地の境界をめぐり、元地主と対立する事例をもとに、境界線の確定方法や時効取得の適用可能性について、民法や農地法に基づいて詳しく解説していきます。
目次
相談事例:祖父が開拓した農地の境界を元地主が否定
相談者は70代の男性。祖父が戦後に農地改革で取得し開拓した農地を、50年以上にわたって家族で耕作し続けてきました。境界線には当初目印としてマツが植えられていました。しかし、数十年前に枯れてしまったため、父親が代わりとなる目印を設置しました。それを基に今も耕作を続けています。
しかし最近、元地主が「目印は認めない」と主張し、境界線を改めて確定したいと申し出てきました。その主張どおりになると、現在耕作している面積より狭くなってしまうとのこと。
このような状況において、耕作してきた土地を守ることはできるのでしょうか?
そして「時効取得」は農地でも有効なのでしょうか?
境界線とは何か?土地所有の実態がカギ
土地の境界を確認するうえでの基本は、当事者双方が「現実に支配・管理している範囲」を基準に判断するという点です。
つまり、現実に耕作している面積までが、所有権の範囲と推認されることになります。今回の事例では、相談者が半世紀以上耕してきた面積がそのまま所有地として扱われる可能性が高いといえます。
元地主が「耕作している範囲の内側に境界がある」と主張するのであれば、その主張を裏付ける具体的な資料が必要です。何の根拠もなく、ただ「ここまでが自分の土地だ」と言われても、それは法的に通りません。
境界線の証拠として認められるものとは?
具体的な根拠資料として考えられるのは、以下のようなものです。
- 正確な測量図面(公的機関による地積測量図など)
- 境界標(測量用の杭、プレート等)
- 過去に設置された塀の基礎や木の切り株などの物理的痕跡
- 隣接地所有者との境界確認書や覚書
一方で、古い「字図」などの図面は、正確な位置を示すものではありません。境界線の根拠としては弱いとされます。
したがって、元地主が「測量図や現地の標識がある」と主張した場合、その信憑性と正確性を検証する必要があります。
時効取得は農地でも適用されるのか?
相談者のように、長年にわたって事実上の支配・管理を続けてきた場合、「時効取得」により所有権を得られる可能性があります。
この点については、民法に次のような規定があります。
重要なのは「所有の意思」「平穏」「公然」「20年以上」の4点です。
今回の事例では、相談者は農地改革で土地を取得しているので、元地主に地代を払っていません。完全に自己の土地として認識し、50年近く耕作してきたということであれば、これらの要件はすべて満たすと判断される可能性が高いです。
そのため、仮に元地主が具体的な資料を提示してきたとしても、それに対抗する手段として「時効取得の主張」は非常に有効です。
境界線の合意と登記手続きのすすめ方
境界をめぐる争いを長引かせず解決するには、双方の合意による「筆界確認書」や「境界確認書」の作成が理想的です。
このような書面があれば、登記官による境界認定や筆界特定の手続きがスムーズに進み、将来のトラブルを回避することにもつながります。
なお、もし元地主が境界確認に協力しない場合でも、土地家屋調査士を通じて筆界特定制度を利用することで、法的に境界を確定させることが可能です。
境界線トラブルを子孫に残さないためにできること
高齢になってからの境界トラブルは精神的にも大きな負担になります。ましてやその問題を次の世代に引き継がせたくないという気持ちは当然です。
まずは現状の耕作実態をしっかり記録に残し、元地主との交渉に備えましょう。航空写真や耕作記録を作成することなども有効です。
また、調停やADR(裁判外紛争解決手続)など、公的な第三者を介した解決手段も検討に値します。
そして、必要があれば時効取得の主張に基づく「所有権確認訴訟」の提起も視野に入れるべきです。
まとめ
これまでの解説をまとめます。
- 農地の境界は、実際の支配・管理(耕作)状況から推認される
- 境界を主張する側は、その根拠を測量図面や物的証拠により示す必要がある
- 時効取得は農地にも適用される。20年以上平穏・公然に占有していれば所有権を得られる(民法第162条)
- 境界合意書や筆界特定制度を通じた正式な手続きが有効
- 子孫に問題を残さないためにも、早めに解決に向けた行動をとることが大切
長年耕してきた土地には、法的にも守られる根拠があります。ぜひ冷静かつ適切な対応で、安心して農地を未来に引き継いでいきましょう。
最後に
今回は、農地の境界線をめぐって元地主と争いが起きた場合に、どのような法的対応が可能かについて詳しく解説しました。
今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
この記事が農地に関する法律問題について学びたい方の参考になれば幸いです。
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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
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