農地に埋めた産廃の処分代、売主は支払う義務があるのか?
農地を売却したあとに「まさかこんな請求がくるとは…」と驚かされた経験を持つ方は少なくありません。特に、売却前に埋められた産業廃棄物(以下「産廃」といいます)が原因で、処分費用の支払いを請求されたとなると、その理不尽さに憤りすら感じるでしょう。
今回は、「産廃を埋めた農地を売却したところ、後日買主から150万円もの処分代を請求された」という事例をもとに、売主の法的責任、処分費用を取り戻せる可能性、書面の有無による効力、そして根拠となる法令まで、法律の視点から詳しく解説いたします。
目次
相談事例:酪農をやめた土地に思わぬ請求が…
長年酪農を営んでいたAさんは、餌代の高騰を理由に牛と牛舎を手放し、農地(草地)も売却する決意をしました。しかし、その農地の一部には、かつて付き合いのあった産廃業者の依頼で産廃を埋めた過去がありました。
その事実を農地の購入希望者に伝えたうえで、一度は売却を断ったものの、相手はそれでも構わないと言い、最終的には売却契約が成立しました。
ところが、土地を購入した相手から後日、「埋まっていた産廃の処分費用150万円を支払ってほしい」と請求されました。驚いたAさんは、書面での確認がなかったこともあり、やむなく支払いに応じました。
果たして、この請求は妥当だったのでしょうか?
売主は本当に責任を負うのか?
結論から言えば、Aさん(売主)が必ずしも法的責任を負うとは限りません。
ポイントは以下の2点です。
- 買主は農地に産廃が埋められていることを事前に了承していた
- その了承は口頭でなされたものであり、書面での確認はなかった
これらの要素を踏まえたうえで、民法の条文を参照しながら解説していきます。
契約不適合責任の適用範囲
民法では、売買契約において売主に「契約不適合責任」が課されています。これは、引き渡された目的物(土地など)が、契約内容に適合しない場合に売主が責任を負うというものです。
買主の追完請求権
第562条
- 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
- 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。
つまり、農地に産廃が埋まっていることを買主が知らなかった場合、それは契約不適合となり、売主は責任を問われる可能性があります。
しかし、今回のケースでは農地に産廃が埋まっていることを売主が事前に説明し、買主がそれを承知して購入しています。そのため、契約不適合責任は発生しないと考えられます。
書面がなくても問題はない?
契約において、書面がなければ効力がないのでは?と心配になる方もいるかもしれません。
たしかに書面があれば紛れもなく「証拠」として機能します。しかし、民法上、売買契約は口頭でも成立します。つまり、口頭での説明と了承があったという事実を、何らかの形で証明できれば、それだけで法的効力が認められる可能性があるのです。
たとえば、
- 土地売買前の会話の録音
- 第三者の証言(立ち会っていた家族や仲介業者など)
- LINEやメールなどでのやり取り
などが証拠となりえます。
買主の調査義務と過失の有無
土地を購入する際、買主にはある程度の調査責任(デューデリジェンス)があります。特に、産廃が埋まっていると知っていたのであれば、買主がその質や量、土地利用への影響などを事前に調べるべきだったといえます。
これを怠った場合、買主の落ち度(過失)と見なされます。その結果として、処分費用の請求には無理があるという判断がなされる可能性が高いです。
第三者への責任はどうなる?
仮に、将来的にその土地を利用した第三者に被害(健康被害、建築障害など)が生じた場合はどうでしょうか?
この場合は、買主だけでなく、産廃を埋めた当時の所有者であるAさんにも責任が及ぶ可能性があります。これは、「不法行為責任」に基づくものであり、農地に産廃を埋めた行為自体が違法であったと評価されるためです。
(廃棄物の不法投棄の禁止)
廃棄物処理法第16条
何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない。
不法投棄に該当する行為である以上、損害が発生すれば、加害者(埋めた者)にも一定の賠償責任が発生し得るのです。
処分費用の返還は可能か?
では、一度支払ってしまった150万円の処分費用を、Aさんは取り戻せるのでしょうか?
これは非常に難しい問題です。
なぜなら、買主が「強引に請求してきた」とはいえ、Aさんが任意に支払ってしまった以上、「新たな合意が成立したのではないか?」という見方もされかねないからです。
ただし、「買主の請求は本来支払う必要のない不当なものだった」と主張し、話し合いによる返還交渉は可能です。場合によっては、不当利得返還請求(民法703条)などの法的手段を検討することもできます。
(不当利得の返還義務)
第703条
法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
話し合いの場を設ける意義
法的主張が正しいとしても、相手が納得しなければ問題は解決しません。まずは落ち着いて事実関係を整理し、以下のような内容をもとに交渉してみてください。
- 農地に埋めた産廃の存在は事前に伝えていた
- それを了承したうえで土地を購入している
- 書面はなかったが、口頭説明の証拠はある(可能であれば提示)
- 一方的な請求は不当であり、支払った費用の返還を求める
感情的にならず、冷静に「筋が通った説明」をすることが返還への第一歩です。
まとめ
今回のポイントは以下のとおりです。
- 売主は、産廃の存在を事前に説明していれば、基本的に責任を問われない
- 書面での確認がなくても、口頭説明の証拠があれば法的効力が認められることもある
- 買主には調査義務があり、それを怠った場合は過失とされる可能性がある
- 第三者に損害が生じた場合、売主にも責任が及ぶ場合がある
- 支払った処分費用は、不当利得返還請求などで取り戻せる可能性がある
産廃に関するトラブルは、一歩間違えると高額な損害や訴訟に発展することもあります。土地の売買においては、「説明義務」と「記録の保全」が何よりも大切です。
最後に
今回は、「産廃を埋めた農地を売却したあとに処分代を請求された」という事例をもとに、売主の法的責任や対処法について詳しく解説しました。
熊谷行政書士法務事務所では、農地に関するご相談を随時承っております。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。
今回は以上となります。
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